2009年1月10日(土)
枯(9)
物語×41
(続き)
ハルは、アキさんの指導下に入って、束の間、ほっとした。とにかく、修理に一番多くやってくるもの、甲手をしっかり修理する方針でいくといわれた。
アキさんの指導は厳しい反面、とてもわかりやすかったし、なにより親切で優しかった。
リーダーはそれにもいちいち介入した。アキさんとハルをなんとか離そう離そうと毎日躍起になっていた。もちろんその裏には、ハルヨもいる。
ハルヨはリーダーを影でけしかけ続けた。
お昼休みにハルヨは携帯をいじっている。目の前で、リーダーの携帯の音がなる。
そんなことをしょっちゅうやっていれば、何かやっているなと思うほうが当然といえよう。証拠を探すことはしなかったが、大体行動が一致しているのを見れば、つながっているとすぐわかる。
ばれていないと思ってもばれているのだ。特によくないことは。
ハルは、休日でも安心など出来なかった。彼女達は、休んだ人の仕事の仕上がり、出来上がりを事細かに観察して、重箱の隅をつつくようなミスを見つけてはヒステリーを起こした。そんなヒステリーに振り回されるたびハルは落ち込んで行った。
アキさんはハルに練習を勧めた。
「なんとか、リーダーに聞かなくても修理を一通りこなせるようになるには数をこなすしかないから」
質を量でカバーする作戦を持ってきた。ハルはそれに素直に従った。
社員にお願いして、練習用として、針や糸や壊れた防具を貸してもらった。もちろんアキさん以外パート全員には絶対内緒で、と含めて。
どうしたらいいのか、
自分のどこが悪かったのか、
自分を責めた。
責めすぎて、涙をこぼしながら、指に針がささっても痛いとも騒がず、血が流れて服についているにも気がつかず、ただ練習を続けた。
そばで見ていた夫は言った。
泣きながら練習するハルを見るのは嫌だ、
練習はいい、そういう前向きなハルは大好きだ。
でも、何故泣くのだと。
四六時中精神的に落ち着くことはなかったけれど、そんな練習の甲斐があって、ハルはアキさんの下でどんどん上達していった。あと2ヶ月もすれば、ハルはおそらく甲手に関しては、修理の殆どを賄えるようになるだろうと思われた。
面と垂れの修理で一番長けているのはアキさんだったから、その部分に関われば、金輪際リーダーと関わらなくてもいいのだ。
だがアキさんの指導は半端なく厳しかった。細かい部分を、ほとんどあら捜しするようなリーダー達の目を超えるには、完璧にするしかないのだ。アキさんもハルもそれを目指していて、きつかった。
「あの人たちは、あなたがいることが嫌なのよ。仕事は出来るのだから頑張って」
そういわれて、二重につらかった。
しかし、押さえ込んでひたすら耐えた。
アキさんだって、私をかばって立っているのだから、と。
そういった、好ましくない全ての条件が、ハルを異常に早いスピードで職人に近づけたのだが、そうなって初めてリーダー達はぎょっとしたらしかった。
それまでは、ハルは仲間はずれにする形でいじめられたのだが、上手になって使えるようになってくると、下に入れと絡むようになった。まるで自分たちが育てたといわんばかり、大人しく言う事を聞かせて仕事を押し付けるために。
リーダーたちの下で指導を受けているスウコは、いまだに全く仕事ができないと言って良いほど、できなかった。当たり前だ、スウコの指導すら、実はこっそりアキさんが教えていたのだから。でもスウコはきかない。リーダーがハルにヒステリーの目を向けている間、スウコはぬくぬくと、ただ太っていた。
ハルは怒りたかった。だけど怒りをあらわに出来なかった。怒ると言う事が判らなくなっていた。ひとたび怒れば、爆発に近いくらいの大きさで怒鳴るかもしれない、そんな風に自分を見失うようなことをただ恐れた。
「同じステージになることはないよ」
とアキさんも言ったことが影響した。
だが、限界はハルの知らないうちに、速度をあげて近づいてきていた。
(続く)
ハルは、アキさんの指導下に入って、束の間、ほっとした。とにかく、修理に一番多くやってくるもの、甲手をしっかり修理する方針でいくといわれた。
アキさんの指導は厳しい反面、とてもわかりやすかったし、なにより親切で優しかった。
リーダーはそれにもいちいち介入した。アキさんとハルをなんとか離そう離そうと毎日躍起になっていた。もちろんその裏には、ハルヨもいる。
ハルヨはリーダーを影でけしかけ続けた。
お昼休みにハルヨは携帯をいじっている。目の前で、リーダーの携帯の音がなる。
そんなことをしょっちゅうやっていれば、何かやっているなと思うほうが当然といえよう。証拠を探すことはしなかったが、大体行動が一致しているのを見れば、つながっているとすぐわかる。
ばれていないと思ってもばれているのだ。特によくないことは。
ハルは、休日でも安心など出来なかった。彼女達は、休んだ人の仕事の仕上がり、出来上がりを事細かに観察して、重箱の隅をつつくようなミスを見つけてはヒステリーを起こした。そんなヒステリーに振り回されるたびハルは落ち込んで行った。
アキさんはハルに練習を勧めた。
「なんとか、リーダーに聞かなくても修理を一通りこなせるようになるには数をこなすしかないから」
質を量でカバーする作戦を持ってきた。ハルはそれに素直に従った。
社員にお願いして、練習用として、針や糸や壊れた防具を貸してもらった。もちろんアキさん以外パート全員には絶対内緒で、と含めて。
どうしたらいいのか、
自分のどこが悪かったのか、
自分を責めた。
責めすぎて、涙をこぼしながら、指に針がささっても痛いとも騒がず、血が流れて服についているにも気がつかず、ただ練習を続けた。
そばで見ていた夫は言った。
泣きながら練習するハルを見るのは嫌だ、
練習はいい、そういう前向きなハルは大好きだ。
でも、何故泣くのだと。
四六時中精神的に落ち着くことはなかったけれど、そんな練習の甲斐があって、ハルはアキさんの下でどんどん上達していった。あと2ヶ月もすれば、ハルはおそらく甲手に関しては、修理の殆どを賄えるようになるだろうと思われた。
面と垂れの修理で一番長けているのはアキさんだったから、その部分に関われば、金輪際リーダーと関わらなくてもいいのだ。
だがアキさんの指導は半端なく厳しかった。細かい部分を、ほとんどあら捜しするようなリーダー達の目を超えるには、完璧にするしかないのだ。アキさんもハルもそれを目指していて、きつかった。
「あの人たちは、あなたがいることが嫌なのよ。仕事は出来るのだから頑張って」
そういわれて、二重につらかった。
しかし、押さえ込んでひたすら耐えた。
アキさんだって、私をかばって立っているのだから、と。
そういった、好ましくない全ての条件が、ハルを異常に早いスピードで職人に近づけたのだが、そうなって初めてリーダー達はぎょっとしたらしかった。
それまでは、ハルは仲間はずれにする形でいじめられたのだが、上手になって使えるようになってくると、下に入れと絡むようになった。まるで自分たちが育てたといわんばかり、大人しく言う事を聞かせて仕事を押し付けるために。
リーダーたちの下で指導を受けているスウコは、いまだに全く仕事ができないと言って良いほど、できなかった。当たり前だ、スウコの指導すら、実はこっそりアキさんが教えていたのだから。でもスウコはきかない。リーダーがハルにヒステリーの目を向けている間、スウコはぬくぬくと、ただ太っていた。
ハルは怒りたかった。だけど怒りをあらわに出来なかった。怒ると言う事が判らなくなっていた。ひとたび怒れば、爆発に近いくらいの大きさで怒鳴るかもしれない、そんな風に自分を見失うようなことをただ恐れた。
「同じステージになることはないよ」
とアキさんも言ったことが影響した。
だが、限界はハルの知らないうちに、速度をあげて近づいてきていた。
(続く)
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