2008年9月25日(木)
運動会(2)
物語×41
“ | 運動会(1)から続きます。 |
タケルが、ちぇっといった顔をして戻ってきた。
近所の、大きなお姉ちゃんに、なにか言い渡されたらしい。さっきまでごたごた話しているのを見ていたから、なんとなく言われた内容がわかって、ミサはつい笑った。
いつもは、姉のヒメカと遊ぶついでに遊んでくれる近所のお姉ちゃんだけど、運動会の真っ最中では、ただ邪魔でしかなかったらしい。
「おにいちゃんたちの競技が終わったら、つぎ、走れるよ。応援しようね。」
気をそらそうとミサは話しかけた。
「あーヒメカぁー!」
ミサの声が聞こえないかのようにタケルの興味は向こうから走ってきた6年生の集団に集中した。
「タケルー。相変わらず声大きいねー」
ヒメカの苦い口調もタケルには気にならない。
にこにこして嬉しさを発散している。
「ぼくも、はるから、いちねんせいになうよ。ねんちょうさんだからね!!」
「タケル、ヒメカと一緒に学校通ってみたかった?」
「えー?いやだよー。タケル、言う事聞かないもん」
うん!とうなずくその横で笑いながら毒づく。
低学年の子どもが通学のときに道を外れていつも注意して歩いているから、真っ先にそれが頭に出たのだろう。
くっついて6年生らしからぬ遊びにムキになっているのを、ミサは毎日見ている。
寄ると触るとケンカ、自分のわがままを聞いてくれないと大の字になってごねるタケル、自分の遊びに付き合えないタケルをすぐ邪魔にするヒメカ。
でも離れて生きることなどまだ考えもつかない。
静かになって目を離し、気が付くと、また二人はくっついてケンカをしているのだった。
「ぼくは、ひめかといっしょに学校いってみたかった!」
タケルが言い終わると、競技が始まる放送が聞こえてきた。
ヒメカは、6年生に与えられた仕事で、そこに向かう途中だったらしい。
「じゃあ、そろそろ行くねー。タケル、かけっこ頑張って!」
「うん、ぼく、ばんばる!」
「が」がまだ上手に発音できないけど、心意気は誰にもまけないようだった。
それにしても暑いなと、ミサはぶりかえし思った。
ようやく落ち着きかけたタケルと並んでいると、
「あ、こんにちは」
同じ幼稚園に通う同じクラスのユート君がお母さんのリカが近づいてきた。
にこやかだった。
「タケル、ユート君が来たね。」
子ども達に目をやると、ユートくんは、人懐こい表情を浮かべてタケルの隣に座った。
だけどタケルは普段あまりユートと一緒にいるわけではないらしい。
ちょっと戸惑っている。
子どもも大人と同じように感情が動くんだな、と思う。
「来年はなんとか2クラスになりそうですよ。さっき見てきた。」
タケルのあまり打ち解けない様子をみて、目の前でに立ちすくむリカに、ミサは話しかけた。
明治に小学校制が出来てすぐに出来た、歴史だけはある田舎の公立小学校。
おじいちゃんおばあちゃんも通ったという人も多い。
田舎町の、一番田舎な部分を今も残し、一昔前の日本の情緒が生き残っている地域ゆえに、昔からのつながりが残っていて、世帯数も地域の特性のせいで増えない。
増えないのは行政区分のせいだから、おそらく今後も増えないだろう。
だからこの小学校では、毎年入学時のクラス編成が悩みのタネとなるのだった。
「うわぁ、よかった~1クラスだとなんか寂しいですもんね。」
「そうですよね。そうそう今年はウチの幼稚園から行く子供が多いから心強いですよ。」
「私、こないだの幼稚園の保護者会のとき、一緒の子数えちゃいましたよ!」
「私も!!」
おなじことを考えているものだ、と、二人は笑った。
ユートは、2年保育で入ってきた。
親子一緒の幼稚園の遠足で、はじめてリカを見たとき、あまりにも若く可愛いらしい、擦れていない姿を見て、ミサはリカが自分の半分くらいの年なのではないかと思ったぐらいだ。それがずっと印象に残って、春に同じクラスになったのをきっかけに、余計を承知で聞いてしまった。
「こんにちは」
「こんにちは、今日はお迎えですか?」
「私はいつもお迎えなんですよ、ミサさんは?」
「今日はリクエストがあったからお迎え。タケルは年取ってからの子どもだから、なんか甘くなっちゃう。タケルはマル高だったの、超音波検診が一回無料で、そのときに『あー自分はやっぱりいい年なんだって思った』」
その可笑しさに自分で笑って、リカもつられて笑った。
「ユート君は、早くにできたの?」
リカの顔が疑問の表情に変わった。
「ユートくん、年中さんから入られたでしょう?遠足のときに見かけて、『うわ~すごく若く可愛らしいお母さん、まだ10代?』なんて思ってて」
「・・いや・・私、今年30っす!結構普通に産んでます。」
「えっ?そうなの、それは・・すいません」
回りくどい質問の仕方をしてミサは恥ずかしくなった。
普通に年を聞けばよかったのかもしれないのに。
自分は聞かれるたびに、「普通に聞けばいいのに」と思っていた事を思い出してなんとなく困った。
そのとき困ったのはリカも同じだったらしいのが、見てわかった。
(続く)
近所の、大きなお姉ちゃんに、なにか言い渡されたらしい。さっきまでごたごた話しているのを見ていたから、なんとなく言われた内容がわかって、ミサはつい笑った。
いつもは、姉のヒメカと遊ぶついでに遊んでくれる近所のお姉ちゃんだけど、運動会の真っ最中では、ただ邪魔でしかなかったらしい。
「おにいちゃんたちの競技が終わったら、つぎ、走れるよ。応援しようね。」
気をそらそうとミサは話しかけた。
「あーヒメカぁー!」
ミサの声が聞こえないかのようにタケルの興味は向こうから走ってきた6年生の集団に集中した。
「タケルー。相変わらず声大きいねー」
ヒメカの苦い口調もタケルには気にならない。
にこにこして嬉しさを発散している。
「ぼくも、はるから、いちねんせいになうよ。ねんちょうさんだからね!!」
「タケル、ヒメカと一緒に学校通ってみたかった?」
「えー?いやだよー。タケル、言う事聞かないもん」
うん!とうなずくその横で笑いながら毒づく。
低学年の子どもが通学のときに道を外れていつも注意して歩いているから、真っ先にそれが頭に出たのだろう。
くっついて6年生らしからぬ遊びにムキになっているのを、ミサは毎日見ている。
寄ると触るとケンカ、自分のわがままを聞いてくれないと大の字になってごねるタケル、自分の遊びに付き合えないタケルをすぐ邪魔にするヒメカ。
でも離れて生きることなどまだ考えもつかない。
静かになって目を離し、気が付くと、また二人はくっついてケンカをしているのだった。
「ぼくは、ひめかといっしょに学校いってみたかった!」
タケルが言い終わると、競技が始まる放送が聞こえてきた。
ヒメカは、6年生に与えられた仕事で、そこに向かう途中だったらしい。
「じゃあ、そろそろ行くねー。タケル、かけっこ頑張って!」
「うん、ぼく、ばんばる!」
「が」がまだ上手に発音できないけど、心意気は誰にもまけないようだった。
それにしても暑いなと、ミサはぶりかえし思った。
ようやく落ち着きかけたタケルと並んでいると、
「あ、こんにちは」
同じ幼稚園に通う同じクラスのユート君がお母さんのリカが近づいてきた。
にこやかだった。
「タケル、ユート君が来たね。」
子ども達に目をやると、ユートくんは、人懐こい表情を浮かべてタケルの隣に座った。
だけどタケルは普段あまりユートと一緒にいるわけではないらしい。
ちょっと戸惑っている。
子どもも大人と同じように感情が動くんだな、と思う。
「来年はなんとか2クラスになりそうですよ。さっき見てきた。」
タケルのあまり打ち解けない様子をみて、目の前でに立ちすくむリカに、ミサは話しかけた。
明治に小学校制が出来てすぐに出来た、歴史だけはある田舎の公立小学校。
おじいちゃんおばあちゃんも通ったという人も多い。
田舎町の、一番田舎な部分を今も残し、一昔前の日本の情緒が生き残っている地域ゆえに、昔からのつながりが残っていて、世帯数も地域の特性のせいで増えない。
増えないのは行政区分のせいだから、おそらく今後も増えないだろう。
だからこの小学校では、毎年入学時のクラス編成が悩みのタネとなるのだった。
「うわぁ、よかった~1クラスだとなんか寂しいですもんね。」
「そうですよね。そうそう今年はウチの幼稚園から行く子供が多いから心強いですよ。」
「私、こないだの幼稚園の保護者会のとき、一緒の子数えちゃいましたよ!」
「私も!!」
おなじことを考えているものだ、と、二人は笑った。
ユートは、2年保育で入ってきた。
親子一緒の幼稚園の遠足で、はじめてリカを見たとき、あまりにも若く可愛いらしい、擦れていない姿を見て、ミサはリカが自分の半分くらいの年なのではないかと思ったぐらいだ。それがずっと印象に残って、春に同じクラスになったのをきっかけに、余計を承知で聞いてしまった。
「こんにちは」
「こんにちは、今日はお迎えですか?」
「私はいつもお迎えなんですよ、ミサさんは?」
「今日はリクエストがあったからお迎え。タケルは年取ってからの子どもだから、なんか甘くなっちゃう。タケルはマル高だったの、超音波検診が一回無料で、そのときに『あー自分はやっぱりいい年なんだって思った』」
その可笑しさに自分で笑って、リカもつられて笑った。
「ユート君は、早くにできたの?」
リカの顔が疑問の表情に変わった。
「ユートくん、年中さんから入られたでしょう?遠足のときに見かけて、『うわ~すごく若く可愛らしいお母さん、まだ10代?』なんて思ってて」
「・・いや・・私、今年30っす!結構普通に産んでます。」
「えっ?そうなの、それは・・すいません」
回りくどい質問の仕方をしてミサは恥ずかしくなった。
普通に年を聞けばよかったのかもしれないのに。
自分は聞かれるたびに、「普通に聞けばいいのに」と思っていた事を思い出してなんとなく困った。
そのとき困ったのはリカも同じだったらしいのが、見てわかった。
(続く)
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