2010108(金)

感想文「白夜行」


ほんの少しだけ内容をうかがい知れる箇所があります。

どうぞご注意ください。
職場の人から貸してもらって、読んだ。

2002年に文庫版が出されて、2006年にはドラマ化もされているという、東野圭吾の作品である。
名前はよく聞くが、実は彼の作品を読んだのは初めてだったり(汗
何をいまさらといわれるかもしれない。

ちょっとした辞書かと思うほど厚い文庫本。その厚さに始めは驚いた。
本は好きなのだが、長編は苦手なのだ。読めるかどうか不安だったが、昨日今日と2日間、時間で合計したら、6時間くらいで読めた。
連載時は短編で、刊行するためにそれをまとめたそうだから、いっきに読めたのかもしれない。


「昭和49年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は浮かぶが、どれも確証に欠け、結局事件は迷宮入りに」
その殺人事件の被害者と容疑者の子供たちが成長していく19年の間の話。まったく別々の道を進んだにも関わらず、二人の周囲にはいくつもの犯罪が立ち込める。

作中、桐原亮司は、「俺の人生は白夜を歩いているようなものやからな」とつぶやいている。

白夜。北緯66.6度(90度-23.4度)以北の北極圏、または南緯66.6度以南の地方を南極圏の夏に起こる。太陽が地平線ぎりぎりで沈まないので、真夜中になっても薄明るいという。反対に、冬には、太陽はまったく昇らない。
タイトルは、おそらくここからついたのだと思った。

さて、読み終わってみると、このお話は、現代(昭和49年から平成5年あたり)のはずなのに、どうも背景としては、吉原を思い出してならない。

並外れて美しい西本雪穂は、貧しい母子家庭だったが、母親が死んでからは、教養の高い女性の養女となり、茶道、華道、英会話などを学び、学業にもまい進する、優秀な女性。
大学を出てから一度結婚したが、主婦業の傍ら株で資産を増やし、仕事をはじめ、それを軌道にのせ社長になり、海外を飛び回り、みっつの店を経営する。一度目の結婚はうまくいかなかったが、再婚相手は、製薬会社の重役・・・。
しかし、彼女の周りでは、誰かが少なからず不幸に見舞われる。

もちろん、これだけでは結びつかない。
彼女が、なぜこのように成り上がっていったかという過程を見ると、いくらかネタばれに触れてしまうが、彼女は幼い頃、その美貌ゆえ魂を失うような体験をしている。
くいものにされた経験が隙のなさを産み、誰かを食い物にしてもかまわなくなった。
女郎が、手練手管と美貌で稼ぐのとどこか似ている。だからこそ結びついた。
地方から売られた貧しい娘がその美貌と店の仕込みで、花魁、太夫と登りつめ、豪商や大名のところに身請けされたみたいに見えるのだ。

もちろん、これは私個人の感想である。強いファンでもないので読み込みが浅いのかもしれない。

手練手管は桐原亮司も同じ。まだ誰も気がついていない、最先端技術の片隅でたえず、犯罪に手を染めて金を巻き上げる。

さまざまな技術が発展し繁栄を見せていながら、人の心だけが取り残されたように変わらない。いや、小説の中では、桐原亮司と、西本瑞穂の心の描写は一切ないための錯覚かもしれない。

ただふと思った。
人の心は、昔からあまり変わっていない。
変わりにくいからこそ、壊れやすいのかもしれない。






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