2008年10月8日(水)
専守防衛(1)
物語×41
“ | 長いので、分割してアップします。 ご了承ください。 |
どんな意味かはよくわからない。
13歳のサユリは、はじめて見る、その文字の持つ意味は何だろうと興味を持った。
聞けば、それはある組織の方針、らしい。
モッパラ防衛ヲ守ルということなのだろうか。
なんだか意味がつかめなくて、本棚から辞書を取り出して防衛の意味を調べた。
防衛-他からの危害(侵入・奪取)を防ぎ守ること。
じゃあ、専守防衛は、
「モッパラ他カラノ侵入・奪取ヲ防ギ守ル事ヲ守ル」
となって、守る事を守る、二重の意味になるのかな、と思わず苦笑した。
そこまでして守るものってなんだろうと思いながら、サユリはそんなこと、自分に関係ないと忘れて大きくなっていった。
その文字を次に見たのは、結婚してまもなくだった。
バブルがはじけ―それはバブルという名前の好景気の状態の終焉である―しばらく後に、関西で大きな大きな地震があった。
500キロメートル離れた東まで、その大きな凄まじい力を放出した揺れが届き、太陽も昇らないうちから、サユリは目覚めた。
部屋を見渡し、何事もなかったとそのまま二度寝をして、ようやく床から出てニュースを見るためテレビをつけたら、それがのちに阪神・淡路大震災と呼ばれる、大きな地震だと知った。
高速道路が破壊され、今にも落ちそうなバスの映像が繰り返し流された。
朝早くから工場を動かしている地域では、壁や天井が崩れて下敷きになった多くの人が救出を待っている間に、火に囲まれ亡くなったという、無残なニュースもあった。
何度も繰り返される破壊された映像を見て、サトルは言った。
「なんで自衛隊を派遣しないんだろうね、こういうときのためにあるのに」
「ええ?そうなの?」
「そうだよ?なんで?」
「私が居たところでは、そんな感じじゃなかった・・・。」
「じゃあ、どうだった?」
「学生のころ先輩から聞いたのは、ソ連がもし攻めてくるとしたら、上陸できる地域は一箇所しかないんだって、だからそこを守るためにあるって聞いた」
ソ連などとうにない。
「出動は総理大臣が決めるからね、これは責任を問われるだろうな。」
眉毛が白くて長い、それ以外はどんな政策をしたのかわからない、温厚そうな総理大臣がテレビに映って、サトルは話の矛先を変えた。
サユリは何も言えなかった。
サユリが聞いたことと、サトルが聞いていたことは違う、それだけがわかった。
サトルの親と同居するために50年以上経過した家を建て替え、5年経った。
「もういやだ・・・。なんでこんなに我慢しなくちゃいけないの?」
その言葉をつぶやくと、それまで我慢していた何かがまるであふれるように、サユリは、感情が高まるに任せて、人の声とは思えないような声を出し、さらに叫んだ。
(続く)
13歳のサユリは、はじめて見る、その文字の持つ意味は何だろうと興味を持った。
聞けば、それはある組織の方針、らしい。
モッパラ防衛ヲ守ルということなのだろうか。
なんだか意味がつかめなくて、本棚から辞書を取り出して防衛の意味を調べた。
防衛-他からの危害(侵入・奪取)を防ぎ守ること。
じゃあ、専守防衛は、
「モッパラ他カラノ侵入・奪取ヲ防ギ守ル事ヲ守ル」
となって、守る事を守る、二重の意味になるのかな、と思わず苦笑した。
そこまでして守るものってなんだろうと思いながら、サユリはそんなこと、自分に関係ないと忘れて大きくなっていった。
その文字を次に見たのは、結婚してまもなくだった。
バブルがはじけ―それはバブルという名前の好景気の状態の終焉である―しばらく後に、関西で大きな大きな地震があった。
500キロメートル離れた東まで、その大きな凄まじい力を放出した揺れが届き、太陽も昇らないうちから、サユリは目覚めた。
部屋を見渡し、何事もなかったとそのまま二度寝をして、ようやく床から出てニュースを見るためテレビをつけたら、それがのちに阪神・淡路大震災と呼ばれる、大きな地震だと知った。
高速道路が破壊され、今にも落ちそうなバスの映像が繰り返し流された。
朝早くから工場を動かしている地域では、壁や天井が崩れて下敷きになった多くの人が救出を待っている間に、火に囲まれ亡くなったという、無残なニュースもあった。
何度も繰り返される破壊された映像を見て、サトルは言った。
「なんで自衛隊を派遣しないんだろうね、こういうときのためにあるのに」
「ええ?そうなの?」
「そうだよ?なんで?」
「私が居たところでは、そんな感じじゃなかった・・・。」
「じゃあ、どうだった?」
「学生のころ先輩から聞いたのは、ソ連がもし攻めてくるとしたら、上陸できる地域は一箇所しかないんだって、だからそこを守るためにあるって聞いた」
ソ連などとうにない。
「出動は総理大臣が決めるからね、これは責任を問われるだろうな。」
眉毛が白くて長い、それ以外はどんな政策をしたのかわからない、温厚そうな総理大臣がテレビに映って、サトルは話の矛先を変えた。
サユリは何も言えなかった。
サユリが聞いたことと、サトルが聞いていたことは違う、それだけがわかった。
サトルの親と同居するために50年以上経過した家を建て替え、5年経った。
「もういやだ・・・。なんでこんなに我慢しなくちゃいけないの?」
その言葉をつぶやくと、それまで我慢していた何かがまるであふれるように、サユリは、感情が高まるに任せて、人の声とは思えないような声を出し、さらに叫んだ。
(続く)
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