2008年10月10日(金)
専守防衛(5)
物語×41
5(続き)
判ったつもりでも、その制約はやはり厳しかった。
神棚の上は誰も歩けないから物入れにするとか、
上下で住まいを分けたとき、階段の位置をどうするかとか、水回りの位置について、だとか。
やっぱりどうしようもないほど悩んだ。
親たちは実際に住んでいる、今の間取りで満足してまた同じ間取りにしようとしているが、その上に住む私たちは間取りを考えて決めなくてはならなかった。
折り合いをつけなくては、家は建たない。
モデルハウスを参考にしてみようと、話を聞いたら、モデルハウスはあくまで「見せる家」なので実際にすむとなると、ずいぶん不便な、金食い虫の面もありますよ、という話を聞いた。
家をつくるための本も参考になるかと思って、見た。
望みというのは、決まっているようで意外と漠然としているのだとサユリは思った。
できなかった部分ももちろんたくさんあったが、什器を決めるときや内装などに参考になった。
何度かにわたる打ち合わせの結果、決まった間取りは、一級建築士さんが、機能の割に部屋数もあるのに、ずいぶん総面積のすくない、最大限のコンパクトさだと、感心したほどに納まった。
何しろ義両親の居住面積の広さが半端じゃないから、私たちはコンパクトにするしかなかったのだ。
賃貸で暮らした経験の強みだとサユリは苦笑した。
間取りと平行して什器を決めていく。
殆どは現物がどんなものになるか、色はどうするかという確認のためなのだけど、サトルに任せておくと、家のなかで動くのは女だろうからと言って何も決まらない。
ほぼサユリの独断場でもあった。
工務店で用意してくれるものは、あくまでも最低限の使いよさなのだ。
親たちも、間取りはチェックしても、多彩すぎる什器には気がまわらないらしい。
井戸から水道に、かまどから電気炊飯器になった便利さ。
機能の面ではそのくらい違うのだけど、見た目は何も変わっていない難しさがあると思った。
サユリは工務店から渡されたカタログを見た。
台所、トイレ、お風呂、洗面台。
カタログを読み込むと、いろいろなオプションが見えてくる。
そのときほど家のことを勉強したことはないな、と思うほどカタログを見た。
見たというより読みこんで、一時的に什器メーカーの人より詳しくなった気さえした。
サユリはいつもサトルの身長が高いことを気にしていた。
顔を洗うと、腰を深く曲げることになるのだが、背が高い分どこかに無理がかかるらしく腰が痛いと笑っていた。
天井が低い前の家は、頭をぶつけそうになって猫背になっていた。
いつも見ていたので、サユリは洗面台の台座を高くした。子ども達にとっては高くて使いにくいかもしれなくなるが、子どもは伸びる。踏み台だってある。
蛇口が固定式だと掃除も大変なのでシャワー変換できる、伸びるものにした。
トイレも悩んだ。
洋式トイレが主流の現在、タンク一体型の手洗いはつねづね使いにくいと思っていたからだ。洗面台は踏み台を使えてもトイレで用を足した後に、トイレに昇って手を洗うのは、賃貸で子どもの様子をみていたサユリには違和感を持った。
それで、トイレの手洗いはタンクと別にした。
義両親もそれをならった。
カタログを見て気がついたことをくわしく話すと、困ることやそれでいいことの予想がつき、さらに展示会に足を運ぶとイメージが鮮明になるらしい。
私の考えていることは、コストがかかるのもありますよ、断ったけれど、やはり義両親も使い勝手がいいほうが良いのだなと思った。
それを嬉しいとは思ったけれど、ちょっと責任を問われるような気もしてサユリは気が抜けなかった。
その間にもおなかは日に日に大きくなった。
平らになって腕に小さい赤ん坊を抱えるようになってもしばらく、赤ん坊の首が座るまで、何度も打ち合わせをした。
カタログを見て、現物を見て、図面を見た。
配線を確かめて、高さを確かめて、内装を見た。
子どもの部屋だって、ぞんざいにはしなかった。
ほとんど全てに一番うるさかったサユリだったが、独りで決めることだけはしなかった。
サトルや義両親に相談し、意見を聞き、折れたり、折れてもらったりした。
その凄まじさをなんとかクリアして、古い家を解体し、基礎が始まり、着工に入り、家が建ち、越してきて、ついに5年目を迎えた年、サユリは爆発したのだった。
(続く)
判ったつもりでも、その制約はやはり厳しかった。
神棚の上は誰も歩けないから物入れにするとか、
上下で住まいを分けたとき、階段の位置をどうするかとか、水回りの位置について、だとか。
やっぱりどうしようもないほど悩んだ。
親たちは実際に住んでいる、今の間取りで満足してまた同じ間取りにしようとしているが、その上に住む私たちは間取りを考えて決めなくてはならなかった。
折り合いをつけなくては、家は建たない。
モデルハウスを参考にしてみようと、話を聞いたら、モデルハウスはあくまで「見せる家」なので実際にすむとなると、ずいぶん不便な、金食い虫の面もありますよ、という話を聞いた。
家をつくるための本も参考になるかと思って、見た。
望みというのは、決まっているようで意外と漠然としているのだとサユリは思った。
できなかった部分ももちろんたくさんあったが、什器を決めるときや内装などに参考になった。
何度かにわたる打ち合わせの結果、決まった間取りは、一級建築士さんが、機能の割に部屋数もあるのに、ずいぶん総面積のすくない、最大限のコンパクトさだと、感心したほどに納まった。
何しろ義両親の居住面積の広さが半端じゃないから、私たちはコンパクトにするしかなかったのだ。
賃貸で暮らした経験の強みだとサユリは苦笑した。
間取りと平行して什器を決めていく。
殆どは現物がどんなものになるか、色はどうするかという確認のためなのだけど、サトルに任せておくと、家のなかで動くのは女だろうからと言って何も決まらない。
ほぼサユリの独断場でもあった。
工務店で用意してくれるものは、あくまでも最低限の使いよさなのだ。
親たちも、間取りはチェックしても、多彩すぎる什器には気がまわらないらしい。
井戸から水道に、かまどから電気炊飯器になった便利さ。
機能の面ではそのくらい違うのだけど、見た目は何も変わっていない難しさがあると思った。
サユリは工務店から渡されたカタログを見た。
台所、トイレ、お風呂、洗面台。
カタログを読み込むと、いろいろなオプションが見えてくる。
そのときほど家のことを勉強したことはないな、と思うほどカタログを見た。
見たというより読みこんで、一時的に什器メーカーの人より詳しくなった気さえした。
サユリはいつもサトルの身長が高いことを気にしていた。
顔を洗うと、腰を深く曲げることになるのだが、背が高い分どこかに無理がかかるらしく腰が痛いと笑っていた。
天井が低い前の家は、頭をぶつけそうになって猫背になっていた。
いつも見ていたので、サユリは洗面台の台座を高くした。子ども達にとっては高くて使いにくいかもしれなくなるが、子どもは伸びる。踏み台だってある。
蛇口が固定式だと掃除も大変なのでシャワー変換できる、伸びるものにした。
トイレも悩んだ。
洋式トイレが主流の現在、タンク一体型の手洗いはつねづね使いにくいと思っていたからだ。洗面台は踏み台を使えてもトイレで用を足した後に、トイレに昇って手を洗うのは、賃貸で子どもの様子をみていたサユリには違和感を持った。
それで、トイレの手洗いはタンクと別にした。
義両親もそれをならった。
カタログを見て気がついたことをくわしく話すと、困ることやそれでいいことの予想がつき、さらに展示会に足を運ぶとイメージが鮮明になるらしい。
私の考えていることは、コストがかかるのもありますよ、断ったけれど、やはり義両親も使い勝手がいいほうが良いのだなと思った。
それを嬉しいとは思ったけれど、ちょっと責任を問われるような気もしてサユリは気が抜けなかった。
その間にもおなかは日に日に大きくなった。
平らになって腕に小さい赤ん坊を抱えるようになってもしばらく、赤ん坊の首が座るまで、何度も打ち合わせをした。
カタログを見て、現物を見て、図面を見た。
配線を確かめて、高さを確かめて、内装を見た。
子どもの部屋だって、ぞんざいにはしなかった。
ほとんど全てに一番うるさかったサユリだったが、独りで決めることだけはしなかった。
サトルや義両親に相談し、意見を聞き、折れたり、折れてもらったりした。
その凄まじさをなんとかクリアして、古い家を解体し、基礎が始まり、着工に入り、家が建ち、越してきて、ついに5年目を迎えた年、サユリは爆発したのだった。
(続く)
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