2016年3月10日(木)
2015年 インド旅行記④

コーチンにはまた戻ってくるので、今回の滞在は短くしようと決めた。
今のうちに、やれることをやってしまおうと、私は精力的に本来の仕事をこなそうと動き始めた。
スパイスや食器の買い付けをして日本へ発送し、出来るだけ現地の味を覚えておくため、レストランや食堂でのカレーの食べ歩きを行っていた。
こうした本来の仕事は別に、最も優先順位が高かったのが、風邪薬の調達であった。
私は日本にいる頃に既に風邪の兆候を感じていたが、熱がなく鼻水だけの症状だったので甘く考えていた。
インドに着いたあと咳が急に出始め、鼻水も止まらなくなっていた。
日本から持ってきた薬は効き目が弱く、症状の改善がみられなかった。
インドの風邪はインドの薬で治すしかない。
私は薬局に出向き、症状をジェスチャーで訴え、処方された錠剤をミネラルウォーターで流し込んだ。
この後しばらく私の旅では、新しい街に着いて宿を決めたら、すぐ最寄の薬局に行って薬を買う、という状態がしばらく続くのであった。
一仕事終えて宿に戻ると、フロントにマネージャーのマルコスがいた。
マルコスは30代前半と思われる年齢で肌は黒く、細身の男性だ。
流暢な英語を話し、頭の回転も速い。
宿泊客に非常に親切な対応をするので、多くの欧米人旅行者達から信頼されていた。
前回のコーチン訪問時では、彼の仲介で料理の先生を紹介してもらった。
だから今回の宿も、彼のいるところにしようと最初から決めていたのだ。
マルコスは心配そうな表情で私に声をかけた。
「調子が悪そうに見えるが、薬は飲んだのかい」
「さっき飲んだばかりだが、あまり効いていないようだ」
「よく効く薬があるから、試してみるといい」
そう言って彼が戸棚から取り出したのは、ホコリのかぶった栄養ドリンクサイズの瓶だった。
瓶の中には紫色の液体が入っており、ラベルには全く読めない文字と怪しげなイラストが描かれている。
「えっ・・・これは・・・これを飲むのか?本当に飲まなきゃだめか」
「効くんだって。試しに飲んでみるから」と彼は封を開けた。
漢方薬のような香りが広がった。
グビ。
「問題ない。もちろん飲むよね?」
彼は瓶を私に手渡した。
「わかった・・・」
勇気を振り絞って飲む。
あれ?意外と飲める。
子供の頃に飲んだ風邪薬シロップのような味がした。
やがて宿の玄関前には4、5人の地元の若者が集まり始め、マルコスと談笑し始めた。
私はロビーのソファに腰掛け、彼らのやりとりを眺めていた。
言葉は現地語マラヤーラムだ。
知らない言語だから、彼らが何を話しているか、私はさっぱりわからない。
言葉の意味はわからないが、音韻に美しい響きを感じた。
私は音楽を聴いているような気分で彼らの会話に耳を傾けていた。
ここケララ州では、インドの標準語と呼ばれるヒンディー語を話す人を見たことがなかった。
私が日本から持ってきたタミル語で書かれた会話本を彼らに見せても、誰もきちんと発音ができない。
この中で隣のタミルナドゥ州の言語をまともに理解できる人はいなかった。
州が変われば言語が大きく変わる。
私はインドが他民族国家であることを実感するのだった。
若者たちが去り、ロビーには私とマルコスの2人になった。
ひとしきり雑談を終えた後、彼は真剣な表情で言った。
「君は日本でレストランを経営しているよね?俺を日本に連れて行ってくれないか」
私は諭すように言った。
「マルコス。君は料理人じゃないだろう。無理だよ」
「地元の料理学校へ行って勉強するからさ、だめかな」
私の店は、まだ軌道に乗ったとは言えない状況である。
彼のことは大好きだが、安請け合いはできないのだ。
「残念だが難しいよ」
「・・・わかった。もし俺に何か手伝えることがあったら言ってくれよ」
「わかった、マルコス。また後でね」
私は部屋に戻った。
私に対して何かと親切にしてくれる彼に、私は何もしてやれないのはもどかしい気分だった。
しかし私の力で彼のために出来ることはない。
厳しい現実であった。
つづく
今のうちに、やれることをやってしまおうと、私は精力的に本来の仕事をこなそうと動き始めた。
スパイスや食器の買い付けをして日本へ発送し、出来るだけ現地の味を覚えておくため、レストランや食堂でのカレーの食べ歩きを行っていた。
こうした本来の仕事は別に、最も優先順位が高かったのが、風邪薬の調達であった。
私は日本にいる頃に既に風邪の兆候を感じていたが、熱がなく鼻水だけの症状だったので甘く考えていた。
インドに着いたあと咳が急に出始め、鼻水も止まらなくなっていた。
日本から持ってきた薬は効き目が弱く、症状の改善がみられなかった。
インドの風邪はインドの薬で治すしかない。
私は薬局に出向き、症状をジェスチャーで訴え、処方された錠剤をミネラルウォーターで流し込んだ。
この後しばらく私の旅では、新しい街に着いて宿を決めたら、すぐ最寄の薬局に行って薬を買う、という状態がしばらく続くのであった。
一仕事終えて宿に戻ると、フロントにマネージャーのマルコスがいた。
マルコスは30代前半と思われる年齢で肌は黒く、細身の男性だ。
流暢な英語を話し、頭の回転も速い。
宿泊客に非常に親切な対応をするので、多くの欧米人旅行者達から信頼されていた。
前回のコーチン訪問時では、彼の仲介で料理の先生を紹介してもらった。
だから今回の宿も、彼のいるところにしようと最初から決めていたのだ。
マルコスは心配そうな表情で私に声をかけた。
「調子が悪そうに見えるが、薬は飲んだのかい」
「さっき飲んだばかりだが、あまり効いていないようだ」
「よく効く薬があるから、試してみるといい」
そう言って彼が戸棚から取り出したのは、ホコリのかぶった栄養ドリンクサイズの瓶だった。
瓶の中には紫色の液体が入っており、ラベルには全く読めない文字と怪しげなイラストが描かれている。
「えっ・・・これは・・・これを飲むのか?本当に飲まなきゃだめか」
「効くんだって。試しに飲んでみるから」と彼は封を開けた。
漢方薬のような香りが広がった。
グビ。
「問題ない。もちろん飲むよね?」
彼は瓶を私に手渡した。
「わかった・・・」
勇気を振り絞って飲む。
あれ?意外と飲める。
子供の頃に飲んだ風邪薬シロップのような味がした。
やがて宿の玄関前には4、5人の地元の若者が集まり始め、マルコスと談笑し始めた。
私はロビーのソファに腰掛け、彼らのやりとりを眺めていた。
言葉は現地語マラヤーラムだ。
知らない言語だから、彼らが何を話しているか、私はさっぱりわからない。
言葉の意味はわからないが、音韻に美しい響きを感じた。
私は音楽を聴いているような気分で彼らの会話に耳を傾けていた。
ここケララ州では、インドの標準語と呼ばれるヒンディー語を話す人を見たことがなかった。
私が日本から持ってきたタミル語で書かれた会話本を彼らに見せても、誰もきちんと発音ができない。
この中で隣のタミルナドゥ州の言語をまともに理解できる人はいなかった。
州が変われば言語が大きく変わる。
私はインドが他民族国家であることを実感するのだった。
若者たちが去り、ロビーには私とマルコスの2人になった。
ひとしきり雑談を終えた後、彼は真剣な表情で言った。
「君は日本でレストランを経営しているよね?俺を日本に連れて行ってくれないか」
私は諭すように言った。
「マルコス。君は料理人じゃないだろう。無理だよ」
「地元の料理学校へ行って勉強するからさ、だめかな」
私の店は、まだ軌道に乗ったとは言えない状況である。
彼のことは大好きだが、安請け合いはできないのだ。
「残念だが難しいよ」
「・・・わかった。もし俺に何か手伝えることがあったら言ってくれよ」
「わかった、マルコス。また後でね」
私は部屋に戻った。
私に対して何かと親切にしてくれる彼に、私は何もしてやれないのはもどかしい気分だった。
しかし私の力で彼のために出来ることはない。
厳しい現実であった。
つづく
2016年3月9日(水)
2015年 インド旅行記③

高級ブティックの店員シャンは、スニの兄だった。
私はシャンに尋ねた。
「彼女は、店にいないのですか」
「結婚式を終えたばかりだからな。忙しいんだよ」
「いつお店に戻ってくるのか、わかりませんか?」
「はっきりとしたことは、わからない」
「2~3週間後なら、彼女は店に戻ってきているかな」
これは私の旅行計画でコーチンから出て南インドを一通り廻ったあと、もう一度コーチンに戻ってくる、という計算があったからだ。
「その位の時期なら、多分戻ってきている」
スニは早くお土産を受け取った方が喜んでくれるだろう。
他人ならともかく、彼女の兄なら信用しても大丈夫だろう。
私はチョコレートがぎっしり詰まった土産袋を店内レジ前にあったテーブルに置いた。
「じゃあ、これを彼女に会ったら渡してもらえませんか。結婚祝いとして持ってきたのです」
「日本のチョコレートだって?ちょっと見せてもらっていいかな」
シャンは土産袋からチョコを取り出した。
キットカット抹茶味。
アルフォート(ホワイト)。
チョコパイ。
ポッキー。
きのこの山。
テーブル上には日本製の菓子類が広げられた。
彼は目を輝かせ、手にとってパッケージを眺めていた。
一通り眺め終わったあとに、神妙な表情で彼は言った。
「わかった。彼女に渡しておく。ところで・・・」
「ん?」
「この中のチョコで、君が一番美味しいと思うのはどれだ?」
何故そんな質問をするのか。
そのとき、私はたまたまアルフォートが目に入ったので、適当な気分で「これかな」と指差した。
「それ、俺が食べてもいいかな」
「えーーーっ!」
彼には頼み事をした借りがあるので、一つくらいは要求を受け入れよう、と思った。
「OK。じゃあ、君にあげる。残りは彼女に渡してくれよ」
私がそう言った瞬間に彼はチョコの封を切り、一粒取り出し、口の中に放り込んだ。
「うーん!!すげえ美味いな、日本のチョコ!君も食べるか」
もともと、それは私の買ったものではないか。
「いや、私はいいから。残りは彼女に渡しておいてくれよ。頼むよ」
とりあえず土産の件はシャンに預けて終了とし、私は宿に戻った。
スニに会えなかったのは残念だった。
帰りの飛行機の関係で再度コーチンに戻ってくる予定となっていたので、その時にコンタクトをとってみようと思った。
私はシャンに尋ねた。
「彼女は、店にいないのですか」
「結婚式を終えたばかりだからな。忙しいんだよ」
「いつお店に戻ってくるのか、わかりませんか?」
「はっきりとしたことは、わからない」
「2~3週間後なら、彼女は店に戻ってきているかな」
これは私の旅行計画でコーチンから出て南インドを一通り廻ったあと、もう一度コーチンに戻ってくる、という計算があったからだ。
「その位の時期なら、多分戻ってきている」
スニは早くお土産を受け取った方が喜んでくれるだろう。
他人ならともかく、彼女の兄なら信用しても大丈夫だろう。
私はチョコレートがぎっしり詰まった土産袋を店内レジ前にあったテーブルに置いた。
「じゃあ、これを彼女に会ったら渡してもらえませんか。結婚祝いとして持ってきたのです」
「日本のチョコレートだって?ちょっと見せてもらっていいかな」
シャンは土産袋からチョコを取り出した。
キットカット抹茶味。
アルフォート(ホワイト)。
チョコパイ。
ポッキー。
きのこの山。
テーブル上には日本製の菓子類が広げられた。
彼は目を輝かせ、手にとってパッケージを眺めていた。
一通り眺め終わったあとに、神妙な表情で彼は言った。
「わかった。彼女に渡しておく。ところで・・・」
「ん?」
「この中のチョコで、君が一番美味しいと思うのはどれだ?」
何故そんな質問をするのか。
そのとき、私はたまたまアルフォートが目に入ったので、適当な気分で「これかな」と指差した。
「それ、俺が食べてもいいかな」
「えーーーっ!」
彼には頼み事をした借りがあるので、一つくらいは要求を受け入れよう、と思った。
「OK。じゃあ、君にあげる。残りは彼女に渡してくれよ」
私がそう言った瞬間に彼はチョコの封を切り、一粒取り出し、口の中に放り込んだ。
「うーん!!すげえ美味いな、日本のチョコ!君も食べるか」
もともと、それは私の買ったものではないか。
「いや、私はいいから。残りは彼女に渡しておいてくれよ。頼むよ」
とりあえず土産の件はシャンに預けて終了とし、私は宿に戻った。
スニに会えなかったのは残念だった。
帰りの飛行機の関係で再度コーチンに戻ってくる予定となっていたので、その時にコンタクトをとってみようと思った。
2016年3月8日(火)
2015年 インド旅行記②

2015年2月某日。
私はインドとスリランカへ行くことを決め、航空チケットやビザの手配を終えていた。
出発も間近に迫ったある日、facebook画面を開いていたら、スニからチャットが入った。
私がインドに行くことを告げたら、彼女は驚くに違いない。
私はメッセージを入れた。
「今月、インドに行くよ。またコーチンに行くので、あなたと会えると思う」
彼女から返答。
「それはいい知らせね。私、結婚することにしたのよ。私の結婚式に出席する?」
「えーっ!そうなの。おめでとう!!」
驚かせるつもりだった私が逆に驚いてしまった。
インド人の結婚式に参列。
なんという魅力的な誘いだろう。
想像しただけでワクワクする。
しかし結婚式の日取りは、私がインドに到着予定前となっていた。
格安航空券は購入手続きをしたあとの日時変更が難しい。
「スニ、結婚式の出席は難しい。もう航空券の日時変更は出来ないと思う」
「それは残念ね」
「せめて何かお祝いを持って行きたいが、何か欲しい物がないかな」
「うーん・・・何がいいかしら」
「じゃあ、お土産として君の大好きなチョコレートをたくさん持っていく、というのはどう?」
以前した会話の中で、彼女が甘いもの、特にチョコレートが大好きだというのを覚えていたのだ。
「あっ、それがいい!日本のチョコをたくさんもらえるのね。楽しみだわ」
「山盛りのチョコをインドに持っていくから、待っていてね」
会話のあと、私は近所にあるスーパーに出向き、大量の菓子を購入したのだった。
そして2015年2月17日。
2年半ぶりのインドである。
コーチン国際空港で入国手続きを終え、直行バスを使ってフォートコーチンに向かった。
今回の旅の目的は当然料理の勉強なのだが、友人にお土産を渡すというミッションも加わった。
旅先での新しい出会いは素晴らしいが、見知った友人たちと再会するのも、また楽しいものだ。
高揚した気分で1時間ほどバスに揺られ、終点のフォートコーチンに到着した。
街全体が醸し出すひなびた雰囲気は、以前と何も変わらない印象を受けた。
インドの街は常に人が密集して、やたらと騒がしい場所がほとんどだ。
しかし、フォートコーチンは少し違う。
ここにいると時間がゆっくり流れているように感じ、ストレスをあまり感じない。
あらためて自分は、この街が好きだと感じた。
街を歩くと欧米人、そして地元インド人の旅行者が大変多いことがわかる。
人気の観光地なのであるが、ほどよく田舎で騒がしくないという点が、多くの旅行者に
好まれているのだろう。
前回の旅で長期宿泊した安宿に直行した。
運良く空室があり、宿はあっさりと決まった。
荷物を部屋に置いて身軽になった私は、菓子の詰まった土産袋を持ち、スニの働いているブティックに向かった。
彼女は店にいないかもしれないが、お店の人に聞けば連絡くらいとれるだろう、と思っていた。
店内にはヒゲを蓄えた20代後半と思われる男性店員がいたが、やはり彼女はいないようだった。
店員に尋ねる。
「ここのスタッフ、スニに会いたいのですが」
店員は警戒心たっぷりの表情で私をじろじろ眺めた。
「なぜ彼女の名前を知っている?君は何者だ」
私は日本から来た旅行者で、2年半前に一度ここに来ており、そのとき彼女と知り合いになったと説明した。
「君はスニの友人なのか?」
私に確認する。
私は「そうだ」と強い口調で答えた。
店員の表情が柔和になった。
「俺はシャン。スニは俺の妹だ」
つづく
私はインドとスリランカへ行くことを決め、航空チケットやビザの手配を終えていた。
出発も間近に迫ったある日、facebook画面を開いていたら、スニからチャットが入った。
私がインドに行くことを告げたら、彼女は驚くに違いない。
私はメッセージを入れた。
「今月、インドに行くよ。またコーチンに行くので、あなたと会えると思う」
彼女から返答。
「それはいい知らせね。私、結婚することにしたのよ。私の結婚式に出席する?」
「えーっ!そうなの。おめでとう!!」
驚かせるつもりだった私が逆に驚いてしまった。
インド人の結婚式に参列。
なんという魅力的な誘いだろう。
想像しただけでワクワクする。
しかし結婚式の日取りは、私がインドに到着予定前となっていた。
格安航空券は購入手続きをしたあとの日時変更が難しい。
「スニ、結婚式の出席は難しい。もう航空券の日時変更は出来ないと思う」
「それは残念ね」
「せめて何かお祝いを持って行きたいが、何か欲しい物がないかな」
「うーん・・・何がいいかしら」
「じゃあ、お土産として君の大好きなチョコレートをたくさん持っていく、というのはどう?」
以前した会話の中で、彼女が甘いもの、特にチョコレートが大好きだというのを覚えていたのだ。
「あっ、それがいい!日本のチョコをたくさんもらえるのね。楽しみだわ」
「山盛りのチョコをインドに持っていくから、待っていてね」
会話のあと、私は近所にあるスーパーに出向き、大量の菓子を購入したのだった。
そして2015年2月17日。
2年半ぶりのインドである。
コーチン国際空港で入国手続きを終え、直行バスを使ってフォートコーチンに向かった。
今回の旅の目的は当然料理の勉強なのだが、友人にお土産を渡すというミッションも加わった。
旅先での新しい出会いは素晴らしいが、見知った友人たちと再会するのも、また楽しいものだ。
高揚した気分で1時間ほどバスに揺られ、終点のフォートコーチンに到着した。
街全体が醸し出すひなびた雰囲気は、以前と何も変わらない印象を受けた。
インドの街は常に人が密集して、やたらと騒がしい場所がほとんどだ。
しかし、フォートコーチンは少し違う。
ここにいると時間がゆっくり流れているように感じ、ストレスをあまり感じない。
あらためて自分は、この街が好きだと感じた。
街を歩くと欧米人、そして地元インド人の旅行者が大変多いことがわかる。
人気の観光地なのであるが、ほどよく田舎で騒がしくないという点が、多くの旅行者に
好まれているのだろう。
前回の旅で長期宿泊した安宿に直行した。
運良く空室があり、宿はあっさりと決まった。
荷物を部屋に置いて身軽になった私は、菓子の詰まった土産袋を持ち、スニの働いているブティックに向かった。
彼女は店にいないかもしれないが、お店の人に聞けば連絡くらいとれるだろう、と思っていた。
店内にはヒゲを蓄えた20代後半と思われる男性店員がいたが、やはり彼女はいないようだった。
店員に尋ねる。
「ここのスタッフ、スニに会いたいのですが」
店員は警戒心たっぷりの表情で私をじろじろ眺めた。
「なぜ彼女の名前を知っている?君は何者だ」
私は日本から来た旅行者で、2年半前に一度ここに来ており、そのとき彼女と知り合いになったと説明した。
「君はスニの友人なのか?」
私に確認する。
私は「そうだ」と強い口調で答えた。
店員の表情が柔和になった。
「俺はシャン。スニは俺の妹だ」
つづく
2016年3月7日(月)
2015年 インド旅行記①

今回の南インド・スリランカ旅行記(2015年)を書くにあたり、話を少し巻き戻すのをご容赦願いたい。
現在Facebookで、私と繋がっている友人スニ。
南インド・ケララ州コーチン在住、知性的な風貌をした20代半ばの女性である。
まず彼女との出会いについて説明したいと思う。
2012年10月。
当時無職だった私はカレー屋を開業するための勉強と称して、南インドを旅していた。
料理教室の受講。食器の買い付け。現地レシピ本の購入。
滞在の目的はほぼ達成し、インドでの旅は終盤を迎えていた。
港町コーチンに滞在中だった私は、日本に持って帰る土産をどうするか悩んでいた。
象の置物や仏像、アクセサリーといった民芸品は、ありきたりで欲しくない。
冷やかしのつもりで、滞在中の安宿の近くにあった高級ブティックに入ってみた。
店内に陳列されているTシャツ、バッグ、文具などを眺め、手に取り非常に驚いた。
どれも生地や縫製がしっかりしていて安っぽくないし、とてもデザインが洗練されている。
しかも最先端のクリエーターが手がけたと思われるイラストやデザインから、とてもインドらしさを感じるのだ。
「これは、すごくイイ!」
たくさん買って日本に持って帰ろうと思った。
問題が一つあった。
灰皿一個300ルピー。Tシャツ1000ルピー。
インドの物価事情では、ありえないくらい値段が高いのだ。
私の泊まっていた安宿が500ルピー、ミールス(カレー定食)が50ルピーだった。
たしかに品質が高いのは認めるが、日本と比較しても変わらない強気の価格設定なのである。
「なんでこんなに高いの?まとめて買うから、もっと安くしてくれないか?」
店員の女性に尋ねる。
インドお決まりの価格交渉が始まると思いきや、答えは「NO」
「ノーって・・ウソでしょ」
「FIX PRICE」(価格は変えられません)
「信じられない!ここはインドでしょう?何故?」
「これはブランド品だから、値下げには応じられないのです」
「そうか・・・インドにもブランド品があるのか・・・どうしてもダメかな?」
「ダメなものは、ダメです」
ちなみに、この店のメイン顧客は、外国人観光客と富裕層のインド人だそうである。
文章だけ読むと冷淡な対応に感じるかもしれないが、彼女はニコニコ笑いながら言っているのである。
この店員さんは愛嬌があって面白い人だなあ。
私は結局ここの商品と店員が気に入ってしまい、陳列されている雑貨類が開店予定の自分の店のディスプレイに使えそうだと感じ、土産というよりも自分用として、たくさん買うことになった。
そして買い物のあとしばらく雑談し、彼女とアドレス交換をした。
彼女の名刺を受け取り、名前がスニだと知った。
帰国後facebookで彼女の名前を見つけ、友達申請をして繋がった。
すると、私がfacebookの画面を開いていると、どういうわけか月一くらいのペースで彼女からチャットが入ってくるのだ。
しかしながら私の英語力では、たいした会話はできない。
家族のこと。仕事のこと。友人たちの話。特別な話は何もない。
私が商売を始めたあとは「順調なの?」と彼女はよく聞いてきたが。
簡単な語彙で、いつも他愛のない話をしていた。
そもそもインドで会ったときは、あくまでも店員と顧客の関係で、まさかチャットを使ってお互い近況報告をする関係になるとは思わなかった。
ケララ州はインドの中でも開放的な土地柄だとは聞いてはいたが、外国人男性とインド人女性が個人的な話をする機会は、あまりないケースだろう。
インターネットを使って、普段かかわりのない人間と気ままに会話するのが、彼女にとって好都合だったのかもしれない。
彼女と会話をしていると喜怒哀楽のリアクションに日本人にはない感覚があり、とても新鮮で興味深かった。
彼女も私に対して同様に感じ、楽しんでいたのだろう。
貴重な機会だと感じていたので、私が商売を始める前から現在に至るまで、時間の許すかぎり彼女のおしゃべりに付き合っていたのだった。
つづく
現在Facebookで、私と繋がっている友人スニ。
南インド・ケララ州コーチン在住、知性的な風貌をした20代半ばの女性である。
まず彼女との出会いについて説明したいと思う。
2012年10月。
当時無職だった私はカレー屋を開業するための勉強と称して、南インドを旅していた。
料理教室の受講。食器の買い付け。現地レシピ本の購入。
滞在の目的はほぼ達成し、インドでの旅は終盤を迎えていた。
港町コーチンに滞在中だった私は、日本に持って帰る土産をどうするか悩んでいた。
象の置物や仏像、アクセサリーといった民芸品は、ありきたりで欲しくない。
冷やかしのつもりで、滞在中の安宿の近くにあった高級ブティックに入ってみた。
店内に陳列されているTシャツ、バッグ、文具などを眺め、手に取り非常に驚いた。
どれも生地や縫製がしっかりしていて安っぽくないし、とてもデザインが洗練されている。
しかも最先端のクリエーターが手がけたと思われるイラストやデザインから、とてもインドらしさを感じるのだ。
「これは、すごくイイ!」
たくさん買って日本に持って帰ろうと思った。
問題が一つあった。
灰皿一個300ルピー。Tシャツ1000ルピー。
インドの物価事情では、ありえないくらい値段が高いのだ。
私の泊まっていた安宿が500ルピー、ミールス(カレー定食)が50ルピーだった。
たしかに品質が高いのは認めるが、日本と比較しても変わらない強気の価格設定なのである。
「なんでこんなに高いの?まとめて買うから、もっと安くしてくれないか?」
店員の女性に尋ねる。
インドお決まりの価格交渉が始まると思いきや、答えは「NO」
「ノーって・・ウソでしょ」
「FIX PRICE」(価格は変えられません)
「信じられない!ここはインドでしょう?何故?」
「これはブランド品だから、値下げには応じられないのです」
「そうか・・・インドにもブランド品があるのか・・・どうしてもダメかな?」
「ダメなものは、ダメです」
ちなみに、この店のメイン顧客は、外国人観光客と富裕層のインド人だそうである。
文章だけ読むと冷淡な対応に感じるかもしれないが、彼女はニコニコ笑いながら言っているのである。
この店員さんは愛嬌があって面白い人だなあ。
私は結局ここの商品と店員が気に入ってしまい、陳列されている雑貨類が開店予定の自分の店のディスプレイに使えそうだと感じ、土産というよりも自分用として、たくさん買うことになった。
そして買い物のあとしばらく雑談し、彼女とアドレス交換をした。
彼女の名刺を受け取り、名前がスニだと知った。
帰国後facebookで彼女の名前を見つけ、友達申請をして繋がった。
すると、私がfacebookの画面を開いていると、どういうわけか月一くらいのペースで彼女からチャットが入ってくるのだ。
しかしながら私の英語力では、たいした会話はできない。
家族のこと。仕事のこと。友人たちの話。特別な話は何もない。
私が商売を始めたあとは「順調なの?」と彼女はよく聞いてきたが。
簡単な語彙で、いつも他愛のない話をしていた。
そもそもインドで会ったときは、あくまでも店員と顧客の関係で、まさかチャットを使ってお互い近況報告をする関係になるとは思わなかった。
ケララ州はインドの中でも開放的な土地柄だとは聞いてはいたが、外国人男性とインド人女性が個人的な話をする機会は、あまりないケースだろう。
インターネットを使って、普段かかわりのない人間と気ままに会話するのが、彼女にとって好都合だったのかもしれない。
彼女と会話をしていると喜怒哀楽のリアクションに日本人にはない感覚があり、とても新鮮で興味深かった。
彼女も私に対して同様に感じ、楽しんでいたのだろう。
貴重な機会だと感じていたので、私が商売を始める前から現在に至るまで、時間の許すかぎり彼女のおしゃべりに付き合っていたのだった。
つづく
2016年3月4日(金)
スリランカ海鮮カレー

こんにちは、サンサーラです。
週末に向けて、何点かお知らせします。
①新登場 スリランカ海鮮プレート 1350円
エビカレー、白身魚のカレー、テルダーラ(イカのスパイス炒め)、アンブルティヤル(青魚のゴラカ煮)と、シーフードが満載の一皿です。
スリランカカレーファンの方は必食ですね(笑)
②エビのWカレー 1200円
スリランカと南インドのエビカレーが一皿に。
スパイスの違いを楽しんでください。
③牡蠣の薬膳カレー 1250円 牡蠣のシャクティ 1250円
牡蠣カレーも、そろそろ終わりです。お早めにどうぞ。
④再登場 ポーク・ビンダルー 980円
リピート率の非常に高いポークカレーです。
辛口好きの方にオススメ。
⑤再登場 かすべ65 580円
常連さまには、すっかりお馴染みのメニュー。
かすべの唐揚げ・スパイス和えです。
コリコリの食感がヤミツキに。
という訳で、今週末は気になるメニューが目白押しです。
是非お試しください。
週末に向けて、何点かお知らせします。
①新登場 スリランカ海鮮プレート 1350円
エビカレー、白身魚のカレー、テルダーラ(イカのスパイス炒め)、アンブルティヤル(青魚のゴラカ煮)と、シーフードが満載の一皿です。
スリランカカレーファンの方は必食ですね(笑)
②エビのWカレー 1200円
スリランカと南インドのエビカレーが一皿に。
スパイスの違いを楽しんでください。
③牡蠣の薬膳カレー 1250円 牡蠣のシャクティ 1250円
牡蠣カレーも、そろそろ終わりです。お早めにどうぞ。
④再登場 ポーク・ビンダルー 980円
リピート率の非常に高いポークカレーです。
辛口好きの方にオススメ。
⑤再登場 かすべ65 580円
常連さまには、すっかりお馴染みのメニュー。
かすべの唐揚げ・スパイス和えです。
コリコリの食感がヤミツキに。
という訳で、今週末は気になるメニューが目白押しです。
是非お試しください。