2009年1月15日(木)
枯(15)
物語×41
(続き)
更に彼は、
「私は、もう枯れているんですよ」
とつなげて来た。
当時30半ばのハルは、30代から40代に移行するときの体の微妙な変化があるらしいということは感じていた。それはハルより年上の夫を見ていればすぐにわかったから。
だ けどまだ自分には起っていない。だってまだ30半ばなのだから。
事情はよくわからないが、体調を崩し、それに苦しんでいるのだろうかと思った。
周囲にそういう関心を持ってくれる人がいるだろう、とも思ったから奥さんの話を振った。彼に奥さんが本当にいたのか、そのときまでよく知らなかった。
何しろ、まるで他人と住んでいるかのような、距離を感じさせる言い方をしていたから。
でもある程度親しくなったからと、身近には言いにくい事を、言ってきたのかもしれない。それほど不安でたまらないのかもしれない。誰でもいいから相談してみたかったのかもしれない。
周囲と違うことで孤立してしまう辛さをハルはよく知っていた。知っていたからこそ、ハルは触れないで流すことはせず、まっすぐに向き合う気持ちをきちんとのせて、メールを送った。
話を突き詰めて落ち着いて聞いてみれば、奥さんとあまり良い関係を築けておらず、すでに今は危い状態になっており、その以前から、もう自分の肉体的なものは一切反応しないだろうと、というようなことだったと思う。
匿名の顔も知らないということもあったかもしれない。
顔を見られる恥ずかしさも少なくて話しやすかったのかもしれない。
でも、ここまで他人のハルにいうのは、もがいてもがいて、諦め切れなくて、藁をも掴んでいて、それでもまだあきらめきれないと嘆いている状態なのか。
その状態すらどうにもコントロールできないと嘆いているのか。
枯れたくない、枯れたくないと切に思っているのに、それをどうやって表現すればいいのか、手段を探しているがそれが見つからず自棄になって「枯れている」といっているのか。
ハルも苦しくなった。
心配してもどうにもならないことだけど気になって仕方がない。
孤独は辛いのだ。だから辛さに耐えるために手助けする人を闇雲に探しているのだとハルは思った。だから、彼ののばした手をハルはつかもうとした。
使えるか使えないか。
男性の場合ならいくらでも行くとこはあるような気がする。ハルはそういう世界は知らないけれど、無いと思っているほどでもない。
それはいやなのだろうか?
ハルが心配する義理立てなど、本当はないから、自分に何度も確かめた。
いや、多分嫌なのだろう。だから言ってきたのだろう。ハルは勝手にそう思った。
しかし、そう思うように仕向けられたのもまた間違いなかった。
特殊な事情は、人を特殊な気持ちにさせるらしい。それでハルはそのとおり、それまで一切しなかったことをしようというところまで考えを進めてしまった。
直接会って話を聞いてみよう、と。
このままやりとりを重ねていても、気持ちが重くなるのはハルのほう。
直接会って、密に話すことで、何か解決の糸口を見られるのなら、それだけでも価値がある、と思った。
男性と会うときに、そういった微妙な問題があるのは、危険だと思いはしたが、動き出したものを止めるのは簡単ではなかった。
だからハルはある種の覚悟もした。ともすると全ての崩壊をもたらすかもしれない、覚悟。夫のことを大切に思ってはいたけれど、永い春を迎えての結婚、子どもも二人授かって、倦怠期にかかっていたのかもしれない。その倦怠の度合いが大きかろうが小さかろうが、ネットを介した擬似的な恋は、ハルの心を溺れさせるのに十分だった。
もしも枯れている男が望んできたら、ハルが選ぶことの出来る答えはただひとつしかないとわかっていた。選択の余地は全くない。それでも会おうとした。
会おうと、
会うべきだと、
会いたいと、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 思った。
文章から垣間見ただけの、垣間見ただけだからこそ、その人のことが好きになったのかもしれない。時折交換する携帯メールを打つ時でさえ、ハルの指はいつもかすかに震えていた。
それが緊張なのか、喜びなのかまでは、わからなかった。
(続く)
更に彼は、
「私は、もう枯れているんですよ」
とつなげて来た。
当時30半ばのハルは、30代から40代に移行するときの体の微妙な変化があるらしいということは感じていた。それはハルより年上の夫を見ていればすぐにわかったから。
だ けどまだ自分には起っていない。だってまだ30半ばなのだから。
事情はよくわからないが、体調を崩し、それに苦しんでいるのだろうかと思った。
周囲にそういう関心を持ってくれる人がいるだろう、とも思ったから奥さんの話を振った。彼に奥さんが本当にいたのか、そのときまでよく知らなかった。
何しろ、まるで他人と住んでいるかのような、距離を感じさせる言い方をしていたから。
でもある程度親しくなったからと、身近には言いにくい事を、言ってきたのかもしれない。それほど不安でたまらないのかもしれない。誰でもいいから相談してみたかったのかもしれない。
周囲と違うことで孤立してしまう辛さをハルはよく知っていた。知っていたからこそ、ハルは触れないで流すことはせず、まっすぐに向き合う気持ちをきちんとのせて、メールを送った。
話を突き詰めて落ち着いて聞いてみれば、奥さんとあまり良い関係を築けておらず、すでに今は危い状態になっており、その以前から、もう自分の肉体的なものは一切反応しないだろうと、というようなことだったと思う。
匿名の顔も知らないということもあったかもしれない。
顔を見られる恥ずかしさも少なくて話しやすかったのかもしれない。
でも、ここまで他人のハルにいうのは、もがいてもがいて、諦め切れなくて、藁をも掴んでいて、それでもまだあきらめきれないと嘆いている状態なのか。
その状態すらどうにもコントロールできないと嘆いているのか。
枯れたくない、枯れたくないと切に思っているのに、それをどうやって表現すればいいのか、手段を探しているがそれが見つからず自棄になって「枯れている」といっているのか。
ハルも苦しくなった。
心配してもどうにもならないことだけど気になって仕方がない。
孤独は辛いのだ。だから辛さに耐えるために手助けする人を闇雲に探しているのだとハルは思った。だから、彼ののばした手をハルはつかもうとした。
使えるか使えないか。
男性の場合ならいくらでも行くとこはあるような気がする。ハルはそういう世界は知らないけれど、無いと思っているほどでもない。
それはいやなのだろうか?
ハルが心配する義理立てなど、本当はないから、自分に何度も確かめた。
いや、多分嫌なのだろう。だから言ってきたのだろう。ハルは勝手にそう思った。
しかし、そう思うように仕向けられたのもまた間違いなかった。
特殊な事情は、人を特殊な気持ちにさせるらしい。それでハルはそのとおり、それまで一切しなかったことをしようというところまで考えを進めてしまった。
直接会って話を聞いてみよう、と。
このままやりとりを重ねていても、気持ちが重くなるのはハルのほう。
直接会って、密に話すことで、何か解決の糸口を見られるのなら、それだけでも価値がある、と思った。
男性と会うときに、そういった微妙な問題があるのは、危険だと思いはしたが、動き出したものを止めるのは簡単ではなかった。
だからハルはある種の覚悟もした。ともすると全ての崩壊をもたらすかもしれない、覚悟。夫のことを大切に思ってはいたけれど、永い春を迎えての結婚、子どもも二人授かって、倦怠期にかかっていたのかもしれない。その倦怠の度合いが大きかろうが小さかろうが、ネットを介した擬似的な恋は、ハルの心を溺れさせるのに十分だった。
もしも枯れている男が望んできたら、ハルが選ぶことの出来る答えはただひとつしかないとわかっていた。選択の余地は全くない。それでも会おうとした。
会おうと、
会うべきだと、
会いたいと、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 思った。
文章から垣間見ただけの、垣間見ただけだからこそ、その人のことが好きになったのかもしれない。時折交換する携帯メールを打つ時でさえ、ハルの指はいつもかすかに震えていた。
それが緊張なのか、喜びなのかまでは、わからなかった。
(続く)
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