2012年7月8日(日)
ポチの心と無理解の母と
猫話×153
キャノが逝った夜
私とまおさん、そしてポチは
一緒にキャノを看取りました。
まおさんは数度
以前の家の床下猫の子猫が弱った時
私が家に持ち込んで看病しているのを
見たことがあって
その子猫が死ぬのも数回見ています。
ああ、この子。
あっちに いっちゃったのね
寂しそうな顔で
まおさんはそう理解してたように思います。
けれどまだ年若いポチは
何が起きているのかも理解出来ず
かあさん、この子どうしたの??
ねぇかあさん、どうなってるの??
死と言うものが
あまり理解できてないようでした。
少しだけ軽くなったキャノの
身体を拭いてやり
タオルをしいてそこに寝かしつけ
彼女が生前にいつも寝てたように
仰向けにしてあげました。
あまり量を飲めない子でしたが
たまに一杯飲めた日は
ごきげんな様子で
お腹を見せてひっくり返り
いつまでも足や手をしゃぶっていた子でした。
上からきれいな布をかけ
庭のない我が家には生花がないので
ちいさな花のついたリボンをつけてあげました。
深夜の哺乳を終えて
他の子を寝かしつけたあと
キャノを寝かした小さな箱を
少し寒い廊下の棚に置き
あと4時間ほどで起きよう。
携帯のアラームをかけて
私も眠りにつきました。
明け方、
ポチの
「かあさん起きて」の声が
枕元でしつこく聞こえました。
ポチがこんな声で鳴くのは珍しいことです。
何か困ったときしかこんな声で鳴かないからです。
そして起きようと目を開けた時
私の顔のすぐ横に
キャノが寝ていました
正直、ちびりそうになりました
そしてその向こうにポチが
座ったままでニャーニャー鳴いていました。
・・・。
病み上がりで
いたわらなきゃならないのも一瞬忘れて
ポチをしばき倒し
大声で怒鳴ってしまいました。(早朝なのに)
お前は何をしているんだと。
そしてキャノを抱き上げ
安置したはずの場所を見ると
ポチがよじ登って
キャノだけを
箱からそっと取り出したことがわかりました。
まさか興味を持つとは思わなかったので
少し高い場所に置いただけなのが
災いしたのでしょう。
ごめんねごめんねと
キャノに謝り
もう一度安置しなおして
今度は持ち出せないように
廊下のストック棚の扉のついた場所に
キャノの箱を置きました。
そして眠ろうとした時
ガリガリと音がして
ポチの必死な声が聞こえました。
「この戸棚を開けて」と。
・・・おまえはもうっ!!!!
飛び起きて
怒りのままに平手を振り上げて
ポチを見ると
床にごろんとひっくり返って
耳をぺたんと寝かし
「・・・ごめんなさい」の
ポーズをしています。
謝るならなんでやるかな。
やり場のない怒りで振り上げた手で
自分の腿を叩き
「もういいから!やめなさい!!」
怒鳴っているところに
まおさんが起きてきました。
まおさんに
ポチが言っても聞かないんだよと。
お前、言い聞かせてくれよと。
まおさんは床に伏せている
ポチを数回舐めてやって
それでも戸棚に執着するポチを
諌めていました。
もう寝る気分になれない自分は
そのままだらだらと
本を見たりDVDを見たりして過ごしました。
約束どおり
午前中にWishの店長さんが
キャノを迎えにきて
そのままキャノを霊園に連れて行ってくれました。
ポチは
戸棚の空いた扉を見て中を覗き
しきりに匂いを嗅いでいました。
「どこ?あの子」
そう言いたげにニャーニャーと
私に何度も何度も
鳴いて訴えていましたが
まおさんがポチを叱って
ついに諦めたようでした。
「なんでああも死体に執着したんだろうね」
その話を友人にした所
友人はこう言いました。
「ポチ君は死が理解できなくて
ただ、よくわからないけど
子猫に何かが起きていると
勘違いしてたんじゃないだろうかね。
自分もいつもそういう時、
お母さんの所にいたら治るから
きっとそのチビさんを治してくれと
そういうつもりで持っていったんじゃないだろうか」
「貴方が悲しんでいることや
まおさんのいつもと違う雰囲気も
ポチ君は察してしまってそういう行動に出たんじゃない?」
……。
ポチ、
母さんは魔法使いじゃないんだよ。
万能でもないんだよ。
出来ないことだらけなのに。
お前が必死で訴えていたことでさえ
理解できずにいたくらい無能なのに。
それでもお前は私を信頼して
どうにかしてくれるはずと
それで訴えていたのかい?
……。
今朝はポチをそっと抱いて
ごめんねと。
母さん、わからなくてごめんねと。
本当のポチの気持ちは
たぶんずっとわからないままです。
うちの息子は馬鹿です。
死すら理解出来ないほどのお馬鹿です。
けれど、それでも
誰かをいたわることを知っている子です。
馬鹿な母と馬鹿な息子は
永遠に
本当の理解はできないでしょうが
それでもよりそって暮らして行くのでしょう。
今日もまた。一緒に。
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