200913(土)

枯(2)

物語×41

タイトル「枯」は、ただ一文字「こ」です。

(続き)

 出血がひとつきに2回あった。
 それが3ヶ月続いた。

 たいていの女は、自分の体のリズムを知っている。それが大きく崩れるのは原因がある。例えば、喜ばしい原因では子どもを授かったとき。しかしハルにはそれはもう当てはまらない。

 二人目の子供を授かったとき思いがけなく難産で、次にもし子どもが出来たらそれで母体を損なう危険があるといわれた。もし損なわなくても経済的な面ではもう難しかった。
 だから確率の高い避妊手段を選んだ。
 選ばざるを得なかった。それには定期健診もあり、もちろんきちんと受けていた。だからこれは妊娠では、ない。
すると、出血の原因は、体の異常に直結すると考えられてしまう。

 ただホルモンバランスの異常なのか、
 それとも身体的に出来た腫瘍・潰瘍のたぐいか。

 若い頃から遅れがちという生理不順を持ってはいたけれど、特に悩まされてきたことはなかったハルだったが、今回の過剰ともいえる出血の回数に異常は感じていた。

「精神的にいろいろあったからだな・・・。」
と。

 夫にそれをちらりと話したら、すぐに病院に行くように勧められ、ハルもそうすることにした。


 初めは、子ども達を産んだ病院を訪れた。しかし以前の、担当の先生は病気で休職されていた。
 母体に積極的に働きかけて出産する人工のリズムではなく、子どもが生まれてくるのをただ待ってくれる自然のリズムに合わせて子どもを産ませてくれる病院だった。
 哺乳類の多くが夜にお産をするのと同じように、人もまた夜に分娩を始めるようで、多くの子供が夜中に生まれるままにしてくれてもいた。
 たいていは朝方に出産となるらしいが、経産婦は分娩が早い傾向にあるので、そういったときでも先生がそれに合わせて出動してくれていた。
 昼間は妊婦検診や婦人科の診察を行なっていたから、先生が若い頃から積み重なった負担や疲労は少なくなかったに違いない。

 ハルが婦人科でお世話になった先生は、その先生しかいない。分娩の様子、その後の経過全てを見てもらっていたから、ハルは困った。困ったあげく、先生に直接電話をしてみると、先生はハルのことを覚えてくれていた。電話で様子を離すと、先生は知り合いの医師のいる病院を教えてくれ、ハルはそこを訪れた。

 まず内診があった。2回の出産を経ても、内診にはどうしても慣れない。いや、慣れたくはない。
 診察台に乗らされたハルは、目をつむりながら、腹の中を探られる気持ち悪さと、医療器具を突然突っ込まれた痛さに耐えていた。一枚布の向こうからは、医師が独り言のように話すのが聞こえてくる。ハルはそれをぼんやりと聞いていた。毎月2回出血するから貧血になりかかっていたのかもしれない。

「あなたいくつ?」

 ふと呼びかけられて、ハルは慌てて年を答えた。
 答えを聞いて、医師はうーんと声を漏らした。

「卵巣が片方は腫れているんだけど・・・、片方は動いていないように思えるんだよ。この超音波での造影はわかるかな?・・・ほら右側はこんなに張れて・・・何か溜まっているんだと思うけど、片方は萎縮しちゃっているように小さいんだ。」

 それはハルをぎょっとさせた。
 婦人科の部分ではハルはそれほど不健康なものはなかったのに。
 出産以外では今まで驚くような出来事はなかったのに。
 それなのに今、
「卵巣が腫れている」
ときけば、それは何か病気の前触れなのかと、覚悟をするに十分過ぎる言葉だった。

「一度検査をしましょう。見ただけではわからないものもあるから。」

 その日は、出血の様子や経過、生理の周期、出血の様子やその日数を話し、そこで一旦診察を切り上げて、採血室に回った。
 思いがけない言葉に、ハルはショックでいつもなら普通に椅子に座って血液を抜くところを、備え付けのベッドに寝て取った。心の動揺で立っていられなかった。

家にもどっても、子どもや夫に食事の支度をするのが、精一杯だった。

(続く)






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