放牧・酪農・農業(84)


20111020(木)

岩田牧場で見つけた放牧のエッセンス


岩田牧場で見つけた放牧のエッセンス

 日勝峠から清水町に下りてきてすぐの地区、石山で酪農をしている岩田さんの牧場を訪問しました。

 牧場の中には開墾時に掘り出された巨石が転がっていますが、いくつかの石には碑文が刻まれ、記念碑になっています。

 「酪農 乳牛 放牧 開拓 笹 柏」と刻まれたこの石の南側には「土 木 山 水 川 どん底 有無」、北側には「草 感謝」​とあり、戦後開拓の苦労と放牧での営農継続の自信がうかがわれま​す。

       
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 また、北側下部には

「草は早期に利用すべきもの この機を逸し古くせば 苦を招くものなり
牧草は如何なる条件下にでも生育不可能地なく踏圧に耐え再生力も旺盛にて頗る逞しき草なり
この価値高き牧草を家畜が食む時 そこには人間の命の糧となる限り無き数多の自然の恵みを与えられるものなり
この牧草地の乳牛の放し飼いの風景は素晴らしく 同時に牛は健康にして 飼育法の原点なり
この牛飼いの基本理念により営みを重ねる時知らずして そこには​豊かな富をも蓄え得られるものなり
この自然よりの偉大なる恵みには唯々感謝の念にて掌を合せる思いあるのみ」

という放牧の心得ともいうべき岩田さんの思いも刻まれています。

       
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 まさに放牧酪農のエッセンスであり、科学的な論文にも劣らないものであると思います。



2011728(木)

土地利用型酪農は負けない


土地利用型酪農は負けない

 このたび、全国草地畜産コンクールにおいて農林水産省生産局長賞をいただきました。私どものような未熟なものが受賞してよいものかと思ってしまいますが、土づくり、草づくりを進めて、健康に牛を飼い、良い乳を搾る健全な酪農を目指すという取り組みの方向性は間違っていないのだと評価されたものと考えております。

 3月11日の大地震による福島第一原子力発電所の事故で、福島をはじめ東北、関東の熱心に自給飼料基盤を強化してこられた酪農家のみなさんが、収穫した牧草を食べさせられない、放牧できないといった状況に追い込まれています。さらに、放射線量の高い稲わらを食べた肉牛が「汚染牛」と呼ばれて忌避され、堆肥もまけなくなってしまいました。自給飼料基盤強化や耕畜連携にコツコツと積み上げてきた努力が一瞬にして崩され、全否定された理不尽さは言葉に表すことはできないでしょう。土地利用型酪農の危機であり、私たちにとっても決して他人事でない大問題です。

 生活の利便性や経済性を追求することが、酪農の王道さえも脅かす今日、私たちは信念を持って、土づくり、草づくりの原点に返り、消費者の皆さんとの絆をつくって、持続可能で必要とされる酪農をめざしていかなければならないと考えております。



201177(木)

「明治北海道牛乳 彩る季節」の何十分の一かは・・・・


「明治北海道牛乳 彩る季節」の何十分の一かは・・・・

 清水町、足寄町などの放牧を行っている酪農家の生乳を集めて、明治から新しい北海道牛乳「彩る季節」が先月下旬から製造販売されています。

 私たちの牧場の牛乳も、農協の大きなローリー車でその工場に運ばれていきます。

 「明治北海道牛乳彩る季節」は、

•年間を通し、北海道放牧酪農家が育てた牛の生乳を100%使用し、
•牧草の生育が旺盛な6-9月は、北海道で放牧されて育った牛からだけ搾った、放牧生乳を100%使用した成分無調整牛乳で、
•北海道にて産地パックする

としています。

       
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 パッケージには、

「放牧酪農とは? 年間を通して地域の土地資源を活用し、土・草・牛が結びついた資源循環型の、自然環境にやさしい酪農です。放牧酪農家は、牛にとっての快適な環境をつくり上げるため、良質な牧草を育て、日々さまざまな取り組みをしています。」

と書かれています。

     
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 この牛乳がターゲットとしている「北海道の自然や季節感を楽しみながら、牛乳を飲みたいと思っている方」に届ける思いを確かなものにするため、私たちも日々がんばっていきたいと思います。



2011529(日)

草が乳に変わる現場


草が乳に変わる現場

 5月下旬、草地の生長量が最大になる季節がやってきました。

 あふれるように伸びてくる草を食べて、牛たちの乳はどんどん張ってきます。

 カルピスのCMで、子どもたちに「カルピス作って」とねだられた先生(長澤まさみ)が牧場に行って牛の乳を搾り工場に運んでカルピスをつくろうとして、「そこからじゃなくって」と突っ込まれるのがありますが、その「そこ」がまさにここです。



2011529(日)

草の力を生かそう


草の力を生かそう

 西十勝放牧研究会2011年5月例会が、5月21日、鹿追町で開催されました。

 今日の例会は、草の伸びがピークに近づきつつある時期のフィールドということで、真剣な意見交換が行われました。

 フィールド研修の場をお借りした武者牧場、樽見牧場ともに良い草地を持っているのですが、その草を十分に生かし切れているとは言えず、もったいない状況でした。

 武者牧場は5月15日、樽見牧場は5月9日の放牧開始でしたが、いずれも遅すぎです。そして、草がガンガン伸びている時期なのに両牧場とも昼間放牧だけで夜間の放牧を行っていません。本当にもったいないです。

 武者牧場の草地では、オーチャードグラスやライグラスが株化してクローバがあまり見えません。一方、ライグラスは全然冬枯れしている様子はありません。

      
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 簡易柵の左側が明日放牧する牧区。今日放牧している牧区(右)との差がはっきりしていて良く食べている印象から、一見良い放牧管理がされているように見えますが、大きな問題も含んでいます。ひとつは明日放牧する牧区の草が伸びすぎていることですが、これは放牧開始が遅れたことが原因です。そして、このように伸びた草を右側のように短く食べさせると、食べられた後の草が茎だけになって葉がなくなってしまうので光合成が十分できず、再生速度が遅くなってしまいます。そして、草を大事にしようとする意識が草を伸びすぎにしてしまいます。

 これは、北海道の多くの放牧酪農家が経験する放牧のむずかしさでもあります。粗放な放牧から抜け出そうと牧区を小さくいくつにも分けてローテーションさせる放牧を「集約放牧」と呼び、システマチックに放牧管理しているつもりが、実際は目の前の草の状況よりも放牧の方式を守ることに精いっぱいになっているうちに、想定を超えるこの時期の草の伸びについていけなくなってしまうのです。

 草は適度な放牧圧がかかることによって、短く食べられても伸び続ける密度の高い草地になっていくものだということを理解することが大事です。


       
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 樽見牧場の草地も草の伸びに加速度がついています。草の伸びにローテーションが追いついていません。

 この放牧地の草は分析の結果、CP29、TDN80であることが判明しています。濃厚飼料の成分を超える草を余らせて、夜、舎内で乾草を与えるのはあまりにももったいないです。

 試験場の先生方からも、両牧場とも頭数に比べて放牧地の面積が少ないので、しっかり放牧地の草を食べさせて、不足する分だけを補ってやるくらいの考え方でやると良いのではないかと、草の力を余すことなく乳生産に生かすよう助言がありました。

 百も承知のはずですが実践するには、ちょっとした勇気が必要なのかもしれません。

 まだまだ、フィールド学習はマンネリ化していないし、意義はあるということを再確認した次第です。



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橋本てるあき
橋本牧場(酪農)場主

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