2009114(水)

枯(14)

物語×41

(続き)

 SNSサービス展開のサイトの、ネットサーフィンをしていたときだ。ある人の日記で、ある急成長の企業が倒産して驚いたという記事を載せていた人がいた。

 個人で購入できない経済雑誌にその詳細が書かれていたとあったので、ハルはその「経済雑誌の記事」に興味を持った。
 というのは、その会社の売り方に関わるトラブルは、操作されていると思うほどに、槍玉に挙げられてネットに取り上げられていたからだ。よくよく調べてみれば、たったひとつのトラブルが原因なのだが、着物の売り方は大同小異こそあれ、結局は似てしまうので、これはひとつのトラブルが強調されたもので、消費者の積み重なった鬱憤が発散したのだと思った。
 
 だから、ハルは、その記事に興味を持った。
風評と経済誌では、どちらに世間への影響力が強いのかを知りたかった。
それで、
「その記事にとても興味があるので、読ませてもらえませんか?」
と、コメントを入れた。

 それは結構考えた上で入れたものだ。考えて入れたということは入れたくなかったということでもある。一度別のところで、その人の書き込みを見たことき、そのありように、ハルは瞬時に警戒音を鳴らしたのだ。重箱の隅をつついたような嫌らしさのある追求の仕方。係わり合いになったら大変なことになるかもしれないと思った。

 おそらくネットという間接的関わりでなければ、関わることなど決してなかったろう。その他の書き物を読ませてもらった感想も、自我の壁を破らず当たりさわりないことを、激しい口調で言いたてるだけものもあると思った。

 それでもコメント自体は軽かった。だから、この軽いコメントから始まったことが、ハルの全てを左右するほどになっていくとはそのときは思わなかった。

 返事をまつのは、怖かった。入力作業を考えると、それは断られても仕方ないので、よいのだけれど、断られるだけならまだしも、相手は余計な事を追求しそうな人という先入観もあって、コメントを待つ間の気持ちはずいぶん重かった。

 返事は思いのほか早く書かれていた。
 だが、ハルは拍子抜けした。そこには、ハルが入れたコメントへの返事ではなく、ハルの個人ページに張ってある、プロフィールの写真に対してのコメントだったからだ。着物ブログを持っていたから、着物姿の自分を貼っていた。それを珍しがられ、からかわれた。

 ハルはしかし、それで安心したのか、SNSからメールを送ってまたお願いを繰り返した。ハルが気にしていた記事の話は答えてもらえなかったが、やりとりは続いた。

 やりとりは楽しかった。SNSの自分のページを開くのがまどろこっしくて、自分からアドレスを教えもした。それは相手を信頼しているという、己の信頼感を証明するようなものだったと思う。

 直接メールのやりとりになると、送信時間などもわかるようになる。詳細を見ると、どうも朝早く起きて書いてくれているらしい。
 それを見て、今度はハルから、からかいのメールを送った。

「夜明けにコーヒー飲むのですね?」
と。

 ホテルでMAKINGLOVEして朝に一緒にコーヒーを飲む。
 ハルが若い頃に流行っていた台詞。まるで合言葉のようにあちこちで言われていて一種のギャグの感覚だった。だから、その世代の男だから通じると、面白がってくれると思ったのだ。
 その男にちょっと興味がわいていたのだろう。

 ところが、彼の返してきたメールはつまらなかった。タイトルからして、「私が飲むのは水です」と言っていた。輸入物や各地の名水が流行っていたから、そういったものへハルは興味を移したが、彼は「これは水道水です、水のおいしい地方だから、これが一番です」というわけのわからない理屈を並べ立てた。

「ああ、そう・・・」
ハルは次の会話を探すのに苦労した。

 彼は、こういう意図的な外しが好きだったのだろう。生まれ変わったら石になりたいとか、なんだとか、聞いた。はずしが好きでなければ、ちょっと無責任なのかもしれない。自分で、タネをまいておいて、その種が目を出し育てば、「俺がまいた」といい、その種が目を出さなければ、「種が悪い」というタイプかもしれない。

 だが目の出ない要素としてはいろいろ考えられる。その種は、本当に目の出ない弱いものだったのかもしれない。それなら理屈は正しい。
 しかし、もしかして、鳥や小動物の飢えを満たしたかもしれない。この場合はそんなところに植えたものが間違っている。
 または、目は出たけど、枯れてしまったのかもしれない。こまめに世話をすれば、枯れないで残ったかもしれない。それは、種まく人がいかに手をかけなかったか、顕わにする。

 そういったことは全く考え付かない狭い視野の薄っぺらい世界の積み重ねで、彼は構築されていたのかもしれない。

今となって、思うことではあったけれど。

(続く)







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