童話(8)
2007年9月12日(水)
安倍首相 辞任の真実
童話×8
東京にいる友人から珍しく昼間から携帯電話に連絡が。
「昼のニュースで安倍辞任が出るぞ!」
以下フィクション
A)安倍さんはかなりの体調不良を抱えて頑張っていたが、
家族がこれ以上のムリをさせられないと、岸・安倍一族の判断で
健康上の理由により辞任となった。
B)「私は辞任する。ただし、小沢を道連れだ…。」
特措法は特別国会内で延長が無理となり、①新法提出で衆議院→参議院→衆議院での再可決を考えていたが、②過半数を占める参議院で民主が自民に先駆けて代案を提出した場合、同様の法案を提出出来ない理由により、民主の代案は時間切れで廃案、自民の新法は衆院に帰ってこない為やはり廃案。
次の首相は麻生さんで決まりだが、今日の辞任会見後、安倍さんは緊急入院。
安倍さんからの党首対談を断った小沢は国民から「人でなし」呼ばわり。
病状は公表されず、重病説の流れる中、麻生さんが特措法解散を宣言。
前回当選の小泉チルドレン大量落選予想を背景に、自民苦戦、ついに与野党交代とのムードの中、安倍さんの選挙区ではアッキーが身代わりで涙の選挙活動を展開。
創価学会の池田大作が秘密裏に安倍さんの病院へ。事実がリークし、安倍さんの体調は深刻であるとの憶測が広がる。
神崎元公明党代表が「安倍さんを死なせる訳にはイカンザキ」と言って、公明党一人区の猛烈な票獲得をシメあげる。公明党躍進か?
選挙戦もあと二日を残した金曜日、渋谷駅前の街宣車にガウンを着た安倍元首相が登場。
「私の命と引き換えに特措法を通して下さい、拉致被害者を返してください」と絶叫し倒れる。再び救急車で入院。渋谷駅前は騒然。
翌日新聞各紙の一面を「安倍さんの弔い合戦」の文字が躍る。
日曜の投票では、自民は前回大勝した新人議員の落選が相次いだが、地方一人区は接戦で民主を下し、公明党の大躍進で再び安定過半数を獲得し勝利した。
民主は躍進したが、それは共産・社民・国民新党などの議席を奪ったに過ぎず、社民・国民新党は衆院の全ての議席を失った。
そして…、
北海道が生んだスーパースター、雨宮処凛が社民党党首に。
なんてね!
追記
コメント欄に書いては次の方が書きにくいのでこちらに書きます。
今、マスコミの多く、朝日新聞などは「無責任」を連呼しています。
本当にそうでしょうか?
安倍さんは、いいとこの子で、お金持ちのぼんぼんですが、悪人じゃありません。(と、思う)
なのにこれだけ叩けば、最悪自分で命を絶たないか心配です。
こういう問題を抱えるのは、小泉の後釜なら当然と思われていました。
大臣を選べばお金の問題や不適当発言が出るし、年金問題は、与野党共通の罪でしょ? 共産党も社民党もほったらかしだったんだから。
責任を取らせるなら、もう一度小泉登板でしょ。
懸案事項をきれいにしたら、もう一回安倍さんでも良いし、麻生さんでも良いし。
とにかく、森や青木をたたき出さないと、ダメだ!
2006年12月8日(金)
道産子達の坂道、ばんえい競馬頑張れ!
童話×8
北海道から遠く離れたこの地で暮らし始めて3度目の冬がやって来ました。
チリンチリン!
誰かが鳴らす出発の鐘の音。
ミサキは大きな鼻の穴から、白い息を蒸気機関車の汽笛のように吐くと、
今日も子供達やお母さんで一杯になった大きな馬車を引き始めます。
動き出すと子供達からの歓声が上がりました。
「バスみたい!」「すごい力だね」「ミサキ~、頑張れ!」
馬車を引くミサキの耳には子供達の声がよく聞こえました。
コースを一周するのに、途中までは軽い登りになっているから、ミサキは体を軽くゆするようにパカパカと足音を響かせて進みます。
手綱をひく係のお兄さんが「ミサキ、もうちょっとだよ!」と声を掛けてくれる頃から、
ほんの少し、人には気付かない位の下り坂になっているので、お兄さんは僅かにブレーキを引きながら乗降場までの道のりを、ミサキの力を抑えながら進めて行きます。
「はい、終点~」
到着の合図で再びベルを鳴らすと、子供達は馬車から降りて、
ミサキのご褒美にと、細くきったにんじんを係りのお姉さんにもらい、
おっかなビックリ、ミサキの口元に運んでくれます。
「優しいから、触っても大丈夫だよ、撫ぜてあげてね」
初めて触れる馬の体、見ただけでは分からない、つややかでやわらかく、そして何よりもばんば馬の持つ漲るような力強さ。
タテガミにピンクの編込みこみでおしゃれをしたミサキの眼は優しい光を放って子供達とカメラに収まっています。
「このお馬さん、ばんばって言ってね、競争をしていた馬なんだよ・・・、」
「すごいね~、ディープインパクトみたい!」
「あのね、1000キロの荷物を引っ張るんだよ」
首をかしげて不思議がる子供の様子と、係のお兄さんが話す、耳がくすぐったくなるような話を聞きながら、
遠い昔、同じように人々の話し声が聞こえた、懐かしいふるさとの思い出がミサキの見上げる青い空に広がるようでした。
今日一日の馬車引きを終え、厩舎に戻って、きれいに体をブラッシングしてもらい、楽しみにしている食事の時間が来ます。
ミサキは、係のお兄さんの話に耳を疑いました。
「ばんえい競馬がなくなる・・・。」
ミサキの首から提げたカウベルが大きな音を立てて厩舎の外に響きました・・・。
今日は帯広競馬場のばんえい競馬が開催される最後の日です。
競争に向かう馬達は口々に今日が最後の競争になる事を話しています。
「もう競争しなくっていいんだってさ」
「どうなっちゃうの?俺たち?」
「ミサキみたいにどっかに行かなきゃならないのかな・・・」
「暖かいの苦手なんだけどよ」
「俺、ここが好きなんだけど・・・」
「お前、今日はどうよ?」
「俺?わかんねえよ。前より軽いらしいけどさ」
「俺今日は重いんだ~。このあいだ勝っちゃったからさ」
「競争なくなったらどうなるんだろう」
「叩かれなくていいさ・・・」
「スーパーペガサスよぅ・・・」
「なんだい?」
「お前、4年続けて優勝してるだべ」
「ウン」
「一回ぐれぇ俺に譲れ」
それを聞いた別の馬が一言、
「おめえが良くても、客がゆるさんべぇ」
「ホントだ!」
馬達がおかしくて笑っています。
そんな中、競争を終えた馬達が帰って来ました。
どの馬も顔を青くして、下をむいて歩いています。
さっきの馬が声をかけました。
「おい、ご苦労さん、どうだった?」
「…俺達殺されちゃうんだ・・・」
「肉にされちゃうんだ・・・」
さっきまで楽しそうに話していた馬たちは、声を失いました。
「お客さんが言っていたよ、お前ら肉になるって・・・」
「うそだろ?」
「泣いてる人もいたさ・・・」
馬達が顔を見合わせる間も無く、
「さあ、いくぞ!」
係りの人たちが馬達をせかしてスタートへと向います。
今日は年に一度の「ばんえい記念」の日、そしてこれから始まる優勝戦は、ばんえい競馬最大の賞金を競う一番のレースです。
今日が最後のばんえい競馬と聞いて、帯広、十勝は言うに及ばず、北海道中、日本中からお客さんが詰めかけています。
10頭の馬がゲートインして、さあ、ばんえい競馬最後のレースがスタートです。
馬達は今まで聞いた事がない大きな声援の中、一団となって第一障害を次々に越えて行きます。
最大の難所、第二障害に差し掛かると、騎手は一度馬を止めて、最大の障害を越える為に、馬の息を整えて最後の勝負です。
「さあ、それ!」
いっせいにムチが入り、1000kgの荷を引いた馬達が必至の形相で坂を上り始めました。
歓声はさらに高まり、観衆の声が悲鳴のように場内を包んだその時です。
「かわいそうに、勝っても負けても肉にされちゃうんだ・・・」
誰かの言った一言に、周りの観客の声が消えたように静かになりました。
そんな声が馬達の耳にも入ってきます。
それでもムチの入った馬達は必至に坂を越えようともがいています。
その時でした、
「登るなー、登るな~、越えたら、ゴールしたら殺されちゃうぞ~」
子供の悲鳴にも似た声が馬の足を止めました。
よれよれのジャンパーに毛糸の帽子をかぶった老人が馬たちに駆け寄りました。
「登っちゃなんねえぞ、登っちゃ・・・、」
低い小さな声でしたが、馬達には充分でした。
老人の声に応えるかのように馬達は登るのをやめました。
鼻から白い息を、車の排気のように荒々しく吐きながら、馬達は騎手たちのムチにもびくともせず、ただ坂の上を見据えています。
観衆の声、ただならぬ雰囲気にようやく気がついた騎手たちは、ムチ打つことをやめて、何が起こったのかがわからずにオロオロするばかりです。
「登れ!」「登るな!」と、観客席では小競り合いも起きています。
その時、手に持っていたカップ酒を一息に飲み干したメガネの男性が、
馬券を破って空へ撒き散らしました。
「ばんば達よぉ、俺の気持だ、受け取ってくれ~!」
その姿につられて、
「そうだぁ~!」
「ばんばなくすな~!」
次々に馬券が宙を舞います。まるでさくらの花びらが舞い踊るように、冬まだ寒い、雪のちらつく帯広競馬場は、一足早く春を迎えたように沸き立っています。
場内放送は何か言っているようですが、みんなの耳には届いていません。
先ほどのメガネの男性がモツ煮込みの器を警備員に向ってぶちまけると、
「ばんえい!ばんえい!・・・」と叫びだしました。
あっという間に競馬場は「ばんえい、ばんえい」のコールで地響きに似た
渦巻くような声が響いています。
コースに仁王立ちする馬達も、レースを終えて厩舎に戻り、うなだれていた馬達も、鳴り響く声に、大きな瞳をほんの少し潤ませて、青い空の彼方を見つめています。
遠く離れたかの地のミサキが見上げる空と同じ空を。
ばんば達の目の前に広がる坂の向こうにはどんな運命がまっているんだろう。
それは夢だったのだろうか…。
夢の続きはどうなるのでしょう?
僕はもう一度夢の中に戻りたくて目をつむりました・・・。
※表現や内容がばんえい競馬の実際に合っていない所もありますがお許しを。
チリンチリン!
誰かが鳴らす出発の鐘の音。
ミサキは大きな鼻の穴から、白い息を蒸気機関車の汽笛のように吐くと、
今日も子供達やお母さんで一杯になった大きな馬車を引き始めます。
動き出すと子供達からの歓声が上がりました。
「バスみたい!」「すごい力だね」「ミサキ~、頑張れ!」
馬車を引くミサキの耳には子供達の声がよく聞こえました。
コースを一周するのに、途中までは軽い登りになっているから、ミサキは体を軽くゆするようにパカパカと足音を響かせて進みます。
手綱をひく係のお兄さんが「ミサキ、もうちょっとだよ!」と声を掛けてくれる頃から、
ほんの少し、人には気付かない位の下り坂になっているので、お兄さんは僅かにブレーキを引きながら乗降場までの道のりを、ミサキの力を抑えながら進めて行きます。
「はい、終点~」
到着の合図で再びベルを鳴らすと、子供達は馬車から降りて、
ミサキのご褒美にと、細くきったにんじんを係りのお姉さんにもらい、
おっかなビックリ、ミサキの口元に運んでくれます。
「優しいから、触っても大丈夫だよ、撫ぜてあげてね」
初めて触れる馬の体、見ただけでは分からない、つややかでやわらかく、そして何よりもばんば馬の持つ漲るような力強さ。
タテガミにピンクの編込みこみでおしゃれをしたミサキの眼は優しい光を放って子供達とカメラに収まっています。
「このお馬さん、ばんばって言ってね、競争をしていた馬なんだよ・・・、」
「すごいね~、ディープインパクトみたい!」
「あのね、1000キロの荷物を引っ張るんだよ」
首をかしげて不思議がる子供の様子と、係のお兄さんが話す、耳がくすぐったくなるような話を聞きながら、
遠い昔、同じように人々の話し声が聞こえた、懐かしいふるさとの思い出がミサキの見上げる青い空に広がるようでした。
今日一日の馬車引きを終え、厩舎に戻って、きれいに体をブラッシングしてもらい、楽しみにしている食事の時間が来ます。
ミサキは、係のお兄さんの話に耳を疑いました。
「ばんえい競馬がなくなる・・・。」
ミサキの首から提げたカウベルが大きな音を立てて厩舎の外に響きました・・・。
今日は帯広競馬場のばんえい競馬が開催される最後の日です。
競争に向かう馬達は口々に今日が最後の競争になる事を話しています。
「もう競争しなくっていいんだってさ」
「どうなっちゃうの?俺たち?」
「ミサキみたいにどっかに行かなきゃならないのかな・・・」
「暖かいの苦手なんだけどよ」
「俺、ここが好きなんだけど・・・」
「お前、今日はどうよ?」
「俺?わかんねえよ。前より軽いらしいけどさ」
「俺今日は重いんだ~。このあいだ勝っちゃったからさ」
「競争なくなったらどうなるんだろう」
「叩かれなくていいさ・・・」
「スーパーペガサスよぅ・・・」
「なんだい?」
「お前、4年続けて優勝してるだべ」
「ウン」
「一回ぐれぇ俺に譲れ」
それを聞いた別の馬が一言、
「おめえが良くても、客がゆるさんべぇ」
「ホントだ!」
馬達がおかしくて笑っています。
そんな中、競争を終えた馬達が帰って来ました。
どの馬も顔を青くして、下をむいて歩いています。
さっきの馬が声をかけました。
「おい、ご苦労さん、どうだった?」
「…俺達殺されちゃうんだ・・・」
「肉にされちゃうんだ・・・」
さっきまで楽しそうに話していた馬たちは、声を失いました。
「お客さんが言っていたよ、お前ら肉になるって・・・」
「うそだろ?」
「泣いてる人もいたさ・・・」
馬達が顔を見合わせる間も無く、
「さあ、いくぞ!」
係りの人たちが馬達をせかしてスタートへと向います。
今日は年に一度の「ばんえい記念」の日、そしてこれから始まる優勝戦は、ばんえい競馬最大の賞金を競う一番のレースです。
今日が最後のばんえい競馬と聞いて、帯広、十勝は言うに及ばず、北海道中、日本中からお客さんが詰めかけています。
10頭の馬がゲートインして、さあ、ばんえい競馬最後のレースがスタートです。
馬達は今まで聞いた事がない大きな声援の中、一団となって第一障害を次々に越えて行きます。
最大の難所、第二障害に差し掛かると、騎手は一度馬を止めて、最大の障害を越える為に、馬の息を整えて最後の勝負です。
「さあ、それ!」
いっせいにムチが入り、1000kgの荷を引いた馬達が必至の形相で坂を上り始めました。
歓声はさらに高まり、観衆の声が悲鳴のように場内を包んだその時です。
「かわいそうに、勝っても負けても肉にされちゃうんだ・・・」
誰かの言った一言に、周りの観客の声が消えたように静かになりました。
そんな声が馬達の耳にも入ってきます。
それでもムチの入った馬達は必至に坂を越えようともがいています。
その時でした、
「登るなー、登るな~、越えたら、ゴールしたら殺されちゃうぞ~」
子供の悲鳴にも似た声が馬の足を止めました。
よれよれのジャンパーに毛糸の帽子をかぶった老人が馬たちに駆け寄りました。
「登っちゃなんねえぞ、登っちゃ・・・、」
低い小さな声でしたが、馬達には充分でした。
老人の声に応えるかのように馬達は登るのをやめました。
鼻から白い息を、車の排気のように荒々しく吐きながら、馬達は騎手たちのムチにもびくともせず、ただ坂の上を見据えています。
観衆の声、ただならぬ雰囲気にようやく気がついた騎手たちは、ムチ打つことをやめて、何が起こったのかがわからずにオロオロするばかりです。
「登れ!」「登るな!」と、観客席では小競り合いも起きています。
その時、手に持っていたカップ酒を一息に飲み干したメガネの男性が、
馬券を破って空へ撒き散らしました。
「ばんば達よぉ、俺の気持だ、受け取ってくれ~!」
その姿につられて、
「そうだぁ~!」
「ばんばなくすな~!」
次々に馬券が宙を舞います。まるでさくらの花びらが舞い踊るように、冬まだ寒い、雪のちらつく帯広競馬場は、一足早く春を迎えたように沸き立っています。
場内放送は何か言っているようですが、みんなの耳には届いていません。
先ほどのメガネの男性がモツ煮込みの器を警備員に向ってぶちまけると、
「ばんえい!ばんえい!・・・」と叫びだしました。
あっという間に競馬場は「ばんえい、ばんえい」のコールで地響きに似た
渦巻くような声が響いています。
コースに仁王立ちする馬達も、レースを終えて厩舎に戻り、うなだれていた馬達も、鳴り響く声に、大きな瞳をほんの少し潤ませて、青い空の彼方を見つめています。
遠く離れたかの地のミサキが見上げる空と同じ空を。
ばんば達の目の前に広がる坂の向こうにはどんな運命がまっているんだろう。
それは夢だったのだろうか…。
夢の続きはどうなるのでしょう?
僕はもう一度夢の中に戻りたくて目をつむりました・・・。
※表現や内容がばんえい競馬の実際に合っていない所もありますがお許しを。
2006年11月29日(水)
暖かい部屋で読む童話
童話×8
タイ王国のずっと奥地、時間の歯車が止まったような、山と森に囲まれた小さな村がありました。
村人は田畑を耕し、自然の恵みを糧に静かに生活しています。
小さな村を囲むように広がる森には、数頭の象が住んでいました。
象は村の守り神として、昔から村人に大切に育てられていました。
村人は象の一頭一頭に、親しみを込めた名前を付けて呼んでいました。
その中の一頭の象は、皆からメナムと呼ばれていました。
メナムは若い女の子の象です。
朝早く夜明けとともに森から村へ出てくると、広場で子供達が集まってくるのを静かにじっと待っていました。そうやって、いつもやって来る子供達が揃ったのを確かめると、よちよち歩きの小さな子供達は器用に長い鼻で大きな背中に乗せてから、残りの子供達を連れて、長い鼻を前後に振りながら村外れの小さな湖へと向かうのでした。
子供達がメナムに続いてアリの行列の様に歩けば、メナムはしっぽを左右に振りながら「いっちに、いっちに!」と調子を取ります。
太陽が空高く昇った頃、小さな湖は子供達の笑い声と水しぶきで溢れるようです。メナムも鼻から水を空に向かって吹き上げると、湖に小さな虹がかかりました。そんな時は子供達が、手の届きそうな小さな虹を取って欲しいとメナムにせがむのでした。
ひとしきり水遊びを楽しんだら、子供達は木陰でお昼寝です。風がそよそよと吹いて、小さな寝息が聞こえ始める頃、メナムは森へ入り、子供たちのおやつに甘い果物がたわわに実った枝をくわえて戻ってくるのでした。
おやつを食べて元気になった子供達ともう一度水浴びを楽しんで、メナムは朝来た様に子供達を連れて村への道を歩き出すのでした。
村の広場では子供たちの帰ってくるのを皆が待っています。子を持つ親達はメナムのお陰で安心して昼間仕事をする事が出来ました。子供たちは自分のお父さんやお母さんを見つけると、駆け寄って、今日がどんなに楽しい一日だったかを話し出すのです。背中に乗せた小さな子供を鼻で掴み、そっと下ろすと、メナムは静かに森への道を帰って行くのでした。
そんな楽しい毎日、いつものように村の広場へ帰ったメナムの眼に見慣れない男の子の姿が映りました。男の子の名前はメコン。お父さんを病気で亡くし、お母さんの手伝いをしなければならないので、みんなと一緒に水浴びに行けないのでした。その日からメナムは寂しそうな男の子の姿を忘れる事が出来ませんでした。
それから何日か過ぎて、朝早く村の広場で子供達を待っていたメナムがいつもの様にみんなが揃ったのを確かめると、何故か村の中へと歩き出しました。
いつもと様子の違うメナムに村人は「メナム、どうしたんだい?」と皆が声を掛けました。
村の家々を一軒一軒見て回ったメナムは、この間見かけた男の子を見つけると、長い鼻を振って「おいでおいで」をしている様でした。
それを見た村長さんが男の子に「メコン、今日の手伝いはいいから、メナムと行っておいで」と男の子をメナムのそばへと連れて来てくれました。少し恥ずかしそうな様子のメコンでしたが、メナムに触れた途端、にっこり微笑むと、みんなの中にも笑顔が広がりました。
メナムはいつもより少しだけ大きな声で「出発!」一声鳴くと、みんなを連れていつもの湖へと歩き出しました。
「メコン、行っておいで!」「メナムいつもありがとう!」村人からの感謝の声にしっぽを振って応えるメナムでした。
それから何年かが過ぎ、メナムも子供達も、そしてメコンも少し大人になりました。メナムと一緒に小さな子供達の世話をするようになったメコンを見て、村人は「メナム学校のメコン先生」と呼ぶ様になりました。
そんな時、村長さんは村に学校を作ろうと考えていました。皆はメコンが先生になって欲しいと思っています。村長さんは「メコン、村の子供達の為に、町の学校へ行って、先生になって帰ってきておくれ。なあに、お母さんの事は心配ないよ。村のみんなで助け合って行くから、しっかり勉強してくるのだよ。」「村長さん、子供達の世話はどうするの?」ちょっと心配そうにメコンは尋ねました。
村長さんはニコニコ笑いながら「メナムと村のみんなで世話をするから大丈夫だよ。」そう言うとメナムの方を向いて手を振りました。メナムも「任せて!」と大きく鼻を振るのでした。
メナムはいつものように朝早く村の広場に来て子供達を待っていました。
そんなメナムの噂は少しづつ村から村へ、そしてタイの王様の耳にも入るほど、国中で有名になっていました。
新聞やテレビがメナムと子供達の様子を取材に来ました。小さな村には世界中からのメナムに宛てた子供達からの手紙が届くようになりました。
いろんな国のいろんな言葉で届けられた手紙を、あの男の子、メコンが読んでくれました。メコンは苦労して学校を卒業した後、村長さんとの約束を守って村に帰っ来て、学校の先生をしながら子供たちの世話をしていました。村の広場がみんなのメナム学校です。いつもの様にメナムに寄り掛かって手紙を読み始めると村の子供たちも集まって来ました。メナムも子供達も、メコンの話す、未だ見ぬ国の子供達の様子を想像するだけで幸せな気持ちになりました。
そんなある日の事、村にとても偉いお役人がやって来ました。しばらくすると村長さんも村人も悲しい顔をしています。
お役人はメナムを連れに来たのでした。タイにたくさんいた象たちは、みんながメナムの様に、幸せに暮らしていた訳ではありませんでした。食べ物にも困り、病気になってしまう象や、悪い人達に何処かへ連れて行かれてしまう象もいたのです。毎日過酷な労働を強いられ使い棄てられて死んで行く象達、貧しい国にはそんな象達を助ける病院すらありません。お役人はメナムがそういう目に遭わないように連れて行くと言うのです。そして世界の何処かメナムを大切にしてくれる国に連れて行くのだとも言いました。
いつもの様に子供達を連れて湖から帰ってきたメナムは村長さんからその話を聞かされると、とても悲しそうな目をしました。子供達と遊んだ湖も、一緒にお昼寝した木陰も、小さな子供たちと分け合った楽しいおやつの時間も、もうメナムには無くなってしまうのかと、涙が頬を伝いました。一緒にいたメコンは一生懸命にお役人にメナムを連れて行かないように頼みました。しかしお役人の「メナムの為なのだよ・・・。」の一言にこれ以上のお願いは出来ませんでした。
今日はメナムが村にさようならをする日です。皆はメナムの好きな果物をたくさん食べさせてくれました。きれいな大きいトラックがメナムを運ぶ為にやって来ました。お役人に連れられておとなしくトラックに乗り込む姿にみんなは悲しみで胸が張り裂けそうでした。誰も泣きじゃくる小さな子供を慰めることが出来ません。
だって大人も泣いていたのですから。そしてそこにはメコンの姿はありませんでした。メコンは村の高台から、膝を抱えて、涙でかすむ彼方にトラックの走り去る姿を見ている事しか出来なかったのです。幼かったあの日、自分を探し出して湖に連れて行ってくれたメナムの思い出に、流れる涙を止める事が出来ませんでした。
村の朝はこれまでと一変しました。
もう広場にメナムの姿も子供達の笑い声も無いのです。メナムの代わりをメコン先生が一生懸命にしてくれました。でもメコンがそうすればそうするほど、村人も子供達も、そしてメコン自身も悲しい気持ちになってしまうのでした。
数日後、メナムを連れて行ったお役人が、メナムは日本と言う国へ行く事になったと知らせに来ました。「きっと大切に可愛いがられるから、皆も心配しないように。」お役人は村人を少し慰めてくれました。
そして、メナムのおかげでたくさんの国から援助を受けて、タイの各地に象の病院が出来る事も教えてくれました。
メナムは村を離れてから、毎日きれいな檻の中でおいしい食べ物を食べて、体をきれいに洗ってもらいました。ただ、村にいた時は付けたことのない重い首輪でつながれていました。朝、目覚めると、思い出すのはメコンや子供達と遊んだ楽しい毎日、村人のメナムを呼ぶ声ばかりでした。メナムは自分ではどうにも出来ない辛さで悲しくなるばかりでした。
今日は日本への出発の日です。メナムの眼に映る光景は今までに見たことのないものばかりです。大きな建物、たくさんの人達、見たことのない物ばかりに囲まれて、メナムは不安で一杯でした。檻を出て、メコンがお話で聞かせてくれたクジラのように大きな口を開けた乗り物(飛行機)にメナムが乗ろうとしたその時、
「メナム!メナム!行っちゃダメだ!」とても懐かしい、聞き慣れた呼び声が、人々のざわめきの中から聞こえて来ました。
「メコン?メコンなの?」メナムはあらん限りの大きな声で「メコン、メコン!」と叫び続けました。
人垣を掻き分けてメコンがメナムに飛び乗りました。「メナム、村に、森に帰ろう・・。」メコンの目は涙で溢れていました。メコンはメナムに指差す方に走るように言いました。
辺りは突然の事件に大騒ぎです。
警備の兵隊が銃を手にした時、周りの人々が「象を撃ってはいけない!」と、身を呈して飛びかかりました。象は勇気と誇りの象徴とされてきた大切な生き物。
まして銃声に驚いた象の突進を止める事の出来る人間なんているはずがありません。メナムの進む方に人垣は割れ、みんなはただあっけに取られて見送る事しか出来ませんでした。メナムもこんなに一生懸命に走った事はありませんでした。
ひとしきり走った頃、街の外れに一台のオンボロトラックが子供たちと共にメナムを待っていました。村にたった一台しかないトラックを村長さんが貸してくれたのです。メナムを見つけた子供達から歓声が沸き起こりました。みんなの胸は温かい気持ちで一杯です。どうにかしてメナムと子供たちをこぼれんばかりに載せて走り出したトラックは左右に揺られながら村への長い道を一生懸命走りました。風を切って走る、今にも止まりそうなオンボロトラックはメナムとメコン、子供たちを乗せて夕暮れの森の彼方に消えてゆきました。
太陽が昇り、働き者の村人達が家を出る頃、村へと続く小道をメナムはいつものように歩いてきます。「おはようメナム!」村人の挨拶にしっぽで応え、今日も子供達の待つ村の広場に向かうのです。もうメナムを連れに来る人はいません。村人全てがメナムを森に返してくれるように偉いお役人に頼んでくれたのです。
村の生活は決して豊かではありませんでしたが、メナムもメコンも、そして子供たちも、楽しい水浴びや木陰でのお昼寝をこれからも楽しむ事が出来ました。村の広場に小さな日陰を作り、メナム学校のメコン先生は子供達に読み書きや色々な事を教え、笑い声の絶えない毎日が村に戻ってきました。
あれから何年もの時が過ぎて、メナムもメコンもずいぶん歳を取りました。今日もメコンはメナムに寄り沿って、世界中の子供達から届く手紙を村の子供達に読んで暮らしています。
大好きな、心優しい象達がいつまでもこの地球から絶えない事を願って。
僕も象みたいな大人になりたいな。
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