201172(土)

小麦の値上げは本当に必要だったのか?(追記あり)


 パン製造最大手の山崎製パンは17日、食パンなど主力製品227品目の出荷価格を7月1日から平均5%値上げすると発表した。小麦などの原料価格が高騰しているためだという。今後、業界各社に広がる可能性がある。

(中略)

 小麦価格は4月、政府から製粉各社への輸入小麦の引き渡し価格が18%値上がりし、日清製粉など大手各社は6月下旬以降、メーカーへの卸価格を10%強引き上げることを表明している。卵や油脂類などの価格も上昇傾向にあるため、今のパンの価格を維持するのは難しいと判断した。

(略)

asahi.com 2011年5月17日14時3分
小麦の値上げは本当に必要だったのか?(追記あり)

(グラフ)米国市場小麦価格の推移 Forexpros.com

引用したニュースには、「4月に政府から製粉各社への輸入小麦の引き渡し価格が18%値上がりし」とあります。確かに引き渡し価格が上昇すればメーカーは値上げせざるを得ないでしょう。

しかしながら、トップのグラフにあるように、4月に小麦価格は天井を付け、6月末の時点までに約25%下落しています。

実価格と市場価格では時間的なギャップはある程度想定されるものの、この数か月の穀物価格の下落を見ると、今値上げするというのは納得しがたいものがあります。

これは、国内の先物トレーダーも同じ意見です。

その上、7月1日にはロシアが昨年の干ばつの影響を受けて穀物輸出を禁止していたものを輸出を再開したというニュースが入っています。この輸出再開のニュースは、確か1-2か月前にすでに発表されており、これが小麦価格の下落に拍車がかかったと記憶しています。

日本政府の対応は時代遅れじゃないですか? 消費者のことを考慮しているとは思えません。

そういえば、数年前に燃料費の高騰で某上場企業のクリーニング価格が上昇した後、燃料費は下落しても値上げしたクリーニング価格は据え置かれたという苦い思い出があります。値上げの機会に便乗しようという思惑が透けて見えます。

(追記)ゴールドマン・サックスがコーンと小麦の見通しを引き下げています。これはあくまでも見通しですが、昨年の価格高騰後、落ち着きを取り戻すといいですね。

米国では、ガソリン価格の高騰によって、消費の低迷が続いていましたが(米国では買い物も車で行きます。ガソリン価格が1ガロン当たり3ドルを超えると途端に車に乗る頻度が減るため、消費が落ち込むのです)、ガソリン価格が落ち着いたため消費が戻りつつあるという情報があります。

以下ブルームバーグの情報

Goldman Cuts Corn, Wheat Forecasts by 26% on USDA Outlook

July 1 (Bloomberg) -- Goldman Sachs Group Inc. slashed its forecast for corn and wheat prices by 26 percent after the U.S. Department of Agriculture reported higher inventories and increasing acreage. The soybean projection was reduced by 7.1 percent.

Corn and wheat will be $5.90 a bushel in three months, down from estimates of $8, Damien Courvalin and Allison Nathan, New York-based analysts at the investment bank, said today in a report. Yesterday, corn futures in Chicago tumbled the most since November and wheat had the biggest plunge since January 2009 following the USDA report.


(追記2)もう少し厳密に議論するために、農水省による前回の小麦価格の30%値上げが2008年3月であることを考慮し、その時に適正価格にリセットされたと仮定して、その後の小麦の価格推移と、為替レートの推移を考慮する必要があるでしょう。

また、以下の記事を引用しておきます。

 政府売り渡し価格は年2~3回改定される。昨年10月の改定で価格は1%上昇し、4万7860円となっていたが、4月からは5万6710円となる。

 昨年9月~今月に米国産と豪州産の小麦を買い付けた平均価格をもとに算定したもので、昨夏からのロシアの干ばつや昨年末のオーストラリアの洪水などによる世界的な小麦価格の高騰が反映された。産経ニュース 2011.2.23 18:22

この記事が正しいとすると、政府の売り渡し価格は若干の調整が年2-3回行われ、それは製パン会社などで吸収されていたが、4月の売り渡し価格の高騰は大きい(18%)ため、企業で吸収しきれなくなったということでしょうか。

次にあげるのが、シカゴ小麦の当限つなぎ先物価格推移です。

画像

このグラフでは、現在は2008年を天井にして小麦価格は下落傾向にあるといえますね。

そして、次のグラフがドル円為替レートの推移です。

画像

(両グラフともfuji-ft.co.jpによる)

念のために豪ドル円為替レートもあげておきます。

画像

(infoseek chartによる)

また、農水省の統計資料によりますと、小麦の輸入は99%が米国、カナダ、オーストラリアからされています。、

その平均輸入価格は、1トン当たり
2006年 27.9(千円)
2007年 36.4
2008年 58.7
2009年 28.7
2010年 26.7

と2010年はむしろ減少しています。これは、円高による影響が大きいものと推測されます。これらの資料を見ると、やはりこのタイミングでの小麦売り渡し価格の値上げの理由が説明できません。

2008年4月の30%の小麦売り渡し価格の値上げはおそらく2007年度の輸入価格の反映だと思われます。確かに、平均輸入価格は2006年から2007年で約30%上昇しています。
想像するに、現時点での18%上昇は、2008年の高騰分はいまだ売り渡し価格に反映されていなかったので今反映したいという説明でしょう。

そう考えて、輸入数量も考慮に入れてみます。
仮定として、2008年の値上げで適正価格に修正されたとします。

2008年
 輸入数量(千トン) 金額(100万円)2007年基準金額 赤字
 5,781       339,337     210,428  128,908
2009年
 4,703       135,073     171,189   -36,116
2010年
 5,476       145,995     199,935   -53,331

累積                        39,460

ここで、2007年基準金額は、2007年の平均輸入価格に輸入数量を掛け合わして算出しました。
累積赤字額は39,460(百万円)になっています。

この累積赤字額を解消しようとして、何%の売り渡し価格の上昇が必要かといいますと、2011年だけで行おうとすれば、

39,460/145,995=27%

となります。複数年度で行うとして、18%にしようというラフな計算なのですね。つまり、約2年は今の価格が続くという見込みでしょう。

この計算をすれば、なるほど政府の赤字を解消するために値上げをするというのはわかりますが、私としては、この日本固有の価格体系は違和感を覚えます。デフレの日本で、円高も手伝って輸入価格が下落しているにもかかわらず、売り渡し価格を上昇させる。

個人的には、実勢輸入価格に売り渡し価格をもっと反映させてもいいのではないかと思います。このような政府のある意味「価格操作」が私も含めた日本人の世界情勢に対する感応度の低さを冗長させているのではないかと思えるのです。






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