2008108(水)

専守防衛(2)

物語×41

(続き)

サトルとサユリが結婚するときから、サトルは、いずれは実家に戻って生活をするとサユリに宣言した。

今住もうとしている部屋に、新しい家具を入れると引越しのときに厄介になる。そんな思いから、組み立て家具を選び求め、食器も100円均一で間に合わせ、寝具だってお互いが持ち寄ったもので暮らすという感じだった。
それでも、生活をするにはいろいろな家具が居る。
電化製品は、ひとりで暮らしていたサユリのものを引き継いで使った。

それでも、コタツの存在がサユリとサトルで食い違った。

サユリは、コタツに入って温まった体験が少ないものだから、そもそも必要などないと思っていた。もし用意しても、部屋の大きさに合わせたものでいいと思った。
だけれど、サトルは自分の体格の良さから考えて大きめのものを欲しがった。
幼い頃から冬はコタツ、となっていたサトルは、やはりその中でほんわかと休んだり眠ったりしたいのだった。

2時間電車を乗り継ぎ、朝早くから夜も早くない時間まで働く夫。
だから、とサユリは簡単に折れた。
良妻ぶってみたかったのかもしれない。

「2~3年の間には俺の実家に戻るから」

そんなことをサトルから呪文のように繰り返され、そうね、とサユリはそのたびにうなづいた。

しかし。

子どもが生まれても、
幼稚園に入る年を迎えても、
あれだけの宣言をしながらも、サトルは一向に戻る様子を見せなかった。

その間中、ずっとサユリはモノを片付けるのに閉口していた。

はじめに二人が住んだところは、間に合わせが前面に出すぎ、子どもがいる夫婦には狭すぎた。
3つの部屋に対して、押入れがひとつしか無いので、部屋のひとつは、プラスチックの収納ケースが積み上げられた。
間に合わせだからと腰までの高さしか無い食器棚からは、また間に合わせの少ない食器もあふれ始めた。
一人時代から引き継いだ小さな冷蔵庫には、子どもの好きなジュースも、みんなで飲む麦茶も、少ししか入れられなかった。
一日分の食材が入ってしまうと、いっぱいいっぱいになって、毎日買い物に行かなければならなかった。
でも、それでもよかった。

だってこれは間に合わせなのだから。

電化製品は、買い替えも考えていた。
だけれど、「戻る」といわれてしまうと、買い替えは余計な出費になってしまうと思うサユリはそれ以上言い出せなかった。

新しいところに行けば、また新しいものを買いたくなってしまうかもしれない。
それはずいぶんな贅沢だとサユリは思った。

「足らぬ、足らぬは工夫が足らぬ」。
そう自分に言い聞かせ続けた。


子どもが大きくなるにつれ、おもちゃや服が増えてきた。
畳の上に布団を敷いているので、寝る場所にも困るときがある。ベッドを用意することも考えたけれど、またそれには「引越し」と言う、うっとうしい言葉がついて回った。

幼稚園に入ると、通園服や幼稚園の備品などで、さらにモノが増えてきた。
子どもの友達だって遊びに来る。
子どもだけではなく、お母さんが一緒のこともある。

片付けても、片付けても、片付かない。
子どもが散らかしては、整頓し、服を汚しては着替えさせ洗濯し、毎日片付けることに心を吸い取られた。

家事は嫌いではないといっても、気の休まるときが無かった。

子どもにアトピーがあるとわかって、出来るだけ部屋を片付けてほこりを払っておかなければならないと神経症気味になった。

とうとう、その状態を耐えられなくなり、子どもが居るには狭すぎるそこから引っ越すことを、サトルに提案した。

「実家に戻るなら、早くしたい。ここではちょっと狭すぎるの。押入れがひとつしか無いのに、布団をしまってしまうと何もいれられないの。今までは子供が小さかったから、それでもよかったけれど、もうすこし片付けて心持ちさっぱりして過ごしたい。」

サトルは賛成とも反対ともつかぬようだった。
実家には実家の都合もあると暗に言われた。

かといって、一旦動いた心はもう留まらなかったし、留めることも出来なかった。

(続く)






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