物語(41)
2008年10月9日(木)
専守防衛(3)
物語×41
(続き)
実家に戻るという選択をサトルがしなかったので、サユリは部屋を探しはじめた。
一人で不動産に入って、条件を見、めぼしいところを選び、現物を見に行って、部屋の様子や使い勝手を見た。
駅から近いので、できるだけその場所から離れたくないとサトルが強く提案した部分は苦労したが、幸いに、今までのすまいの目と鼻の先、歩いて30秒ほどのところに、とても好ましい物件を見つけた。
部屋を見つけてみると、今更ながら、家具など全て間に合わせで、わくわくするような生活を夢見たような、ちゃんとした買い物さえしてこなかった事にサユリは気がついた。
毎日買い物に行かなくても良くなりたい、とか、食器が増えても片づけが楽になるようにしたい、とか、サトルの背広をちゃんとしまっておけるようにしたい、それが叶うことを考えるととても嬉しかった。
落ち着いて考えてみれば、それはサユリだけの勝手な理屈かもしれないと自責した。
だからサユリはまた動いた。
できるだけコストを押さえて、満足するためには、あちこちを探さなければならなかった。それは楽しいというより、苦しかった。
自分は何をやっているのだろう?
やめたほうがいいと誰かに言われているような気がする。
いや、これは本当は言われていて、それを自分が聞いていないだけなのではないだろうか。
でもやめれば、またイライラが募ることは目に見えている。
冷蔵庫と、食器棚と、洋服ダンスをサトルにことわった上でサユリは選び決断し、ようやく買い換えた。
それ以外は、相変わらず組み立て家具と一人暮らしの家電の生活だったが、間に合わせではなく、「まとも」な生活ができるような期待とそれに伴った安心感があった。
新しい住まいは今までと変わらない場所にあるようなものなので、相変わらずお店も近く、公園もあり、子どもの友達も多かった。
収納は押入れ二つ分あり、部屋もひとつ増えた。
また良心的な大家さんが持っていた所だったから、エアコンなどの備品をつけてくれたり、年数住んでいることでお礼を言われたり、原価償却を反映して家賃の引き下げをしてくれたりした。
その時が一番楽しかった。
サトルとサユリの間にも大きな揉め事はなく、柔らかくゆったりした時を過ごしていった。
それは当然長く続かなかった。
子どもが学校に上がる頃になって、将来的には転校させてもいいかな、と話した途端、サトルには何か感じるところがあったらしい。
ふってわいたように、家を建て替える話が持ち上がった。
なんだかわからない勢いがあった。
(続く)
実家に戻るという選択をサトルがしなかったので、サユリは部屋を探しはじめた。
一人で不動産に入って、条件を見、めぼしいところを選び、現物を見に行って、部屋の様子や使い勝手を見た。
駅から近いので、できるだけその場所から離れたくないとサトルが強く提案した部分は苦労したが、幸いに、今までのすまいの目と鼻の先、歩いて30秒ほどのところに、とても好ましい物件を見つけた。
部屋を見つけてみると、今更ながら、家具など全て間に合わせで、わくわくするような生活を夢見たような、ちゃんとした買い物さえしてこなかった事にサユリは気がついた。
毎日買い物に行かなくても良くなりたい、とか、食器が増えても片づけが楽になるようにしたい、とか、サトルの背広をちゃんとしまっておけるようにしたい、それが叶うことを考えるととても嬉しかった。
落ち着いて考えてみれば、それはサユリだけの勝手な理屈かもしれないと自責した。
だからサユリはまた動いた。
できるだけコストを押さえて、満足するためには、あちこちを探さなければならなかった。それは楽しいというより、苦しかった。
自分は何をやっているのだろう?
やめたほうがいいと誰かに言われているような気がする。
いや、これは本当は言われていて、それを自分が聞いていないだけなのではないだろうか。
でもやめれば、またイライラが募ることは目に見えている。
冷蔵庫と、食器棚と、洋服ダンスをサトルにことわった上でサユリは選び決断し、ようやく買い換えた。
それ以外は、相変わらず組み立て家具と一人暮らしの家電の生活だったが、間に合わせではなく、「まとも」な生活ができるような期待とそれに伴った安心感があった。
新しい住まいは今までと変わらない場所にあるようなものなので、相変わらずお店も近く、公園もあり、子どもの友達も多かった。
収納は押入れ二つ分あり、部屋もひとつ増えた。
また良心的な大家さんが持っていた所だったから、エアコンなどの備品をつけてくれたり、年数住んでいることでお礼を言われたり、原価償却を反映して家賃の引き下げをしてくれたりした。
その時が一番楽しかった。
サトルとサユリの間にも大きな揉め事はなく、柔らかくゆったりした時を過ごしていった。
それは当然長く続かなかった。
子どもが学校に上がる頃になって、将来的には転校させてもいいかな、と話した途端、サトルには何か感じるところがあったらしい。
ふってわいたように、家を建て替える話が持ち上がった。
なんだかわからない勢いがあった。
(続く)
2008年10月8日(水)
専守防衛(2)
物語×41
(続き)
サトルとサユリが結婚するときから、サトルは、いずれは実家に戻って生活をするとサユリに宣言した。
今住もうとしている部屋に、新しい家具を入れると引越しのときに厄介になる。そんな思いから、組み立て家具を選び求め、食器も100円均一で間に合わせ、寝具だってお互いが持ち寄ったもので暮らすという感じだった。
それでも、生活をするにはいろいろな家具が居る。
電化製品は、ひとりで暮らしていたサユリのものを引き継いで使った。
それでも、コタツの存在がサユリとサトルで食い違った。
サユリは、コタツに入って温まった体験が少ないものだから、そもそも必要などないと思っていた。もし用意しても、部屋の大きさに合わせたものでいいと思った。
だけれど、サトルは自分の体格の良さから考えて大きめのものを欲しがった。
幼い頃から冬はコタツ、となっていたサトルは、やはりその中でほんわかと休んだり眠ったりしたいのだった。
2時間電車を乗り継ぎ、朝早くから夜も早くない時間まで働く夫。
だから、とサユリは簡単に折れた。
良妻ぶってみたかったのかもしれない。
「2~3年の間には俺の実家に戻るから」
そんなことをサトルから呪文のように繰り返され、そうね、とサユリはそのたびにうなづいた。
しかし。
子どもが生まれても、
幼稚園に入る年を迎えても、
あれだけの宣言をしながらも、サトルは一向に戻る様子を見せなかった。
その間中、ずっとサユリはモノを片付けるのに閉口していた。
はじめに二人が住んだところは、間に合わせが前面に出すぎ、子どもがいる夫婦には狭すぎた。
3つの部屋に対して、押入れがひとつしか無いので、部屋のひとつは、プラスチックの収納ケースが積み上げられた。
間に合わせだからと腰までの高さしか無い食器棚からは、また間に合わせの少ない食器もあふれ始めた。
一人時代から引き継いだ小さな冷蔵庫には、子どもの好きなジュースも、みんなで飲む麦茶も、少ししか入れられなかった。
一日分の食材が入ってしまうと、いっぱいいっぱいになって、毎日買い物に行かなければならなかった。
でも、それでもよかった。
だってこれは間に合わせなのだから。
電化製品は、買い替えも考えていた。
だけれど、「戻る」といわれてしまうと、買い替えは余計な出費になってしまうと思うサユリはそれ以上言い出せなかった。
新しいところに行けば、また新しいものを買いたくなってしまうかもしれない。
それはずいぶんな贅沢だとサユリは思った。
「足らぬ、足らぬは工夫が足らぬ」。
そう自分に言い聞かせ続けた。
子どもが大きくなるにつれ、おもちゃや服が増えてきた。
畳の上に布団を敷いているので、寝る場所にも困るときがある。ベッドを用意することも考えたけれど、またそれには「引越し」と言う、うっとうしい言葉がついて回った。
幼稚園に入ると、通園服や幼稚園の備品などで、さらにモノが増えてきた。
子どもの友達だって遊びに来る。
子どもだけではなく、お母さんが一緒のこともある。
片付けても、片付けても、片付かない。
子どもが散らかしては、整頓し、服を汚しては着替えさせ洗濯し、毎日片付けることに心を吸い取られた。
家事は嫌いではないといっても、気の休まるときが無かった。
子どもにアトピーがあるとわかって、出来るだけ部屋を片付けてほこりを払っておかなければならないと神経症気味になった。
とうとう、その状態を耐えられなくなり、子どもが居るには狭すぎるそこから引っ越すことを、サトルに提案した。
「実家に戻るなら、早くしたい。ここではちょっと狭すぎるの。押入れがひとつしか無いのに、布団をしまってしまうと何もいれられないの。今までは子供が小さかったから、それでもよかったけれど、もうすこし片付けて心持ちさっぱりして過ごしたい。」
サトルは賛成とも反対ともつかぬようだった。
実家には実家の都合もあると暗に言われた。
かといって、一旦動いた心はもう留まらなかったし、留めることも出来なかった。
(続く)
サトルとサユリが結婚するときから、サトルは、いずれは実家に戻って生活をするとサユリに宣言した。
今住もうとしている部屋に、新しい家具を入れると引越しのときに厄介になる。そんな思いから、組み立て家具を選び求め、食器も100円均一で間に合わせ、寝具だってお互いが持ち寄ったもので暮らすという感じだった。
それでも、生活をするにはいろいろな家具が居る。
電化製品は、ひとりで暮らしていたサユリのものを引き継いで使った。
それでも、コタツの存在がサユリとサトルで食い違った。
サユリは、コタツに入って温まった体験が少ないものだから、そもそも必要などないと思っていた。もし用意しても、部屋の大きさに合わせたものでいいと思った。
だけれど、サトルは自分の体格の良さから考えて大きめのものを欲しがった。
幼い頃から冬はコタツ、となっていたサトルは、やはりその中でほんわかと休んだり眠ったりしたいのだった。
2時間電車を乗り継ぎ、朝早くから夜も早くない時間まで働く夫。
だから、とサユリは簡単に折れた。
良妻ぶってみたかったのかもしれない。
「2~3年の間には俺の実家に戻るから」
そんなことをサトルから呪文のように繰り返され、そうね、とサユリはそのたびにうなづいた。
しかし。
子どもが生まれても、
幼稚園に入る年を迎えても、
あれだけの宣言をしながらも、サトルは一向に戻る様子を見せなかった。
その間中、ずっとサユリはモノを片付けるのに閉口していた。
はじめに二人が住んだところは、間に合わせが前面に出すぎ、子どもがいる夫婦には狭すぎた。
3つの部屋に対して、押入れがひとつしか無いので、部屋のひとつは、プラスチックの収納ケースが積み上げられた。
間に合わせだからと腰までの高さしか無い食器棚からは、また間に合わせの少ない食器もあふれ始めた。
一人時代から引き継いだ小さな冷蔵庫には、子どもの好きなジュースも、みんなで飲む麦茶も、少ししか入れられなかった。
一日分の食材が入ってしまうと、いっぱいいっぱいになって、毎日買い物に行かなければならなかった。
でも、それでもよかった。
だってこれは間に合わせなのだから。
電化製品は、買い替えも考えていた。
だけれど、「戻る」といわれてしまうと、買い替えは余計な出費になってしまうと思うサユリはそれ以上言い出せなかった。
新しいところに行けば、また新しいものを買いたくなってしまうかもしれない。
それはずいぶんな贅沢だとサユリは思った。
「足らぬ、足らぬは工夫が足らぬ」。
そう自分に言い聞かせ続けた。
子どもが大きくなるにつれ、おもちゃや服が増えてきた。
畳の上に布団を敷いているので、寝る場所にも困るときがある。ベッドを用意することも考えたけれど、またそれには「引越し」と言う、うっとうしい言葉がついて回った。
幼稚園に入ると、通園服や幼稚園の備品などで、さらにモノが増えてきた。
子どもの友達だって遊びに来る。
子どもだけではなく、お母さんが一緒のこともある。
片付けても、片付けても、片付かない。
子どもが散らかしては、整頓し、服を汚しては着替えさせ洗濯し、毎日片付けることに心を吸い取られた。
家事は嫌いではないといっても、気の休まるときが無かった。
子どもにアトピーがあるとわかって、出来るだけ部屋を片付けてほこりを払っておかなければならないと神経症気味になった。
とうとう、その状態を耐えられなくなり、子どもが居るには狭すぎるそこから引っ越すことを、サトルに提案した。
「実家に戻るなら、早くしたい。ここではちょっと狭すぎるの。押入れがひとつしか無いのに、布団をしまってしまうと何もいれられないの。今までは子供が小さかったから、それでもよかったけれど、もうすこし片付けて心持ちさっぱりして過ごしたい。」
サトルは賛成とも反対ともつかぬようだった。
実家には実家の都合もあると暗に言われた。
かといって、一旦動いた心はもう留まらなかったし、留めることも出来なかった。
(続く)
2008年10月8日(水)
専守防衛(1)
物語×41
“ | 長いので、分割してアップします。 ご了承ください。 |
どんな意味かはよくわからない。
13歳のサユリは、はじめて見る、その文字の持つ意味は何だろうと興味を持った。
聞けば、それはある組織の方針、らしい。
モッパラ防衛ヲ守ルということなのだろうか。
なんだか意味がつかめなくて、本棚から辞書を取り出して防衛の意味を調べた。
防衛-他からの危害(侵入・奪取)を防ぎ守ること。
じゃあ、専守防衛は、
「モッパラ他カラノ侵入・奪取ヲ防ギ守ル事ヲ守ル」
となって、守る事を守る、二重の意味になるのかな、と思わず苦笑した。
そこまでして守るものってなんだろうと思いながら、サユリはそんなこと、自分に関係ないと忘れて大きくなっていった。
その文字を次に見たのは、結婚してまもなくだった。
バブルがはじけ―それはバブルという名前の好景気の状態の終焉である―しばらく後に、関西で大きな大きな地震があった。
500キロメートル離れた東まで、その大きな凄まじい力を放出した揺れが届き、太陽も昇らないうちから、サユリは目覚めた。
部屋を見渡し、何事もなかったとそのまま二度寝をして、ようやく床から出てニュースを見るためテレビをつけたら、それがのちに阪神・淡路大震災と呼ばれる、大きな地震だと知った。
高速道路が破壊され、今にも落ちそうなバスの映像が繰り返し流された。
朝早くから工場を動かしている地域では、壁や天井が崩れて下敷きになった多くの人が救出を待っている間に、火に囲まれ亡くなったという、無残なニュースもあった。
何度も繰り返される破壊された映像を見て、サトルは言った。
「なんで自衛隊を派遣しないんだろうね、こういうときのためにあるのに」
「ええ?そうなの?」
「そうだよ?なんで?」
「私が居たところでは、そんな感じじゃなかった・・・。」
「じゃあ、どうだった?」
「学生のころ先輩から聞いたのは、ソ連がもし攻めてくるとしたら、上陸できる地域は一箇所しかないんだって、だからそこを守るためにあるって聞いた」
ソ連などとうにない。
「出動は総理大臣が決めるからね、これは責任を問われるだろうな。」
眉毛が白くて長い、それ以外はどんな政策をしたのかわからない、温厚そうな総理大臣がテレビに映って、サトルは話の矛先を変えた。
サユリは何も言えなかった。
サユリが聞いたことと、サトルが聞いていたことは違う、それだけがわかった。
サトルの親と同居するために50年以上経過した家を建て替え、5年経った。
「もういやだ・・・。なんでこんなに我慢しなくちゃいけないの?」
その言葉をつぶやくと、それまで我慢していた何かがまるであふれるように、サユリは、感情が高まるに任せて、人の声とは思えないような声を出し、さらに叫んだ。
(続く)
13歳のサユリは、はじめて見る、その文字の持つ意味は何だろうと興味を持った。
聞けば、それはある組織の方針、らしい。
モッパラ防衛ヲ守ルということなのだろうか。
なんだか意味がつかめなくて、本棚から辞書を取り出して防衛の意味を調べた。
防衛-他からの危害(侵入・奪取)を防ぎ守ること。
じゃあ、専守防衛は、
「モッパラ他カラノ侵入・奪取ヲ防ギ守ル事ヲ守ル」
となって、守る事を守る、二重の意味になるのかな、と思わず苦笑した。
そこまでして守るものってなんだろうと思いながら、サユリはそんなこと、自分に関係ないと忘れて大きくなっていった。
その文字を次に見たのは、結婚してまもなくだった。
バブルがはじけ―それはバブルという名前の好景気の状態の終焉である―しばらく後に、関西で大きな大きな地震があった。
500キロメートル離れた東まで、その大きな凄まじい力を放出した揺れが届き、太陽も昇らないうちから、サユリは目覚めた。
部屋を見渡し、何事もなかったとそのまま二度寝をして、ようやく床から出てニュースを見るためテレビをつけたら、それがのちに阪神・淡路大震災と呼ばれる、大きな地震だと知った。
高速道路が破壊され、今にも落ちそうなバスの映像が繰り返し流された。
朝早くから工場を動かしている地域では、壁や天井が崩れて下敷きになった多くの人が救出を待っている間に、火に囲まれ亡くなったという、無残なニュースもあった。
何度も繰り返される破壊された映像を見て、サトルは言った。
「なんで自衛隊を派遣しないんだろうね、こういうときのためにあるのに」
「ええ?そうなの?」
「そうだよ?なんで?」
「私が居たところでは、そんな感じじゃなかった・・・。」
「じゃあ、どうだった?」
「学生のころ先輩から聞いたのは、ソ連がもし攻めてくるとしたら、上陸できる地域は一箇所しかないんだって、だからそこを守るためにあるって聞いた」
ソ連などとうにない。
「出動は総理大臣が決めるからね、これは責任を問われるだろうな。」
眉毛が白くて長い、それ以外はどんな政策をしたのかわからない、温厚そうな総理大臣がテレビに映って、サトルは話の矛先を変えた。
サユリは何も言えなかった。
サユリが聞いたことと、サトルが聞いていたことは違う、それだけがわかった。
サトルの親と同居するために50年以上経過した家を建て替え、5年経った。
「もういやだ・・・。なんでこんなに我慢しなくちゃいけないの?」
その言葉をつぶやくと、それまで我慢していた何かがまるであふれるように、サユリは、感情が高まるに任せて、人の声とは思えないような声を出し、さらに叫んだ。
(続く)
2008年9月26日(金)
運動会(3)
物語×41
「来年一年生の皆さん~、並んでくださいね~、次、みんなで順番に走りますよ~」
児童に接するよりずっとソフトな感じで学校の先生が子ども達を呼び、タケルもユートも跳ねるように立ち上がって列に加わった。
「5人ずつ並んでくださいね」
先生が背中を軽く押して促しながら子ども達を並ばせ、隣の子どもと手をつながせる。
タケルとユートの並んだ列は、見事に同じ幼稚園の子ども達ばかりだ。
「あー、リクも一緒ね。」そこを見て思わず苦笑した。
リクのお母さん、カナがこっちに手を振っていた。
リクは近所の子で同じ幼稚園に通っている。
お兄ちゃんがいるために揉まれて、かけっこがとびきり早い。体も大きく、大きいといわれるタケルから見てもずっと大きい。
そんなリクが、親から離れて地面にちょこんとしゃがむ姿はやっぱり幼児で、タケルもユートも一緒だ。
小学生とは何か違う幼さがあふれているように感じる。
10列以上の子ども達が並び、いつもと違う学校の先生に連れられ、グラウンドの中央に着いたころ、リカはぽそりと漏らした。
「やっぱり、ユートがあの中でも一番小さいかなぁ」
「え?」
「なんか、ユートは小さくて、ちゃんと大きくなるのかなって」
そういわれて見ると、タケルやリクより頭半分くらい小さい。
でも男の子は小さいといわれても、小さい女の子よりずっと背が高くなるものだ。
ミサは今は小さいといわれるけれど、小さい頃は誰よりも大きかった。育つ速度が子どもによって違うから、子どもの身長は当てにならないと思っている。
だから気休めでなく、言った。
「男の子はこれからだよ、今小さくても、伸びるときがあるみたいに思うよ。」
「そうかなあ、なんか不安で」
「身長、お父さんに似るっているよ。それから考えてみたら?」
ミサは笑って言った。
子どもは母親だけで出来るものではないから。
ちょっと間があった。
子供たちのほうを見たまま、リカは言った。
「あー・・・忘れちゃったな」
「え?」
「ウチ、シングルマザーなんすよ。どうもそういう風には見えないらしく明るいらしいんですけど。」
その後、ミサはどんな質問をしたのか覚えていない。
でもリカが一方的にはなしたことは覚えている。
リカは二股をかけられていたこと、相手は夫の会社にいること、
リカが妊娠している間もリカの夫は浮気をしていたこと、
子どもが生まれると家に寄り付かなくなったこと、
家に戻ってきたらDVが始まったこと。
リカが弾丸のように早口でまくし立てて、それが痕として残っただけかもしれない。
けれど、その痕はミサが感じるよりずっと深いところに刺さったらしい。
まるで、リカが観念したかのような口ぶりだったせいもあるかもしれない。
「11ヶ月くらいのとき、ユートが笑わなくなっちゃったんですよ。それで、あ、これはもうダメだって」
その言葉は覚えているのに、前後の流れすら覚えていない。
リカが家出をしたのか、夫と話し合ってきたのかもわからない。
ただ、リカの仕事は、都会では需要があって忙しいから切れることもない、だからなんとかやっていける、と。
確かにその仕事は―声を当てること―は都会ならではの仕事かもしれない。
「あれだけ笑わなくて心配していたけど、ユートは今一番笑うから」
リカは子ども達がつれられていった場所に目をやった。
遠くから、スタートのホイッスルが聞こえるたび、さっき並ばされた5人の子ども達が順序良く駆け出していく。
勢いよく飛び出す子。
その場で一度地団太を踏んで確かめるように走っていく子。
まだヨーイの格好で周囲の様子から慌てて走る子。
先に走る子どもを見て、たちつくし、慌てて6年生に手を引かれていく子。
親と一緒に走る子。
走るのがいやで抱きかかえられていく子。
そういえば、6年前、ヒメカは走るのがいやで並びさえもしなかった。
ミサは、喜び勇んでかけていくタケルに、ヒメカと違うと思って苦笑した。
リカは走るユートを目で追って応援を送っている。
30人足らずの子ども達が走る短い時間の中でも、子ども達の様子はひとりひとり違っている。そこに居合わせたのは学校に通う児童、これから通うことになる児童、学校の先生、子ども達の親・・・。
田舎から、より田舎に出てきたのんきな母親もいれば、都会に憧れてそこで酷い目にあった母親もいるし、ただその場に居合わせただけの母親もいた。
そこに、誰一人として同じ生き方をしていない一同が集まって、一様に自分の子供達を応援し、汗をかいている。
声援と競技を終えるアナウンスが流れ、タケルたちの活躍は終わり、次の競技の選手が入っていった。
太陽のじりじりとした暑さだけが、さっきと変わらないで、そのままだった。
(終)
児童に接するよりずっとソフトな感じで学校の先生が子ども達を呼び、タケルもユートも跳ねるように立ち上がって列に加わった。
「5人ずつ並んでくださいね」
先生が背中を軽く押して促しながら子ども達を並ばせ、隣の子どもと手をつながせる。
タケルとユートの並んだ列は、見事に同じ幼稚園の子ども達ばかりだ。
「あー、リクも一緒ね。」そこを見て思わず苦笑した。
リクのお母さん、カナがこっちに手を振っていた。
リクは近所の子で同じ幼稚園に通っている。
お兄ちゃんがいるために揉まれて、かけっこがとびきり早い。体も大きく、大きいといわれるタケルから見てもずっと大きい。
そんなリクが、親から離れて地面にちょこんとしゃがむ姿はやっぱり幼児で、タケルもユートも一緒だ。
小学生とは何か違う幼さがあふれているように感じる。
10列以上の子ども達が並び、いつもと違う学校の先生に連れられ、グラウンドの中央に着いたころ、リカはぽそりと漏らした。
「やっぱり、ユートがあの中でも一番小さいかなぁ」
「え?」
「なんか、ユートは小さくて、ちゃんと大きくなるのかなって」
そういわれて見ると、タケルやリクより頭半分くらい小さい。
でも男の子は小さいといわれても、小さい女の子よりずっと背が高くなるものだ。
ミサは今は小さいといわれるけれど、小さい頃は誰よりも大きかった。育つ速度が子どもによって違うから、子どもの身長は当てにならないと思っている。
だから気休めでなく、言った。
「男の子はこれからだよ、今小さくても、伸びるときがあるみたいに思うよ。」
「そうかなあ、なんか不安で」
「身長、お父さんに似るっているよ。それから考えてみたら?」
ミサは笑って言った。
子どもは母親だけで出来るものではないから。
ちょっと間があった。
子供たちのほうを見たまま、リカは言った。
「あー・・・忘れちゃったな」
「え?」
「ウチ、シングルマザーなんすよ。どうもそういう風には見えないらしく明るいらしいんですけど。」
その後、ミサはどんな質問をしたのか覚えていない。
でもリカが一方的にはなしたことは覚えている。
リカは二股をかけられていたこと、相手は夫の会社にいること、
リカが妊娠している間もリカの夫は浮気をしていたこと、
子どもが生まれると家に寄り付かなくなったこと、
家に戻ってきたらDVが始まったこと。
リカが弾丸のように早口でまくし立てて、それが痕として残っただけかもしれない。
けれど、その痕はミサが感じるよりずっと深いところに刺さったらしい。
まるで、リカが観念したかのような口ぶりだったせいもあるかもしれない。
「11ヶ月くらいのとき、ユートが笑わなくなっちゃったんですよ。それで、あ、これはもうダメだって」
その言葉は覚えているのに、前後の流れすら覚えていない。
リカが家出をしたのか、夫と話し合ってきたのかもわからない。
ただ、リカの仕事は、都会では需要があって忙しいから切れることもない、だからなんとかやっていける、と。
確かにその仕事は―声を当てること―は都会ならではの仕事かもしれない。
「あれだけ笑わなくて心配していたけど、ユートは今一番笑うから」
リカは子ども達がつれられていった場所に目をやった。
遠くから、スタートのホイッスルが聞こえるたび、さっき並ばされた5人の子ども達が順序良く駆け出していく。
勢いよく飛び出す子。
その場で一度地団太を踏んで確かめるように走っていく子。
まだヨーイの格好で周囲の様子から慌てて走る子。
先に走る子どもを見て、たちつくし、慌てて6年生に手を引かれていく子。
親と一緒に走る子。
走るのがいやで抱きかかえられていく子。
そういえば、6年前、ヒメカは走るのがいやで並びさえもしなかった。
ミサは、喜び勇んでかけていくタケルに、ヒメカと違うと思って苦笑した。
リカは走るユートを目で追って応援を送っている。
30人足らずの子ども達が走る短い時間の中でも、子ども達の様子はひとりひとり違っている。そこに居合わせたのは学校に通う児童、これから通うことになる児童、学校の先生、子ども達の親・・・。
田舎から、より田舎に出てきたのんきな母親もいれば、都会に憧れてそこで酷い目にあった母親もいるし、ただその場に居合わせただけの母親もいた。
そこに、誰一人として同じ生き方をしていない一同が集まって、一様に自分の子供達を応援し、汗をかいている。
声援と競技を終えるアナウンスが流れ、タケルたちの活躍は終わり、次の競技の選手が入っていった。
太陽のじりじりとした暑さだけが、さっきと変わらないで、そのままだった。
(終)
2008年9月25日(木)
運動会(2)
物語×41
“ | 運動会(1)から続きます。 |
タケルが、ちぇっといった顔をして戻ってきた。
近所の、大きなお姉ちゃんに、なにか言い渡されたらしい。さっきまでごたごた話しているのを見ていたから、なんとなく言われた内容がわかって、ミサはつい笑った。
いつもは、姉のヒメカと遊ぶついでに遊んでくれる近所のお姉ちゃんだけど、運動会の真っ最中では、ただ邪魔でしかなかったらしい。
「おにいちゃんたちの競技が終わったら、つぎ、走れるよ。応援しようね。」
気をそらそうとミサは話しかけた。
「あーヒメカぁー!」
ミサの声が聞こえないかのようにタケルの興味は向こうから走ってきた6年生の集団に集中した。
「タケルー。相変わらず声大きいねー」
ヒメカの苦い口調もタケルには気にならない。
にこにこして嬉しさを発散している。
「ぼくも、はるから、いちねんせいになうよ。ねんちょうさんだからね!!」
「タケル、ヒメカと一緒に学校通ってみたかった?」
「えー?いやだよー。タケル、言う事聞かないもん」
うん!とうなずくその横で笑いながら毒づく。
低学年の子どもが通学のときに道を外れていつも注意して歩いているから、真っ先にそれが頭に出たのだろう。
くっついて6年生らしからぬ遊びにムキになっているのを、ミサは毎日見ている。
寄ると触るとケンカ、自分のわがままを聞いてくれないと大の字になってごねるタケル、自分の遊びに付き合えないタケルをすぐ邪魔にするヒメカ。
でも離れて生きることなどまだ考えもつかない。
静かになって目を離し、気が付くと、また二人はくっついてケンカをしているのだった。
「ぼくは、ひめかといっしょに学校いってみたかった!」
タケルが言い終わると、競技が始まる放送が聞こえてきた。
ヒメカは、6年生に与えられた仕事で、そこに向かう途中だったらしい。
「じゃあ、そろそろ行くねー。タケル、かけっこ頑張って!」
「うん、ぼく、ばんばる!」
「が」がまだ上手に発音できないけど、心意気は誰にもまけないようだった。
それにしても暑いなと、ミサはぶりかえし思った。
ようやく落ち着きかけたタケルと並んでいると、
「あ、こんにちは」
同じ幼稚園に通う同じクラスのユート君がお母さんのリカが近づいてきた。
にこやかだった。
「タケル、ユート君が来たね。」
子ども達に目をやると、ユートくんは、人懐こい表情を浮かべてタケルの隣に座った。
だけどタケルは普段あまりユートと一緒にいるわけではないらしい。
ちょっと戸惑っている。
子どもも大人と同じように感情が動くんだな、と思う。
「来年はなんとか2クラスになりそうですよ。さっき見てきた。」
タケルのあまり打ち解けない様子をみて、目の前でに立ちすくむリカに、ミサは話しかけた。
明治に小学校制が出来てすぐに出来た、歴史だけはある田舎の公立小学校。
おじいちゃんおばあちゃんも通ったという人も多い。
田舎町の、一番田舎な部分を今も残し、一昔前の日本の情緒が生き残っている地域ゆえに、昔からのつながりが残っていて、世帯数も地域の特性のせいで増えない。
増えないのは行政区分のせいだから、おそらく今後も増えないだろう。
だからこの小学校では、毎年入学時のクラス編成が悩みのタネとなるのだった。
「うわぁ、よかった~1クラスだとなんか寂しいですもんね。」
「そうですよね。そうそう今年はウチの幼稚園から行く子供が多いから心強いですよ。」
「私、こないだの幼稚園の保護者会のとき、一緒の子数えちゃいましたよ!」
「私も!!」
おなじことを考えているものだ、と、二人は笑った。
ユートは、2年保育で入ってきた。
親子一緒の幼稚園の遠足で、はじめてリカを見たとき、あまりにも若く可愛いらしい、擦れていない姿を見て、ミサはリカが自分の半分くらいの年なのではないかと思ったぐらいだ。それがずっと印象に残って、春に同じクラスになったのをきっかけに、余計を承知で聞いてしまった。
「こんにちは」
「こんにちは、今日はお迎えですか?」
「私はいつもお迎えなんですよ、ミサさんは?」
「今日はリクエストがあったからお迎え。タケルは年取ってからの子どもだから、なんか甘くなっちゃう。タケルはマル高だったの、超音波検診が一回無料で、そのときに『あー自分はやっぱりいい年なんだって思った』」
その可笑しさに自分で笑って、リカもつられて笑った。
「ユート君は、早くにできたの?」
リカの顔が疑問の表情に変わった。
「ユートくん、年中さんから入られたでしょう?遠足のときに見かけて、『うわ~すごく若く可愛らしいお母さん、まだ10代?』なんて思ってて」
「・・いや・・私、今年30っす!結構普通に産んでます。」
「えっ?そうなの、それは・・すいません」
回りくどい質問の仕方をしてミサは恥ずかしくなった。
普通に年を聞けばよかったのかもしれないのに。
自分は聞かれるたびに、「普通に聞けばいいのに」と思っていた事を思い出してなんとなく困った。
そのとき困ったのはリカも同じだったらしいのが、見てわかった。
(続く)
近所の、大きなお姉ちゃんに、なにか言い渡されたらしい。さっきまでごたごた話しているのを見ていたから、なんとなく言われた内容がわかって、ミサはつい笑った。
いつもは、姉のヒメカと遊ぶついでに遊んでくれる近所のお姉ちゃんだけど、運動会の真っ最中では、ただ邪魔でしかなかったらしい。
「おにいちゃんたちの競技が終わったら、つぎ、走れるよ。応援しようね。」
気をそらそうとミサは話しかけた。
「あーヒメカぁー!」
ミサの声が聞こえないかのようにタケルの興味は向こうから走ってきた6年生の集団に集中した。
「タケルー。相変わらず声大きいねー」
ヒメカの苦い口調もタケルには気にならない。
にこにこして嬉しさを発散している。
「ぼくも、はるから、いちねんせいになうよ。ねんちょうさんだからね!!」
「タケル、ヒメカと一緒に学校通ってみたかった?」
「えー?いやだよー。タケル、言う事聞かないもん」
うん!とうなずくその横で笑いながら毒づく。
低学年の子どもが通学のときに道を外れていつも注意して歩いているから、真っ先にそれが頭に出たのだろう。
くっついて6年生らしからぬ遊びにムキになっているのを、ミサは毎日見ている。
寄ると触るとケンカ、自分のわがままを聞いてくれないと大の字になってごねるタケル、自分の遊びに付き合えないタケルをすぐ邪魔にするヒメカ。
でも離れて生きることなどまだ考えもつかない。
静かになって目を離し、気が付くと、また二人はくっついてケンカをしているのだった。
「ぼくは、ひめかといっしょに学校いってみたかった!」
タケルが言い終わると、競技が始まる放送が聞こえてきた。
ヒメカは、6年生に与えられた仕事で、そこに向かう途中だったらしい。
「じゃあ、そろそろ行くねー。タケル、かけっこ頑張って!」
「うん、ぼく、ばんばる!」
「が」がまだ上手に発音できないけど、心意気は誰にもまけないようだった。
それにしても暑いなと、ミサはぶりかえし思った。
ようやく落ち着きかけたタケルと並んでいると、
「あ、こんにちは」
同じ幼稚園に通う同じクラスのユート君がお母さんのリカが近づいてきた。
にこやかだった。
「タケル、ユート君が来たね。」
子ども達に目をやると、ユートくんは、人懐こい表情を浮かべてタケルの隣に座った。
だけどタケルは普段あまりユートと一緒にいるわけではないらしい。
ちょっと戸惑っている。
子どもも大人と同じように感情が動くんだな、と思う。
「来年はなんとか2クラスになりそうですよ。さっき見てきた。」
タケルのあまり打ち解けない様子をみて、目の前でに立ちすくむリカに、ミサは話しかけた。
明治に小学校制が出来てすぐに出来た、歴史だけはある田舎の公立小学校。
おじいちゃんおばあちゃんも通ったという人も多い。
田舎町の、一番田舎な部分を今も残し、一昔前の日本の情緒が生き残っている地域ゆえに、昔からのつながりが残っていて、世帯数も地域の特性のせいで増えない。
増えないのは行政区分のせいだから、おそらく今後も増えないだろう。
だからこの小学校では、毎年入学時のクラス編成が悩みのタネとなるのだった。
「うわぁ、よかった~1クラスだとなんか寂しいですもんね。」
「そうですよね。そうそう今年はウチの幼稚園から行く子供が多いから心強いですよ。」
「私、こないだの幼稚園の保護者会のとき、一緒の子数えちゃいましたよ!」
「私も!!」
おなじことを考えているものだ、と、二人は笑った。
ユートは、2年保育で入ってきた。
親子一緒の幼稚園の遠足で、はじめてリカを見たとき、あまりにも若く可愛いらしい、擦れていない姿を見て、ミサはリカが自分の半分くらいの年なのではないかと思ったぐらいだ。それがずっと印象に残って、春に同じクラスになったのをきっかけに、余計を承知で聞いてしまった。
「こんにちは」
「こんにちは、今日はお迎えですか?」
「私はいつもお迎えなんですよ、ミサさんは?」
「今日はリクエストがあったからお迎え。タケルは年取ってからの子どもだから、なんか甘くなっちゃう。タケルはマル高だったの、超音波検診が一回無料で、そのときに『あー自分はやっぱりいい年なんだって思った』」
その可笑しさに自分で笑って、リカもつられて笑った。
「ユート君は、早くにできたの?」
リカの顔が疑問の表情に変わった。
「ユートくん、年中さんから入られたでしょう?遠足のときに見かけて、『うわ~すごく若く可愛らしいお母さん、まだ10代?』なんて思ってて」
「・・いや・・私、今年30っす!結構普通に産んでます。」
「えっ?そうなの、それは・・すいません」
回りくどい質問の仕方をしてミサは恥ずかしくなった。
普通に年を聞けばよかったのかもしれないのに。
自分は聞かれるたびに、「普通に聞けばいいのに」と思っていた事を思い出してなんとなく困った。
そのとき困ったのはリカも同じだったらしいのが、見てわかった。
(続く)