2019121(日)

2018年インド・スリランカ旅行記・20


2018年インド・スリランカ旅行記・20

以下は帰国後の余談である。

2018年7月下旬。
インド・スリランカの旅から戻り、4ヶ月が経過した。
季節は夏へと変わった。
私は地元の北海道・帯広市でカレー屋の営業をいつもの通り行っていた。
そんなある日のことである。

「おっ!」
facebookメッセンジャーにメールが入った。
送信元を見て、意外な人物からの連絡に驚く。
インド旅行中に出会った若者・ビンセントだ。

彼は東京の大学に留学している。
「来週北海道に遊びに行きます。あなたのお店に寄ります」
と、メールに書いてある。
そうか、あいつ北海道に遊びに行きたいって言ってたな。
本当に来るんだ。
安い飛行機のチケットが取れたのかな。
楽しみだ。


あと一週間あるな、と呑気に構えていたら、なんと連絡から3日後に彼は現れた。
ヒッチハイクで東京から陸路で北上し、青森から函館間をフェリーを使って、北海道の帯広まで来たという。
ヒッチハイクが予想以上にうまくいって、旅が早く進んだらしい。

北海道は函館から札幌まで行き、札幌で停車中の自動車の中から帯広ナンバーを探して、片っ端からドライバーに声をかけていったら、乗せてくれる親切なドライバーが現れたのだという。
帯広という漢字が読めるのか・・・ビンセントの頭のキレと行動力に驚嘆する私。

私の店がタイミングよく定休日だったので、久しぶりに繁華街に行き、彼のリクエストに応えジンギスカンを食べることにした。
食事をしながら、今後の予定をビンセントに聞く。
今日は私のところで一泊し、翌日知床へ向かうという。

「知床までヒッチハイクで行くつもりなの?」私が聞いた。
「今日ここまで送ってくれた方が、明日仕事で斜里まで行くので、また乗せてもらうことになっています」
「君はツイているな。斜里から知床は目の前だよ」
食事の会計時に、彼は自分の食べた分を払おうとするが、私は受け取らない。
ヒッチハイクで私に会いにきた若者に支払わせるわけにはいかない。

二次会は屋台で串揚げを食べる。
ビンセントはチーズの包み揚げが好みのようで、次から次へと追加オーダー。
酒も強く、気持ちよく飲んで食べてくれる。

以前彼との会話で日本の政治に興味があるといっていたことを思い出した。
詳しく話を聞いてみると、現代政治ではないようだ。
話が混み合ってきたので、彼はスマホの翻訳アプリを使って正確に伝えようとしていた。
どうやら幕末から明治時代の日本の政治に興味がある、と彼は言っているのだ。
なぜか?
日本史に詳しい人なら当然ご存じだろうが、フランスは幕末の日本に大きく関わっている。
特に幕府側の支援をしていたのがフランス。
薩長(薩摩藩・長州藩)の倒幕側を支援したのがイギリス。

「留学中に、これを勉強していました」と私にスマホの画面を見せる。
スマホの翻訳アプリで表示されているのが「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」の文字。
ものすごくザックリ説明すると、明治時代に行われた仏教への弾圧運動である。
「凄いこと勉強しているな、ビックリだ。日本人でも理解していない人は多いと思う」
やはりインテリは考えていることが違う。

ならば、インテリのビンセント君に、あえて聞いてみよう。
「私は君の国、つまりフランスのヴィシー政権の時代に興味があるんだ。君はどう思っているの?」
ヴィシー政権とは、第二次世界大戦中のナチス占領下のフランスのことである。
私はこの時代のフランスについて、自国の若者がどのような教育を受けているか興味があったのだ。

欧米人にナチスについて触れることは失礼な行為だったかもしれない。
そして占領下の自国について質問されたら愉快な気分はしないだろう。
初対面の外国人には絶対しない質問だ。

でも大丈夫だろう。
ある程度の人間関係が両者にできていると、私は考えていた。
フランス人は議論好きだと噂を聞いているし、こうした踏み込んだやり取りの結果、人間関係がより深まるものだと思っていた。
それに、ここはビンセントの自国フランスではないし、自国語で話すわけではないので、政治的な話をしてもリスクは少ないのでは、と私は思ったのだ。

沈黙の時間が流れた。
騒がしい店の中での会話だから、聞こえていなかったかと思い、私は同じ台詞をもう一度繰り返した。
「大丈夫、聞こえています。あなたの言っていること、わかります」
考え込んでいるビンセント。
「じゃあ、なぜ・・・」
「どう説明すればよいのか、考えていました」
「・・・」
「この話題は、フランス国内ではタブーなのです」
深刻な表情でビンセントが答えた。
「タブー?」
私はやはり、地雷を踏んでしまったようである。

つづく






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旅が好き、音楽が好き、そしてカレーが大好きで、カレー店を始めることになりました。どうぞよろしくお願いします。

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