2008109(木)

専守防衛(3)

物語×41

(続き)

実家に戻るという選択をサトルがしなかったので、サユリは部屋を探しはじめた。
一人で不動産に入って、条件を見、めぼしいところを選び、現物を見に行って、部屋の様子や使い勝手を見た。

駅から近いので、できるだけその場所から離れたくないとサトルが強く提案した部分は苦労したが、幸いに、今までのすまいの目と鼻の先、歩いて30秒ほどのところに、とても好ましい物件を見つけた。

部屋を見つけてみると、今更ながら、家具など全て間に合わせで、わくわくするような生活を夢見たような、ちゃんとした買い物さえしてこなかった事にサユリは気がついた。

毎日買い物に行かなくても良くなりたい、とか、食器が増えても片づけが楽になるようにしたい、とか、サトルの背広をちゃんとしまっておけるようにしたい、それが叶うことを考えるととても嬉しかった。

落ち着いて考えてみれば、それはサユリだけの勝手な理屈かもしれないと自責した。

だからサユリはまた動いた。
できるだけコストを押さえて、満足するためには、あちこちを探さなければならなかった。それは楽しいというより、苦しかった。

自分は何をやっているのだろう?
やめたほうがいいと誰かに言われているような気がする。
いや、これは本当は言われていて、それを自分が聞いていないだけなのではないだろうか。

でもやめれば、またイライラが募ることは目に見えている。

冷蔵庫と、食器棚と、洋服ダンスをサトルにことわった上でサユリは選び決断し、ようやく買い換えた。
それ以外は、相変わらず組み立て家具と一人暮らしの家電の生活だったが、間に合わせではなく、「まとも」な生活ができるような期待とそれに伴った安心感があった。


新しい住まいは今までと変わらない場所にあるようなものなので、相変わらずお店も近く、公園もあり、子どもの友達も多かった。
収納は押入れ二つ分あり、部屋もひとつ増えた。

また良心的な大家さんが持っていた所だったから、エアコンなどの備品をつけてくれたり、年数住んでいることでお礼を言われたり、原価償却を反映して家賃の引き下げをしてくれたりした。

その時が一番楽しかった。
サトルとサユリの間にも大きな揉め事はなく、柔らかくゆったりした時を過ごしていった。


それは当然長く続かなかった。

子どもが学校に上がる頃になって、将来的には転校させてもいいかな、と話した途端、サトルには何か感じるところがあったらしい。

ふってわいたように、家を建て替える話が持ち上がった。

なんだかわからない勢いがあった。

(続く)






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