2012年4月25日(水)
灰色のみぎゃー【後編】
猫話×153
「あら、お久しぶりです」
コンビニでAさんの奥様が声をかけてきた。
「ああ、どうも。」
「あの、前に言ってた子猫、貰い手見つかりました?」
「いえ、、、まだですね」
諦め顔で私は答えた。
里子に出すと決めた日から
ちゃんとした名前もつけず
子猫を「みぎゃー」呼んでいた。
そしてもうすでに彼女がうちにきてから
3ヶ月が過ぎようとしていた。
けれど3ヶ月たっても
まおさんの不機嫌は治らず
また子猫も親を追うように
まおさんを諦めることはしなかった。
まおさんが眠りについた時を狙って
その乳房に吸い付き
慌てたまおさんが子猫を叩く
その繰り返しだった。
そしてまおさんはどんどん不機嫌になり
子猫など産んだこともない乳房は
すっかり血がうっ血するようになってしまった。
飼い主探しは相変わらずなしのつぶてで
相性が悪そうでも
このままみぎゃーを飼うしかないのかも
そんな諦めムードが
私にもまおさんにも漂っていた頃だった。
みぎゃーがうちに来たばかりの時
一度Aさんの奥さんとは
コンビニで行き会った事があった。
社交辞令のような挨拶を交わし
ちょっとだけ気まずいような
手持ち無沙汰なような空気が流れた。
実際、Aさんとは元おなじ会社だったが
その奥さんとは顔見知り程度で
さほど親しくもなく
かえって声をかけられた事に驚いたからだ。
「あの、Aさんやお嬢さんお元気ですか?」
「ええ、元気です」
・・・えーとどうしよう(汗)間が持たない。
どうしよう・・・。そうだ!
Aさん宅には以前、猫を飼った話を聞いたことがあった。
だが、いきなり心臓麻痺のように
走ってくる途中でぱったりと突然死をしたと聞いた。
「あの時は子供が泣いてなぁ」
以来猫は飼ってない。
Aさんから聞いたのはそういう話だった。
だが、Aさんの家は私の住んでいた田舎でも
かなり民家のない奥の奥の一軒家で
猫がいなくなった途端、鼠だのヘビだのが入り込み
困っている旨も聞いていた。
それで奥さんにもう一度
子猫を飼う気はないですか?と聞いたのだった。
奥さんは少し考えこんでいたが
「うーん、猫は2匹ほど飼っても
すぐ亡くなったりしたので
ちょっと・・・。
まぁ子供とかにも聞いてみますね
決まったら電話します。」
その時はそんな感じで別れていた。
それからゆうに3ヶ月。
もうAさんの奥さんは猫のことなど
忘れ去っているものだと思っていた。
その時は私も時間がなく、そのまま別れたが
「なにをいまさら」
そんな気分であてにさえもしていなかった。
みぎゃーは当たり前のような顔で
家の一番日当たりのいい場所で寝転んでいた。
「もうそろそろ、手術かな」
私はそう考えていた。
次の日
家のチャイムが鳴り、
誰だろうと出てみると
Aさんの奥さんとお嬢さんが立っていた。
「猫ちゃんの話をしたら
子供がどうしても見たいって言い出して」
奥さんはにこにこしながらそう言った。
アポイントなしで家に来たことや
まだ話してなかったのかと言う呆れた気もちや
いろんなことが交じり合った複雑な笑顔で
「ああ、どうぞ」と私は二人を招き入れた。
人を嫌うまおさんは慌てて押入れに飛び込んだ。
「ちょっと、みぎゃさん、おいで」
そう声をかけると
すでにもう子猫とは言いづらい
中猫になったみぎゃーが駆け寄ってきた。
それでもまだ小柄で愛らしいみぎゃーは
お嬢さんの心をつかむには十分すぎるようだった。
そしてしばらくそのまま遊んでいたが
どうしても別れがたいと言うお嬢さんに抱かれ
そのままみぎゃーは貰われることになった。
必要であろう餌だの砂だのの生活用品を載せて
そのままみぎゃーを載せた車は見えなくなった。
押入れから出てきたまおさんは
灰色のチビを探すこともせず
玄関でしばし匂いを嗅いだあと
ちいさく1つため息をついて
みぎゃーがよく寝ていた場所に丸くなった。
その夜から
まおさんは当たり前のように布団に入り込んできた。
それまではあまり布団に入ると言う事をせず
布団の上だけで寝ていた。
もっぱらみぎゃーだけが人間と一緒に寝ると言う
行動をしていたのに。
「そんなにあのチビが羨ましかったのかい」
私の問いにまおさんは黙って目をつぶった。
それからずっと
みぎゃーを持っていたA家からの連絡はなかった。
一応、室内飼をして欲しい旨と
避妊手術をしてほしいこと。
手術をするなら避妊手術費用は半額うちで持ちますので
領収書を見せて下さいねと伝えてあった。
みぎゃーの身体の大きなら
あと2ヶ月もしないうちに発情が来るだろう。
だがA家からの連絡はなく
おそらく請求することを慮って
黙っているのかなと思っていた。
連絡がないのは少し不安だったが
いまさら人にあげた猫にあれこれ注文をつけても
気分を害されるだけだろう。
これでやっとみぎゃーも幸せになった。
私も責任の荷が降りた。
私はそう信じようとしていた。
それから数ヶ月
今度は町でAさんと偶然出くわした。
「あの奥にあった家から出て
町に引越ししたんだわ。」
「そうなんですか」
「んで、先週引越ししたばかりよ」
「ずいぶん急だったんですね」
色々な話を聞いたのだが
将来的なお子さんの通学や
生活の便を思えば仕方のないことだとも思えた。
「あの、猫は? 猫はどうしてますか?」
「ああ、あの猫な。」
その笑顔と裏腹に
Aさんから聞いた話は
私が耳を塞ぎたくなるような話だった。
Aさんの家の前は殆ど車など通らないので
別に室内だけで飼わなくていいだろう。
どうせこんな山奥だからオス猫も来るわけがない。
そう思っていたそうだ。
だが持ち帰ったみぎゃーは
わずか1~2週間程で発情し
大声で鳴き始め
殆ど外で飼われていた。
そしてあっと言う間の妊娠。
けれど、家の持ち主との賃貸更新の話で
町に出る決意を決め町の一軒家を借りた。
本当は猫は置いて行くつもりだったが
引越しの数日前に物置で子猫を産み
引越しのさなかに子猫を家に運び込んだので
娘に子猫がいることがばれてしまい
そのまましょうがないのでつれてきた。
けれど町の家は猫が禁止でしょうがないので
玄関フードの戸を開けてそこに置いていると。
あまりの言い振りに
私が怒って抗議するとAさんは
「お前だって要らないから
俺んちに押し付けたんだべ」
笑いながらそう言って相手にしなかった。
話にならないAさんの態度や
きちんとしておかなかった自分の馬鹿さ加減や
揉めることへの不安などでぐるぐるになって
その日はずっと家でまおさんを抱えて泣いた。
私は次の日
そのAさんの家へ行ってみた。
とても大きな家だった。
1畳ほどの玄関フードのドアが開け放たれていて
そこに小さなダンボールが置かれ
灰色の猫の後ろ頭が見えた。
「みぎゃーさん?」
私が小さく声をかけると
振り返ったみぎゃーが
大慌てでこちらに走り寄ってきた。
ゴロゴロ喉を鳴らし
ずっとみぎゃーみぎゃーと
あの声で鳴いた。
「お前、覚えてたんだね」
彼女を抱き上げようとしたら
みぎゃーは慌てて振りほどいて
段ボールに戻っていった。
そうか、子猫がいるのか・・・
刺激してはいけないだろう。
そう思って離れようとしたとき
みぎゃーは
何かをくわえて走ってきた。
そしてそれを私の足の上に置いた。
彼女の産んだ子猫だった。
そしてあの最初に出会ったときのように
ずっとみぎゃーみぎゃーと
私の顔を見上げて
説明しているように見えた。
「そっか、お前、お母さんになったんだね。
よく頑張ったね。偉かったね。」
頭を撫でると
満足そうに子猫を段ボールに戻しに行き
そしてまた別の子を持ってきた。
3匹の子猫すべてを私に見せ終わると
みぎゃーは箱に戻り横になり
ゴロゴロと喉を鳴らして子猫に乳を与えた。
私は彼女への申し訳なさに
いたたまれなくなって
そのままそこを後にした。
それからまた、私はAさんの家へ
みぎゃーに会いに行ったが
数日してAさんから短い電話で
「もう来ないでくれ」
と 遠まわしにそういう内容のことを言われた。
すべては私が彼女を
彼らに引渡したせいで起きたことであり
自分が引き受けれないのに
他人を責めるのは卑怯だ。
あげてしまったものはそこの家のものだろう。
そういう話を友人にも言われた。
ずっと馬や牛を生活の術にしていた自分には
渡した動物の扱いに口を出すことは
最大の禁忌だった。
所有権を譲渡すると言うことは
そういうことなのだと
その頃の自分はそう思っていた。
今でもその時の自分の選択は卑怯だったのだと思う。
私はそのままみぎゃーに会うことは無くなった。
わずか700メートルほどの
その家を私は遠回りして過ごした。
数年して偶然Aさんに帯広市内で会うことがあり
彼の口からみぎゃーの消息を聞いた。
子猫が4ヶ月くらいになったとき
家の前で1匹が車に轢かれ亡くなったそうだ。
子猫の遺骸を目の前の川に流したら
それを追いかけてみぎゃーが走ってゆき
そのまま居なくなったと。
そのすぐあと子猫もいなくなったので
戻った親猫が
どこかに連れて行ったのじゃないかと思ったが
すでに近所や家主にも苦情を言われていたので
探さなかったと。
近くの河原や道で除草剤を撒いたので
それで死んだのかもしれない。
そんな話だった。
呆れるくらい腹もなにも立たなかった。
「そうですか。・・・すいませんでした。」
そう言うのが精一杯だった。
それからもうAさんに会うことは無くなった。
今どうしているのかも知らない。
数回近くを歩くことはあったけれど
子猫の話も灰色の猫の話も聞くこともなく
もう何年も何年も経ってしまった。
これでみぎゃーの話はおしまいです。
たったこれだけの話だったのです。
けれどその彼女が
私にはずっとずっと胸にひっかかっています。
幸せになる猫を見るたび。
みぎゃー
かあさんはずっと
ずっとお前の事を悔やんでいました
子猫を見るたび
親子猫を見るたび
どうして お前を
そんなことにしてしまったんだろうと。
あれから何匹の猫を育てても
たくさんの優しい家庭が引き受けて下さっても
それでもまだ お前にしてしまったことを
ずっとずっと悔いています。
みぎゃー
今年
お母さん猫がうちにきました。
あなたが見せてくれたような
子猫も3匹います。
その姿を見るたび
私はあなたを思い出します。
あの小さな段ボールの
寒い玄関先でも
必死に丸くなって
子猫を世話していたあなたを。
歌うようにごろごろと
それでも人を憎むことをしなかったあなたを。
たとえこの先1000の猫を救っても
あなたにしたことの愚行は
私の心を救うことはないでしょう。
あなたの命は1つだから
かわりのない命だと思っているから。
それでも私は今日も
また「あなた」を育て続けます。
すべての捨て猫の目の中に
あなたがいるから。
人をまだ信じて信じて
愛してる目があるから。
この子たちに家を見つけたなら
この子らに本当の家族を見つけたら
あなたは私に笑いかけてくれるでしょうか。
いつか捨て猫がなくなる日まで。
幾百幾千のわたしの「みぎゃー」へ
かな猫
コンビニでAさんの奥様が声をかけてきた。
「ああ、どうも。」
「あの、前に言ってた子猫、貰い手見つかりました?」
「いえ、、、まだですね」
諦め顔で私は答えた。
里子に出すと決めた日から
ちゃんとした名前もつけず
子猫を「みぎゃー」呼んでいた。
そしてもうすでに彼女がうちにきてから
3ヶ月が過ぎようとしていた。
けれど3ヶ月たっても
まおさんの不機嫌は治らず
また子猫も親を追うように
まおさんを諦めることはしなかった。
まおさんが眠りについた時を狙って
その乳房に吸い付き
慌てたまおさんが子猫を叩く
その繰り返しだった。
そしてまおさんはどんどん不機嫌になり
子猫など産んだこともない乳房は
すっかり血がうっ血するようになってしまった。
飼い主探しは相変わらずなしのつぶてで
相性が悪そうでも
このままみぎゃーを飼うしかないのかも
そんな諦めムードが
私にもまおさんにも漂っていた頃だった。
みぎゃーがうちに来たばかりの時
一度Aさんの奥さんとは
コンビニで行き会った事があった。
社交辞令のような挨拶を交わし
ちょっとだけ気まずいような
手持ち無沙汰なような空気が流れた。
実際、Aさんとは元おなじ会社だったが
その奥さんとは顔見知り程度で
さほど親しくもなく
かえって声をかけられた事に驚いたからだ。
「あの、Aさんやお嬢さんお元気ですか?」
「ええ、元気です」
・・・えーとどうしよう(汗)間が持たない。
どうしよう・・・。そうだ!
Aさん宅には以前、猫を飼った話を聞いたことがあった。
だが、いきなり心臓麻痺のように
走ってくる途中でぱったりと突然死をしたと聞いた。
「あの時は子供が泣いてなぁ」
以来猫は飼ってない。
Aさんから聞いたのはそういう話だった。
だが、Aさんの家は私の住んでいた田舎でも
かなり民家のない奥の奥の一軒家で
猫がいなくなった途端、鼠だのヘビだのが入り込み
困っている旨も聞いていた。
それで奥さんにもう一度
子猫を飼う気はないですか?と聞いたのだった。
奥さんは少し考えこんでいたが
「うーん、猫は2匹ほど飼っても
すぐ亡くなったりしたので
ちょっと・・・。
まぁ子供とかにも聞いてみますね
決まったら電話します。」
その時はそんな感じで別れていた。
それからゆうに3ヶ月。
もうAさんの奥さんは猫のことなど
忘れ去っているものだと思っていた。
その時は私も時間がなく、そのまま別れたが
「なにをいまさら」
そんな気分であてにさえもしていなかった。
みぎゃーは当たり前のような顔で
家の一番日当たりのいい場所で寝転んでいた。
「もうそろそろ、手術かな」
私はそう考えていた。
次の日
家のチャイムが鳴り、
誰だろうと出てみると
Aさんの奥さんとお嬢さんが立っていた。
「猫ちゃんの話をしたら
子供がどうしても見たいって言い出して」
奥さんはにこにこしながらそう言った。
アポイントなしで家に来たことや
まだ話してなかったのかと言う呆れた気もちや
いろんなことが交じり合った複雑な笑顔で
「ああ、どうぞ」と私は二人を招き入れた。
人を嫌うまおさんは慌てて押入れに飛び込んだ。
「ちょっと、みぎゃさん、おいで」
そう声をかけると
すでにもう子猫とは言いづらい
中猫になったみぎゃーが駆け寄ってきた。
それでもまだ小柄で愛らしいみぎゃーは
お嬢さんの心をつかむには十分すぎるようだった。
そしてしばらくそのまま遊んでいたが
どうしても別れがたいと言うお嬢さんに抱かれ
そのままみぎゃーは貰われることになった。
必要であろう餌だの砂だのの生活用品を載せて
そのままみぎゃーを載せた車は見えなくなった。
押入れから出てきたまおさんは
灰色のチビを探すこともせず
玄関でしばし匂いを嗅いだあと
ちいさく1つため息をついて
みぎゃーがよく寝ていた場所に丸くなった。
その夜から
まおさんは当たり前のように布団に入り込んできた。
それまではあまり布団に入ると言う事をせず
布団の上だけで寝ていた。
もっぱらみぎゃーだけが人間と一緒に寝ると言う
行動をしていたのに。
「そんなにあのチビが羨ましかったのかい」
私の問いにまおさんは黙って目をつぶった。
それからずっと
みぎゃーを持っていたA家からの連絡はなかった。
一応、室内飼をして欲しい旨と
避妊手術をしてほしいこと。
手術をするなら避妊手術費用は半額うちで持ちますので
領収書を見せて下さいねと伝えてあった。
みぎゃーの身体の大きなら
あと2ヶ月もしないうちに発情が来るだろう。
だがA家からの連絡はなく
おそらく請求することを慮って
黙っているのかなと思っていた。
連絡がないのは少し不安だったが
いまさら人にあげた猫にあれこれ注文をつけても
気分を害されるだけだろう。
これでやっとみぎゃーも幸せになった。
私も責任の荷が降りた。
私はそう信じようとしていた。
それから数ヶ月
今度は町でAさんと偶然出くわした。
「あの奥にあった家から出て
町に引越ししたんだわ。」
「そうなんですか」
「んで、先週引越ししたばかりよ」
「ずいぶん急だったんですね」
色々な話を聞いたのだが
将来的なお子さんの通学や
生活の便を思えば仕方のないことだとも思えた。
「あの、猫は? 猫はどうしてますか?」
「ああ、あの猫な。」
その笑顔と裏腹に
Aさんから聞いた話は
私が耳を塞ぎたくなるような話だった。
Aさんの家の前は殆ど車など通らないので
別に室内だけで飼わなくていいだろう。
どうせこんな山奥だからオス猫も来るわけがない。
そう思っていたそうだ。
だが持ち帰ったみぎゃーは
わずか1~2週間程で発情し
大声で鳴き始め
殆ど外で飼われていた。
そしてあっと言う間の妊娠。
けれど、家の持ち主との賃貸更新の話で
町に出る決意を決め町の一軒家を借りた。
本当は猫は置いて行くつもりだったが
引越しの数日前に物置で子猫を産み
引越しのさなかに子猫を家に運び込んだので
娘に子猫がいることがばれてしまい
そのまましょうがないのでつれてきた。
けれど町の家は猫が禁止でしょうがないので
玄関フードの戸を開けてそこに置いていると。
あまりの言い振りに
私が怒って抗議するとAさんは
「お前だって要らないから
俺んちに押し付けたんだべ」
笑いながらそう言って相手にしなかった。
話にならないAさんの態度や
きちんとしておかなかった自分の馬鹿さ加減や
揉めることへの不安などでぐるぐるになって
その日はずっと家でまおさんを抱えて泣いた。
私は次の日
そのAさんの家へ行ってみた。
とても大きな家だった。
1畳ほどの玄関フードのドアが開け放たれていて
そこに小さなダンボールが置かれ
灰色の猫の後ろ頭が見えた。
「みぎゃーさん?」
私が小さく声をかけると
振り返ったみぎゃーが
大慌てでこちらに走り寄ってきた。
ゴロゴロ喉を鳴らし
ずっとみぎゃーみぎゃーと
あの声で鳴いた。
「お前、覚えてたんだね」
彼女を抱き上げようとしたら
みぎゃーは慌てて振りほどいて
段ボールに戻っていった。
そうか、子猫がいるのか・・・
刺激してはいけないだろう。
そう思って離れようとしたとき
みぎゃーは
何かをくわえて走ってきた。
そしてそれを私の足の上に置いた。
彼女の産んだ子猫だった。
そしてあの最初に出会ったときのように
ずっとみぎゃーみぎゃーと
私の顔を見上げて
説明しているように見えた。
「そっか、お前、お母さんになったんだね。
よく頑張ったね。偉かったね。」
頭を撫でると
満足そうに子猫を段ボールに戻しに行き
そしてまた別の子を持ってきた。
3匹の子猫すべてを私に見せ終わると
みぎゃーは箱に戻り横になり
ゴロゴロと喉を鳴らして子猫に乳を与えた。
私は彼女への申し訳なさに
いたたまれなくなって
そのままそこを後にした。
それからまた、私はAさんの家へ
みぎゃーに会いに行ったが
数日してAさんから短い電話で
「もう来ないでくれ」
と 遠まわしにそういう内容のことを言われた。
すべては私が彼女を
彼らに引渡したせいで起きたことであり
自分が引き受けれないのに
他人を責めるのは卑怯だ。
あげてしまったものはそこの家のものだろう。
そういう話を友人にも言われた。
ずっと馬や牛を生活の術にしていた自分には
渡した動物の扱いに口を出すことは
最大の禁忌だった。
所有権を譲渡すると言うことは
そういうことなのだと
その頃の自分はそう思っていた。
今でもその時の自分の選択は卑怯だったのだと思う。
私はそのままみぎゃーに会うことは無くなった。
わずか700メートルほどの
その家を私は遠回りして過ごした。
数年して偶然Aさんに帯広市内で会うことがあり
彼の口からみぎゃーの消息を聞いた。
子猫が4ヶ月くらいになったとき
家の前で1匹が車に轢かれ亡くなったそうだ。
子猫の遺骸を目の前の川に流したら
それを追いかけてみぎゃーが走ってゆき
そのまま居なくなったと。
そのすぐあと子猫もいなくなったので
戻った親猫が
どこかに連れて行ったのじゃないかと思ったが
すでに近所や家主にも苦情を言われていたので
探さなかったと。
近くの河原や道で除草剤を撒いたので
それで死んだのかもしれない。
そんな話だった。
呆れるくらい腹もなにも立たなかった。
「そうですか。・・・すいませんでした。」
そう言うのが精一杯だった。
それからもうAさんに会うことは無くなった。
今どうしているのかも知らない。
数回近くを歩くことはあったけれど
子猫の話も灰色の猫の話も聞くこともなく
もう何年も何年も経ってしまった。
これでみぎゃーの話はおしまいです。
たったこれだけの話だったのです。
けれどその彼女が
私にはずっとずっと胸にひっかかっています。
幸せになる猫を見るたび。
みぎゃー
かあさんはずっと
ずっとお前の事を悔やんでいました
子猫を見るたび
親子猫を見るたび
どうして お前を
そんなことにしてしまったんだろうと。
あれから何匹の猫を育てても
たくさんの優しい家庭が引き受けて下さっても
それでもまだ お前にしてしまったことを
ずっとずっと悔いています。
みぎゃー
今年
お母さん猫がうちにきました。
あなたが見せてくれたような
子猫も3匹います。
その姿を見るたび
私はあなたを思い出します。
あの小さな段ボールの
寒い玄関先でも
必死に丸くなって
子猫を世話していたあなたを。
歌うようにごろごろと
それでも人を憎むことをしなかったあなたを。
たとえこの先1000の猫を救っても
あなたにしたことの愚行は
私の心を救うことはないでしょう。
あなたの命は1つだから
かわりのない命だと思っているから。
それでも私は今日も
また「あなた」を育て続けます。
すべての捨て猫の目の中に
あなたがいるから。
人をまだ信じて信じて
愛してる目があるから。
この子たちに家を見つけたなら
この子らに本当の家族を見つけたら
あなたは私に笑いかけてくれるでしょうか。
いつか捨て猫がなくなる日まで。
幾百幾千のわたしの「みぎゃー」へ
かな猫
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