放牧・酪農・農業(84)
2014年9月28日(日)
農業はリスクを取るべきか
放牧・酪農・農業×84
幕別町のメガファームが一元集荷多元販売のホクレンのシステムから離脱したことが、時代遅れの制度に一石を投じたと報じられた。
このメガファームの自己責任での経営判断には敬意を表したいが、「ホクレン離脱」に拍手を送る人々の中に「農家は国の保護があって、リスクを取らずに経営ができる。ずるい」という声が少なからずあることは懸念されることだ。
そもそも、農業はリスクを取って経営すべきものなのかと思う。気候変動や自然災害のようなリスクもある中で、いかにそれらの影響を最小限に抑えるかに日々努力し、いつものように安全な農産物を生産すべく汗を流すのが農業の姿である。
また、6次化に取り組むことが農家がこれからの時代を生き残るための手段だとするのが農政のトレンドであるようだが、6次化に取り組む農業者には、それぞれの目的と事情があり、特色ある商品づくりが農業の主たる目的であるとは到底思えない。農産物の質の向上とその取り組みに対する消費者の理解推進の先頭に立つというのがその役どころであると思う。
過度な競争やリスクを農業に持ち込むのが農政改革ならば、まずは健全な農業の姿を示して、新規就農対策の強化によってそれを持続できるようにすることが必須である。
このメガファームの自己責任での経営判断には敬意を表したいが、「ホクレン離脱」に拍手を送る人々の中に「農家は国の保護があって、リスクを取らずに経営ができる。ずるい」という声が少なからずあることは懸念されることだ。
そもそも、農業はリスクを取って経営すべきものなのかと思う。気候変動や自然災害のようなリスクもある中で、いかにそれらの影響を最小限に抑えるかに日々努力し、いつものように安全な農産物を生産すべく汗を流すのが農業の姿である。
また、6次化に取り組むことが農家がこれからの時代を生き残るための手段だとするのが農政のトレンドであるようだが、6次化に取り組む農業者には、それぞれの目的と事情があり、特色ある商品づくりが農業の主たる目的であるとは到底思えない。農産物の質の向上とその取り組みに対する消費者の理解推進の先頭に立つというのがその役どころであると思う。
過度な競争やリスクを農業に持ち込むのが農政改革ならば、まずは健全な農業の姿を示して、新規就農対策の強化によってそれを持続できるようにすることが必須である。
2013年9月25日(水)
新規就農は甘くないが、なくてはならない
放牧・酪農・農業×84
第4回新規就農情報交換交流会「清水に集まれ!」、熱気に包まれて開催できました。そして、時代の変化とともに新たな課題も見えてきました。
7月13日(土)は、暑い日でした。当初、曇り時々雨の予報で心配しましたが、参加者の心がけが良かったようです。
59名の参加者は、新規就農(参入)を目指して研修中の牧場従業員、酪農ヘルパー、学生などの熱い若者たちと、すでに就農を果たしている先輩酪農家、試験場職員、大学教員、自治体職員、農水省職員、その他おせっかいやきの厚い人々など。
まずは、新規参入で平成17年に就農した芽室町の皆川牧場を視察しました。ペレニアルライグラス草地に放牧しながら、9,000kgの個体乳量、乳脂率3.9%、無脂固形8.8%、分娩間隔409日、平均産次数3.6を実現していることなどの説明を受け、参加者は熱心に質問していました。
芽室町での1年間の実習や、その後の6年間のヘルパーとしての実績があったことが、地域の人たちの支援を得て、就農に結び付いたという体験談は、新規参入希望者にとっては貴重であったと思います。
牧場視察の後は、「新参入希望者の希望と不安」と題して、帯広畜産大学の瀬尾先生に講演していただき、ディスカッションを行いました。
新規参入希望者へのアンケートの結果、思い描く酪農像としては、「低投入」「生活にゆとり」「家畜福祉」を望み、「高泌乳」「大規模」を望まない傾向がはっきりと見られ、これが、受入側、特に農協の方針と合わないのが現実です。
低投入の酪農で生活にゆとりが持てるような経営が、就農初代で実現できるほど現実は甘くはありません。物の豊かな環境で育った彼らに、お金がなくてもゆとりのある生活が送れる開き直りがあるかどうかも不明です。
それでも、新規参入就農者はなくてはならない存在だと思います。
それは、彼らがどんな酪農をやりたいかを明確にイメージしており、もうかりさえすればどんな方法でもよいとは思っていないからです。牛の健康や環境に配慮した持続可能な経営を目指す志の高さは大いに評価すべきと思います。
酪農の現状は、投資の回収のため規模拡大を繰り返す「ゴールなき規模拡大」が顕著であり、循環型の持続的な酪農とは全く別の方向へ走っているようにしか思えません。
新規就農者は酪農業界の希望であり、地域の酪農家にとっての刺激です。
思い描く酪農像の実現のため、傾斜が多いとか圃場が四角でないとかで、放牧以外に土地を有効に利用する手立てがないような場所を地道に探すか、思い切って農地の安い道北に土地を求めるのも一つの解決法でしょう。牛がいなければ生産が上がらないような土地で営農することこそ酪農の醍醐味でしょう。
農地や空き牧場のきめ細かな情報が、その場所での就農に最適な担い手に届くように機能するネットワークづくりを急がなければなりません。
7月13日(土)は、暑い日でした。当初、曇り時々雨の予報で心配しましたが、参加者の心がけが良かったようです。
59名の参加者は、新規就農(参入)を目指して研修中の牧場従業員、酪農ヘルパー、学生などの熱い若者たちと、すでに就農を果たしている先輩酪農家、試験場職員、大学教員、自治体職員、農水省職員、その他おせっかいやきの厚い人々など。
まずは、新規参入で平成17年に就農した芽室町の皆川牧場を視察しました。ペレニアルライグラス草地に放牧しながら、9,000kgの個体乳量、乳脂率3.9%、無脂固形8.8%、分娩間隔409日、平均産次数3.6を実現していることなどの説明を受け、参加者は熱心に質問していました。
芽室町での1年間の実習や、その後の6年間のヘルパーとしての実績があったことが、地域の人たちの支援を得て、就農に結び付いたという体験談は、新規参入希望者にとっては貴重であったと思います。
牧場視察の後は、「新参入希望者の希望と不安」と題して、帯広畜産大学の瀬尾先生に講演していただき、ディスカッションを行いました。
新規参入希望者へのアンケートの結果、思い描く酪農像としては、「低投入」「生活にゆとり」「家畜福祉」を望み、「高泌乳」「大規模」を望まない傾向がはっきりと見られ、これが、受入側、特に農協の方針と合わないのが現実です。
低投入の酪農で生活にゆとりが持てるような経営が、就農初代で実現できるほど現実は甘くはありません。物の豊かな環境で育った彼らに、お金がなくてもゆとりのある生活が送れる開き直りがあるかどうかも不明です。
それでも、新規参入就農者はなくてはならない存在だと思います。
それは、彼らがどんな酪農をやりたいかを明確にイメージしており、もうかりさえすればどんな方法でもよいとは思っていないからです。牛の健康や環境に配慮した持続可能な経営を目指す志の高さは大いに評価すべきと思います。
酪農の現状は、投資の回収のため規模拡大を繰り返す「ゴールなき規模拡大」が顕著であり、循環型の持続的な酪農とは全く別の方向へ走っているようにしか思えません。
新規就農者は酪農業界の希望であり、地域の酪農家にとっての刺激です。
思い描く酪農像の実現のため、傾斜が多いとか圃場が四角でないとかで、放牧以外に土地を有効に利用する手立てがないような場所を地道に探すか、思い切って農地の安い道北に土地を求めるのも一つの解決法でしょう。牛がいなければ生産が上がらないような土地で営農することこそ酪農の醍醐味でしょう。
農地や空き牧場のきめ細かな情報が、その場所での就農に最適な担い手に届くように機能するネットワークづくりを急がなければなりません。
2013年5月20日(月)
第4回新規就農情報交換交流会「清水に集まれ!」
放牧・酪農・農業×84
平成14年から平成16年に3回開催した後、休止していた新規就農情報交換交流会「清水に集まれ!」を9年ぶりに開催します。
新規就農を目指して頑張りながらも壁にぶつかっている方、仲間と交流して横のつながりを広げたいたい方、すでに就農を果たした方、新規就農を応援したいと思っている方のご参加をお待ちしています。
特に放牧で新規就農したいと思っている方、ぜひご参加ください。
第4回新規就農情報交換交流会「清水に集まれ!」
○日時 平成25年7月13日(土)午後13時から(12時30分受付)
○場所 清水町少年自然の家(清水町字羽帯南10線94番地3)
○開催趣旨
国は自給飼料基盤に立脚した畜産の推進は重要な課題と認識し、畜産関係者の取り組むべき施策の方向性を明らかにする「酪肉近代化基本方針」においても、「資源循環型で環境負荷軽減に資する自給飼料基盤に立脚した酪農及び肉用牛生産への転換」としてしっかりと位置づけています。
また、力強い農業構造実現に向けては、人と農地の問題を解決しなければならないとして、青年新規就農倍増プロジェクトを打ち出すなどしています。
土地利用型の農業の典型である放牧酪農への新規就農の実現は、国が位置付ける理想の形態といえるはずです。
しかし、放牧での新規就農の難しさは、技術が向上しているにもかかわらず、第1回の「清水に集まれ!」を開催した10年前より改善しているどころか、厳しさが増しています。
1月に開催された十勝酪農セミナーで、「あなたはどのタイプの経営を目指すか」と提示された5つのモデル農家は、つなぎ飼いであったり、フリーストールであったり、ロボット搾乳だったりしますが、いずれも搾乳牛100頭以上で乳量11,000kg/頭以上。50頭規模で乳量8,000kg/頭の経営は想定されていませんでした。
酪農の専業・分業化が進み、メガファームが規模拡大を競う中で、志ある若者が個人の力で新規就農を果たしていくのは容易なことではありません。
技術、資金力に加えて、以前にも増して、強い意志とまわりのサポートが必要だと感じます。
今こそ、新規就農情報交換交流会を開催し、就農希望者同士、新規就農の先輩、関係者の交流と情報交換を行い、本来あるべき酪農の姿を再考するとともに、地に足の着いた新規就農を実現する一助としたいと思います。
○内容
開会式(13:00~13:30)
主催者あいさつ
日程説明
移動(13:30~14:00)
乗り合わせ
視察(14:00~15:30)
皆川牧場(芽室町)
牧場概要
就農経過説明
放牧について
質疑応答
移動・休憩(15:30~16:30)
研修(16:30~18:00)
上羽帯少年自然の家
講演「新規就農に関するアンケート調査から」
帯広畜産大学瀬尾哲也氏
グループディスカッション(視察、講演をふまえて)
休憩(18:00~19:00)
懇親会(19:00~22:00)
焼き肉&キャンプファイヤー
就寝(随時)
上羽帯少年自然の家
寝具は各自持参
宿泊料は町民無料、町外600円/人
五右衛門風呂あり
トイレは洋式もあるが非水洗
閉会(自由解散)、後片付け
○会費
参加料 500円
懇親会費 3,000円
宿泊費 600円(町民外)
○募集期日
平成25年6月30日
○問い合わせ・申し込み先
====================
参加申込書
氏名
所属
住所
連絡先(電話・メール)
参加(○印)
視察 研修 懇親会
新規就農を目指して頑張りながらも壁にぶつかっている方、仲間と交流して横のつながりを広げたいたい方、すでに就農を果たした方、新規就農を応援したいと思っている方のご参加をお待ちしています。
特に放牧で新規就農したいと思っている方、ぜひご参加ください。
第4回新規就農情報交換交流会「清水に集まれ!」
○日時 平成25年7月13日(土)午後13時から(12時30分受付)
○場所 清水町少年自然の家(清水町字羽帯南10線94番地3)
○開催趣旨
国は自給飼料基盤に立脚した畜産の推進は重要な課題と認識し、畜産関係者の取り組むべき施策の方向性を明らかにする「酪肉近代化基本方針」においても、「資源循環型で環境負荷軽減に資する自給飼料基盤に立脚した酪農及び肉用牛生産への転換」としてしっかりと位置づけています。
また、力強い農業構造実現に向けては、人と農地の問題を解決しなければならないとして、青年新規就農倍増プロジェクトを打ち出すなどしています。
土地利用型の農業の典型である放牧酪農への新規就農の実現は、国が位置付ける理想の形態といえるはずです。
しかし、放牧での新規就農の難しさは、技術が向上しているにもかかわらず、第1回の「清水に集まれ!」を開催した10年前より改善しているどころか、厳しさが増しています。
1月に開催された十勝酪農セミナーで、「あなたはどのタイプの経営を目指すか」と提示された5つのモデル農家は、つなぎ飼いであったり、フリーストールであったり、ロボット搾乳だったりしますが、いずれも搾乳牛100頭以上で乳量11,000kg/頭以上。50頭規模で乳量8,000kg/頭の経営は想定されていませんでした。
酪農の専業・分業化が進み、メガファームが規模拡大を競う中で、志ある若者が個人の力で新規就農を果たしていくのは容易なことではありません。
技術、資金力に加えて、以前にも増して、強い意志とまわりのサポートが必要だと感じます。
今こそ、新規就農情報交換交流会を開催し、就農希望者同士、新規就農の先輩、関係者の交流と情報交換を行い、本来あるべき酪農の姿を再考するとともに、地に足の着いた新規就農を実現する一助としたいと思います。
○内容
開会式(13:00~13:30)
主催者あいさつ
日程説明
移動(13:30~14:00)
乗り合わせ
視察(14:00~15:30)
皆川牧場(芽室町)
牧場概要
就農経過説明
放牧について
質疑応答
移動・休憩(15:30~16:30)
研修(16:30~18:00)
上羽帯少年自然の家
講演「新規就農に関するアンケート調査から」
帯広畜産大学瀬尾哲也氏
グループディスカッション(視察、講演をふまえて)
休憩(18:00~19:00)
懇親会(19:00~22:00)
焼き肉&キャンプファイヤー
就寝(随時)
上羽帯少年自然の家
寝具は各自持参
宿泊料は町民無料、町外600円/人
五右衛門風呂あり
トイレは洋式もあるが非水洗
閉会(自由解散)、後片付け
○会費
参加料 500円
懇親会費 3,000円
宿泊費 600円(町民外)
○募集期日
平成25年6月30日
○問い合わせ・申し込み先
====================
参加申込書
氏名
所属
住所
連絡先(電話・メール)
参加(○印)
視察 研修 懇親会
2012年2月17日(金)
放牧に適した牛群改良
放牧・酪農・農業×84
1月12日、西十勝放牧研究会1月例会に合わせて、日本ホルスタイン登録協会主催の放牧推進研修会がJA十勝清水町の会議室で開催されました。
毎年約100kgの乳量増(遺伝評価値)を進めてきたホル協が、なぜ一般的には乳量水準が低い放牧を推進するのか疑問に思う方も多いと思います。しかし、関係機関などでは、世界的な飼料高騰に対処するため、輸入濃厚飼料主体から粗飼料基盤に立脚した乳牛飼養管理に転換を図ることが重要課題となっているのです。
これまでは1頭当たりの乳量を上げることで生産コストの低減を図ってきたため、放牧や粗飼料主体の経営はマイナー的存在でした。今後は、放牧主体などの濃厚飼料多給に依存しない粗飼料主体の飼養管理への転換を急ぎ、その経営の安定を図るため、飼養管理技術とともに乳牛改良の面でも関係機関のバックアップが強化されることになります。
ホル協は、濃厚飼料多給に依存しない飼養管理方式を推進するため、放牧に適した乳牛改良体制の構築を図る必要があるとしていますが、具体策として決定打といえるものはなさそうです。
まず、放牧主体の酪農経営について、飼養管理、血統、体型などの実態調査を行い、そこで求められている形質を明らかにし、放牧に適した牛群づくりのための交配システムを開発したとしています。
体型で放牧酪農家の牛群の特徴は、肢蹄の良さと乳房の浅さでした。そして、この2つは放牧酪農家が求めている形質でもあります。さらに、放牧酪農家が望んでいる放牧期間中の乳脂率の低下防止を加えた3つの形質を備えた牛群が放牧に適したものということとするとのことです。
乳用牛群改良交配システムは、酪農家が望む形質と、雌牛の血統、能力・体型データを入力し、主にNTP上位40位以内の種牛の中から検索・選定するものです。
要するに、NTP上位40位以内の種牛の中から、肢蹄がよくて乳房が浅く、乳脂率の高いもので近交系数の低いものを見つけ出すというものです。
実際には、NTP上位40位までの種牛で乳脂率を上げるものはそういませんし、そういう種牛は乳量増の評価値は高くないので、濃厚飼料多給でなくても飼えるのではないかということでした。
しかし、こういう方法で、本当に放牧に適した、粗飼料の利用性が高い牛群ができるのだろうかという疑問は残ります。
濃厚飼料多給飼養の下で採られたデータによって選抜された種牛の中から、濃厚飼料多給に依存しない牛群づくりのための種牛を検索することには多少無理があると感じます。
乳量の評価値が低い牛を選ぶことが放牧に向いた牛を作ることになることにならないはずです。それだと改良することの必要性にすら疑問がわいてきます。特に最近は、繁殖成績を犠牲にして乳量を追求しているとの思いが酪農家の中でくすぶっています。
粗飼料の利用性が高い牛とは、濃厚飼料多給下であまり乳の出ない牛ではなくて、粗飼料主体の飼養下で乳の出る牛であるべきです。ニュージーランドからの精液輸入が求められ、行われるようになったのも、そこにあると思います。
毎年約100kgの乳量増(遺伝評価値)を進めてきたホル協が、なぜ一般的には乳量水準が低い放牧を推進するのか疑問に思う方も多いと思います。しかし、関係機関などでは、世界的な飼料高騰に対処するため、輸入濃厚飼料主体から粗飼料基盤に立脚した乳牛飼養管理に転換を図ることが重要課題となっているのです。
これまでは1頭当たりの乳量を上げることで生産コストの低減を図ってきたため、放牧や粗飼料主体の経営はマイナー的存在でした。今後は、放牧主体などの濃厚飼料多給に依存しない粗飼料主体の飼養管理への転換を急ぎ、その経営の安定を図るため、飼養管理技術とともに乳牛改良の面でも関係機関のバックアップが強化されることになります。
ホル協は、濃厚飼料多給に依存しない飼養管理方式を推進するため、放牧に適した乳牛改良体制の構築を図る必要があるとしていますが、具体策として決定打といえるものはなさそうです。
まず、放牧主体の酪農経営について、飼養管理、血統、体型などの実態調査を行い、そこで求められている形質を明らかにし、放牧に適した牛群づくりのための交配システムを開発したとしています。
体型で放牧酪農家の牛群の特徴は、肢蹄の良さと乳房の浅さでした。そして、この2つは放牧酪農家が求めている形質でもあります。さらに、放牧酪農家が望んでいる放牧期間中の乳脂率の低下防止を加えた3つの形質を備えた牛群が放牧に適したものということとするとのことです。
乳用牛群改良交配システムは、酪農家が望む形質と、雌牛の血統、能力・体型データを入力し、主にNTP上位40位以内の種牛の中から検索・選定するものです。
要するに、NTP上位40位以内の種牛の中から、肢蹄がよくて乳房が浅く、乳脂率の高いもので近交系数の低いものを見つけ出すというものです。
実際には、NTP上位40位までの種牛で乳脂率を上げるものはそういませんし、そういう種牛は乳量増の評価値は高くないので、濃厚飼料多給でなくても飼えるのではないかということでした。
しかし、こういう方法で、本当に放牧に適した、粗飼料の利用性が高い牛群ができるのだろうかという疑問は残ります。
濃厚飼料多給飼養の下で採られたデータによって選抜された種牛の中から、濃厚飼料多給に依存しない牛群づくりのための種牛を検索することには多少無理があると感じます。
乳量の評価値が低い牛を選ぶことが放牧に向いた牛を作ることになることにならないはずです。それだと改良することの必要性にすら疑問がわいてきます。特に最近は、繁殖成績を犠牲にして乳量を追求しているとの思いが酪農家の中でくすぶっています。
粗飼料の利用性が高い牛とは、濃厚飼料多給下であまり乳の出ない牛ではなくて、粗飼料主体の飼養下で乳の出る牛であるべきです。ニュージーランドからの精液輸入が求められ、行われるようになったのも、そこにあると思います。
2011年12月31日(土)
都市との交流がテーマだったこの一年
放牧・酪農・農業×84
今年の最大の出来事はやはり東日本大震災でした。あまりに悲惨な映像を目にし、被災された方々の苦痛はいかばかりかと思ったとき、私の牧場が牛舎火災の際に助けられたお返しをするのは今しかないと思い、身の丈を超えた額の募金をさせていただきました。そして、それを取り返すべく経営でのミスを最小化するのが今年の課題でした。おかげさまで、今年は草で乳を搾ったと実感でき、技術経営的にはまあまあの結果を残すことができたと思っています。自然の恵みと怖さ両方を味わった年でした。
今年から本格的に始めたファームインは、「わざわざ田舎にやってきて泊まろうとする人に悪い人なんかいないのよ」というファームインの先輩の言葉どおり素敵なお客様に恵まれて、都市の人々との良い交流ができたと思っています。震災の影響か、こどもを自由に遊ばせてあげたいというファミリーのお客様が多かったようにも思いましたが、どんな人にも心休まる場所になり、また、食と農への理解を進める機会となるように務めました。私たちのファームインの名前‘Kuhnel’は、kuh(牛)に関係あるドイツ語のようですが、単純に「食う」「寝る」を横文字にしたものです。牛にとって、食うことと寝ることは生理生態上最も基本的なことです。歩きながら草をむしっているときはもちろん、寝そべって反芻しているときも、牛にとっては食べている時間です。そんな牛にとって自然で大切な生活の場である放牧地をながめながらのんびりと過ごし、そして、ここがミルクの生まれるところなんだと感じてもらえたらとの思いをこめてあります。
修学旅行高校生や大手企業幹部研修の受入れを引き受けたのも、同様に農業への理解を言葉ではなく実体験を通して推進しようという主催者の意図に共感したからです。私たちがいかに真剣に生産活動に取組んでも、都市の消費者や中央の影響力のある人々が誤った農業・農村のイメージを持ったままでは、食と農の大事さを尊重し、国民に支持される農業・農村を作っていくことはできません。都会で生まれ育ったこどもたちにとって農産物はスーパーで並んでいるものであって、野菜が畑になっているのを見るのが初めてだった生徒たちもいました。分業化が進む中で、自分たちが食べるものがどうやって育てられ収穫されるか考えるきっかけになったと思います。大人も同様です。大手企業の部長クラスの研修生達も多くが、家族酪農では5、6頭の牛を手搾りするするイメージを持っていました。それが35~1000頭もの牛を機械搾乳し、高度で複合的な知識と技術によって成り立ち、しかし、重労働によって支えられている現実を目の当たりにして、ずいぶんと驚いていたようでした。この研修によって、彼らは「農家は努力不足で競争力がなく保護されている」との認識を改め、「牛乳は安すぎる」との声も聞かせてくれました。
TPPには、おそらく、いくら反対しても突っ込んでいくのだろうと思います。問題は、農業が受けるダメージを所得補償によって解決できるとしていることです。農業のあるべき姿が共有されていればそれもありですが、どんな農業・農家に対して直接支払いしていくのかほとんど議論されていないのが現実ではないでしょうか。規模を拡大して競争力ある経営体を育てていくのか、環境重視の持続的農業を理想とするのか、そこが不明のままでは農家は先が見えません。国の中長期の農業ビジョンには、持続的な農業を重視する記述がありますが、実際に貿易自由化が問題になると規模拡大のみが注目されます。食と農の大事さを、農家や一部の消費者団体役員が訴えるのではなく、国民全体の関心事として共有できるようにするため、草の根での都市と農村の交流を続けていくことが非常に重要であると感じています。
いろいろあった一年でしたが、農業サイドからの発信と都市との交流の大事さを感じた年でした。
今年から本格的に始めたファームインは、「わざわざ田舎にやってきて泊まろうとする人に悪い人なんかいないのよ」というファームインの先輩の言葉どおり素敵なお客様に恵まれて、都市の人々との良い交流ができたと思っています。震災の影響か、こどもを自由に遊ばせてあげたいというファミリーのお客様が多かったようにも思いましたが、どんな人にも心休まる場所になり、また、食と農への理解を進める機会となるように務めました。私たちのファームインの名前‘Kuhnel’は、kuh(牛)に関係あるドイツ語のようですが、単純に「食う」「寝る」を横文字にしたものです。牛にとって、食うことと寝ることは生理生態上最も基本的なことです。歩きながら草をむしっているときはもちろん、寝そべって反芻しているときも、牛にとっては食べている時間です。そんな牛にとって自然で大切な生活の場である放牧地をながめながらのんびりと過ごし、そして、ここがミルクの生まれるところなんだと感じてもらえたらとの思いをこめてあります。
修学旅行高校生や大手企業幹部研修の受入れを引き受けたのも、同様に農業への理解を言葉ではなく実体験を通して推進しようという主催者の意図に共感したからです。私たちがいかに真剣に生産活動に取組んでも、都市の消費者や中央の影響力のある人々が誤った農業・農村のイメージを持ったままでは、食と農の大事さを尊重し、国民に支持される農業・農村を作っていくことはできません。都会で生まれ育ったこどもたちにとって農産物はスーパーで並んでいるものであって、野菜が畑になっているのを見るのが初めてだった生徒たちもいました。分業化が進む中で、自分たちが食べるものがどうやって育てられ収穫されるか考えるきっかけになったと思います。大人も同様です。大手企業の部長クラスの研修生達も多くが、家族酪農では5、6頭の牛を手搾りするするイメージを持っていました。それが35~1000頭もの牛を機械搾乳し、高度で複合的な知識と技術によって成り立ち、しかし、重労働によって支えられている現実を目の当たりにして、ずいぶんと驚いていたようでした。この研修によって、彼らは「農家は努力不足で競争力がなく保護されている」との認識を改め、「牛乳は安すぎる」との声も聞かせてくれました。
TPPには、おそらく、いくら反対しても突っ込んでいくのだろうと思います。問題は、農業が受けるダメージを所得補償によって解決できるとしていることです。農業のあるべき姿が共有されていればそれもありですが、どんな農業・農家に対して直接支払いしていくのかほとんど議論されていないのが現実ではないでしょうか。規模を拡大して競争力ある経営体を育てていくのか、環境重視の持続的農業を理想とするのか、そこが不明のままでは農家は先が見えません。国の中長期の農業ビジョンには、持続的な農業を重視する記述がありますが、実際に貿易自由化が問題になると規模拡大のみが注目されます。食と農の大事さを、農家や一部の消費者団体役員が訴えるのではなく、国民全体の関心事として共有できるようにするため、草の根での都市と農村の交流を続けていくことが非常に重要であると感じています。
いろいろあった一年でしたが、農業サイドからの発信と都市との交流の大事さを感じた年でした。
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