2007719(木)

「自然に学ぶ」の心


以前、環境調査の仕事をしていた頃ですが、河川の調査が主なフィールドだったものですから河畔林には頻繁に立ち入っていました。釣り人さえも入らないような場所も多かったものですから印象に残る景観に幾度となく出会う機会にも恵まれました。

どの川にも自然林が残っていたわけではありませんが、どんな川であれ何らかのメッセージを伝えてくれていたような気がします。

いわゆる三面張りの護岸が施された排水路のような景観に変えられてしまった川でも、その連結ブロックの隙間から生えるヤナギはたくましく生存の気迫を感じさせてくれます。

地際でくびれた幹は今にも折れそうな感じに見えますが、河川の氾濫などでそこに泥が被ればまたそこから根を張って生存の可能性を広げます。

そんなヤナギがたくさん集まれば、その根元に土砂を溜め込んで自分たちの生きる場所を創出し、次世代に命のバトンをつなぎます。

そして、その地盤が安定するとヤナギは姿を消してケヤマハンノキやドロノキなどに置き換わり、やがてハルニレやミズナラなどの寿命の長い樹種に変わっていきます。

それぞれの段階でそれぞれの樹種が理由があってそこに存在するのです。そこに依存する生物たちも変化していくというわけです。

私たちが見て豊かだと思える自然というのは、各段階の植生や生物相がパッチワークのように入り組んで構成されている多様な環境であると思います。

単一の構成種で形成される美もあるとは思いますが、豊かさとはまた違ったものだと思います。

モミジは多くの人が美しいと感じると思いますが、世の中モミジだけだったら恐らく美しいとは感じないのではないでしょうか。

また、モミジを枯らしてしまう病気や虫が大発生したらと考えると、一変に地球は滅んでしまうのではないでしょうか。



こんな田舎でも中央の大きなスーパーなどが台頭して地元の小さな商店はどんどん姿を消しています。

大きな都市に行っても小さな地元の村に行っても、同じ看板ばかりが目に付いて地域性がどんどん失われてしまっているように感じます。

もしも、これらのお店が「儲からないからやめた!」と言って撤退してしまったらどうなるのでしょうか。
便利さという代償に失うものの大きさが危惧されます。



自然環境も失われてからでは遅い事を感じさせてくれるのが「主(ぬし)」の存在です。

手付かずの河畔林を歩くと必ずと言っていいほどそこの「主」に出会えます。

神々しく鎮座するその姿には威厳があり、人が近づくのを拒んでいるようで立ちすくむことがままあります。

ちょっとずつ見上げながら「すごいなお前、何年生きてるのよ。」などと話しかけながら近づきます。

必ず抱きついて頬擦りしてみます。そして「がんばれよ。俺も頑張るから。」と言って別れます。

今もそれらの木々たちはそこにあるのだろうかと思うことがあります。

何度も悲しい光景に出会った事があるものだからそう思ってしまいます。

人間が人間を殺す権利が無いのに、なぜこの木を切る権利があるのだろうかとも思います。

大きいからだめで小さいからいいのか、という声もありましょうが、その何百年は一度絶ったらもとには戻せませんし。

職業柄たくさんの木を枯らしてきたのも事実ですから、せめて感謝の気持ちは忘れないようにと肝に銘じます。






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