2019111(金)

2015年インド旅行記⑩


2015年インド旅行記⑩

マネーベルトの中に、パスポートが入っていない。
私は大急ぎで宿に戻った。
バックパックから荷物の中身を全て取り出し、ベッドの上に広げた。
貴重品を入れているポーチの中には、パスポートはなかった。
トラベラーズチェックや現金はなくなっていないので、盗難とは考えにくかった。
ベッドの下や洗面所など、思いあたる所を全て探したが見つからない。


もし紛失ということになれば、再発行の手続きが必要だが日数は相当かかると思われた。
チェンナイに日本領事館があるので、そこで手続きをすることになるのだろう。
私は5日後にスリランカに行き、現地でホームステイする予定となっていた。
最悪の場合、これはキャンセルになる。
手配しなければいけないことが山のようにある。
今後を想像して、私は憂鬱な気分になってきた。
管理人が戻ってきたら事情を説明し、宿を早々に出ようと思っていた。

落ち着かない気分で数時間過ごした。
夕方に管理人が戻ってきたので、事情を説明した。
「私のパスポートが見当たらないので探しています」
彼は笑い出した。
「パスポート?何言っているの。チェックインのとき、少し私が預かるって言ったでしょう」
「じゃあ、あなたが持っているの?」
彼は管理人部屋に行って、私のパスポートを持ってきた。
「いやあー、よかった、よかった」
「そうだな。わははは」
私の早とちりであった。


「何かあったのかい?」
自分の部屋に戻ろうとすると、隣部屋の白人カップルから声をかけられた。
各部屋(コテージ)の玄関前にはテーブルとイスが置いてあり、二人はそこでくつろいでいた。
私とマネージャーのやり取りが聞こえたので、気になって声をかけてきたのだ。
事の顛末を二人に話したところ、大笑いされた。


「それは大変だったね。よかったら一緒に飲まないか?」
男性はグラスを私に差し出し、ビールを注いだ。
ビールはゴアで飲んで以来、2週間ぶりだった。
気が緩んだのか酔いが進む。


お互いの自己紹介をする。
彼らはイスラエルからの旅行者で、コヴァラムに1週間滞在しているという。
男性は30代前半くらいの年齢で、山羊の様な長いあごひげをした2m近くの大男。
本国ではユースチームで、バスケットボールのコーチをしているらしい。
有名な選手だったのかもしれない。
彼によるとバスケットは、イスラエルではメジャーなスポーツなのだという。
女性は20代後半くらい、小柄で鼻にピアスをしていたのが印象的だった。


二人と話していて、日本のことをよく知っている、と感じた。
日本語の挨拶をしてくるのにも驚かされた。
東日本大震災や原発事故も話題になった。
それにくらべ、私はどうなのか。
ヘブライ語なんて全くわからない。
死海のことを覚えていたので、その話をしたくらいだろうか。
自分はイスラエルのことを何も知らないな、と痛感した。
少し恥ずかしい気分だった。



テーブルの上のスケッチブックに目が留まる。
インド人男性のイラストが、独特のタッチで描かれていた。
「これは、あなたが描いたのですか?」
私が尋ねたところ、彼女がイエス、と言う。


スケッチブックを見せてもらうことにした。
パラパラめくっていく。
インドの街並み。
チャイを売る男。
犬。
サリーを着たインド女性。
絵具で彩色しているページもあった。


スケッチの隅に、日付と場所が英語で書かれていた。
彼女が楽しんで旅をしているのが伝わるイラストだった。
しばらく眺めたあと、私は彼女に質問した。
「あなたはアーティストなのですか?」
彼女は笑って答えた。
「ありがとう。でもノーよ」


私はその後買出しに出かけ、ビールを大量購入し、三人でちょっとした宴会となった。
彼女が夕食で、イスラエルの家庭料理をふるまってくれた。
豆と野菜を香辛料で炒めたトマトベースの料理で、パンをつけて食べる。
優しく素朴な味わいが印象に残った。
私が「美味しい、美味しい」と言いながらバクバク食べているのを、彼女は嬉しそうな表情で見ていた。
深夜まで続いた宴会は、酒と料理がなくなり、自然にお開きとなった。


翌朝、私はバスでトリヴァンドラムに戻り、コーチン行きのバスに乗った。
インドで滞在できる日数も残りわずかとなっていた。
やれることは、ほぼ出来たという満足感があった。
私の気持ちは既に、次の旅行先スリランカに向かっている。
しかし、やり残したことが一つだけあり、それだけがひっかかっていた。

スニ。
今度こそ、彼女に会えるのだろうか?


つづく






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