2009313(金)

感想文「空海の風景」


感想文「空海の風景」

「風が激しく吹きおこっているとする。そのことを自分の皮膚の感覚やまわりの樹林の揺らぎや通り行くひとびとの衣の翻りようや、あるいは風速計でその強さを知ることを顕教的理解であるとすれば、(中略)密教は全く異なっている。認識や近くを飛び越えて風そのものに化ることであり、さらに密教にあっては風そのものですら宇宙の普遍的原理に過ぎない。もし即身にしてそういう現象に化ってしまうにしても、それはほんのちっぽけな一目的でしかない。本来、風のもとである宇宙の普遍的原理の胎内に入り、原理そのものに化りはててしまうことを密教は目的としている。」

あとがきから、まず空海の持ち帰った密教について説明を抜粋しました。

空海の風景は、昭和50年、司馬遼太郎によって書かれました。前後編に分かれた長い小説です。

小説と前置きしたのは、これは紀行文かと思ったから。

でもそれは当たり前の話で、司馬氏がいろいろなところを実際に歩いてみてそこで知りえたことを文章化することを考えれば当然至極の感じ方ではないかと思います。

でも、この紀行という形こそが、現代の風景から、一気に、空海の見たであろう風景に持っていくこともまた効を奏しているといえます。

密教とは現世利益を求める宗派でもあります。
現在では千葉県の成田山新勝寺が一番有名でしょうか。
平将門を押さえ込んでいるお寺です。
そう。将門の祟りが、現世の人を苦しめないように、です。
でもその現世の人を苦しめないという部分が、商いを行なう人たちには魅力的で、恵比寿とともに商業を守るものでもあるようです。

それから、もうひとつの側面は、身体的な側面を持つと言う事です。男女の愛欲に見られるような現実と結びつく肉体をも菩薩とし高めることもあります。
空海が持ち帰った頃にはそういうことはありませんでしたが、発祥の地インドでは愛欲性欲を謳歌する大衆的なものになりましたし、日本でも時代をくだるほどにその傾向は出てき、江戸時代には真言立川流が出ました。

真言立川流については、とてもじゃないけど私の口からは語れませんゆえ、詳細はご自分でお調べください。


人により思うところはいろいろあるかと思うのですが、私が思うには、これは天才を追い求めた話、天才を掴むための葛藤ではないかと思うのです。

エジソンが、「天才とは99%の汗と1%のひらめきで作られる」と言ったように、空海は「99%の肉体を本能と理性を切り離すことなく切磋琢磨し、その上で彼岸からの啓示を受け取ったのではないか」、と。

いや現実に彼岸から何かを受け取ったというよりは、絶えずアンテナを伸ばし続けてかすかに感じたものを表現してきていたのではないかと。

空海という体、名前を持ちながら、空海の、人々に見せる姿は、蜃気楼のようにゆらゆらと定まり無く、私たちを、そして作家を翻弄する。

何故正体が定まらないか。
それは、空海がこの次元に存在していないということでもあります。

同じ人間でも、赤ん坊のときと老いたときでは姿が違う。もし、連続した時間軸を一気に見ることが出来たら、その姿は、赤ん坊にもどったり老いたり、ゆらめくと考えられます。

SFの好きな人にはわかるかと思うのですが・・・。
それこそが、空海の信じた密教が、宇宙の普遍的原理を求めたものであるといえるようです。

そうそう。
宇宙から出ている電波の話をご存知でしょうか。
知的生命体が発信している電波は強く、そうでないものは弱いのです。
これに似ているのが崇高なるものの波動です。
格が低いものはわかりやすく、高いものはわかりにくいのです。

階段の中ほどにたって、下を見ればよくわかるけれど、上を見てもなにがあるのかわからない・・・。

おそらく作者は、書を通して、文献を通して、他者の残したものを見て、手紙を見て、空海という定まらないものの正体を追いかけたのでしょう。
そして、彼の次元は私たちがいる次元ではなかったということがいえたのでしょう。

その証拠に、司馬氏は途中から空海その人より、最澄のことを語るのです。

30年近く前にかかれたものですが、空海の見た空と海の鮮やかさ、青さが目の前に広がるような新鮮さを持っています。
こ難しいのですが、読みやすいので、一度読んでみると、いろいろなものはかかわっているようでかかわっておらず、つながっていないようでつながっていない。

まさに般若心経のような「観」に触れることができるでしょう。






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