2012727(金)

阿波丸事件・沈められた『緑十字船』


阿波丸事件・沈められた『緑十字船』

今日はS氏の作品から、『阿波丸』という船について掘り下げてみます。

この船の名前を検索すると・・『阿波丸事件』という文字に行き当たる。

『阿波丸』はもとは日本郵船所有の貨客船、これが太平洋戦争・戦時において日本の占領下にある敵国捕虜や市民に対しての赤十字援助物資を運ぶと言う任務を帯びる『緑十字船』と呼ばれる船として徴用されていました。

この『緑十字船』とは、連合国側に位置情報を事前に通報することで、戦時下にあっても航海の無事が保障される、病院船と同等の扱いを受ける安導権をもつ安全航海保障船でした。

この『阿波丸』、往路の航海は各寄港地を巡る順調な航海で、攻撃目標となることもなく無事シンガポールへと到着します。

その復路・日本までの航海、『緑十字船』が安全航海を保障された船であること知る邦人は、この『阿波丸』への乗船を求めて殺到するのです・・。

この船に乗れば敵の攻撃におびえることも無く、安全な航海で本土の土を踏める、と誰しもがそう思ったのです。

そして昭和20年(1945年)3月28日、『阿波丸』はシンガポールを後にします。幸運にもこの船への乗船が叶った人々が郷里の土を踏むはずでした。

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しかし、昭和20年(1945年)4月1日台湾海峡に差し掛かった『阿波丸』は、不意打ちを食らうように、アメリカ海軍の潜水艦『クイーン・フィッシュ』の攻撃を受けます。

『阿波丸』は、2000名近い乗船者とともに海の藻屑と消えるのでした。
そのときの生存者は『阿波丸』の司厨員・下田勘太郎ただ一人でした。


その後、安全が保障されているはずの『緑十字船』が何故攻撃されたのか?論議を呼ぶこととなります。


日本は『阿波丸』撃沈の事実を知ると、スイスを通じてアメリカに抗議、アメリカは潜水艦側の確認義務を怠った点を認め戦後にかけてその補償の交渉がなされました。

しかし日本は最終的にアメリカに対する賠償の請求権を放棄し、日本政府がアメリカに代わりその賠償にあたることとなるのです。この取引は、「有償食料援助で日本がアメリカ側に支払う額を棒引きれる」という、直接『阿波丸』の補償を勝ち取るよりもはるかに「おいしい」条件で、日本はそれを了承してしまったと言えます。

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S氏作の『阿波丸』、作品にその船の無念を描きとる。
船体側面・上面に十字が描かれ、夜間は識別しやすいよう灯りを灯します。

『阿波丸』撃沈では、往路で軍事物資を輸送し復路で、すずをはじめとした軍事資源を積載したということを偵察で確認していたという事実があります。

これは『緑十字船』としての違反行為に当たり、事実『阿波丸』船長はその積み込みを拒んだのですが、軍部に押し切られそれらを積載していました。

そのため『阿波丸を』明確な攻撃目標として攻撃したことも事実のようですが、その潜水艦『クイーンフィッシュ』からの攻撃許可要請に対して、「攻撃禁止令」が発令されていたことも記録に残っています。

その「攻撃禁止令」の書類が潜水艦『クイーンフィッシュ』艦長のもとへと届かなかったさまざまな要因もまたこの悲劇を引き起こす発端となっているように思われ悔やまれたことでしょう。

その後中国により『阿波丸』のサルベージ調査が行われ、回収された遺骨や遺品は、日本に返還されています。

唯一の生存者である下田勘太郎はその後の人生でも多くを語らなかったそうで1970年に他界されています。

光輝く南の海、しかしそこには戦争によって沈められた多くの墓標が点在します。

今日はS氏の作品から『阿波丸』についのお話でした。


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