2015729(水)

夏のおすすめの本

上野千鶴子『セクシュアリティをことばにする』青土社2015年
上野千鶴子対談集

 障害児として母親との格闘を経た後、二〇代で女性学に喝を入れられ、現在小児科医をしているわたしが、障害児を持つ親に一番伝えたいこと、それは、障害児であろうが健常児であろうが、親だけで育てることは非常に難しいことなのだという事実です。核家族に象徴される近代家族は、「積みすぎた方舟」(マーサ・A・ファイマン『家族、積みすぎた方舟』学陽書房、二〇〇三年)と言われるほどに、養育をはじめとしたさまざまな責任を背負わされます。一人で責任を引き受け、一人で育てようと思えば潰れるのはむしろ当然ですし、よいことはありません。育児は、社会にヘルプを出しながら行うものです。
 しかし、子供にとって親が大きな存在であることもまた、障害の有無に関係なく、事実と言えるでしょう。社会は、障害児の前に立ちはだかります。一人では、闘えません。そんなときに、家庭が、厳しい社会の出先機関になって、「社会の厳しさを教えよう」といったスパルタに走ることも、また、社会の厳しさに触れずに済むようにかくまう、隔離施設になることも、どちらも抱え込みすぎています。むしろ、子供と一緒に、社会の中に出て行って、親亡き後も生存可能な場所を切り開いていけるよう、サポート役になるのが親の務めではないかと思います。
 未踏の社会に対して、失敗しつつも一歩を踏み出しつづけられるのは、どこかで社会のこと、他人のことを信頼している子供です。その、いわば根拠なき他人への信頼は、おそらく親との関係によって育まれる部分が大きいように思います。困ったときに誰か助けてくれるはずだと信じ、助けを求めるようになるには、困ったときに、下手でもいいから誠意をもって応じてくれた親との関係の記憶が、何よりの財産になるでしょう。そしてまた、自分を育てるにあたって、困った親が社会にヘルプを出したということ、そして、社会が親を救ってくれたということを、子は見ています。小さい子にとって、自分と親の境界線はあいまいで、親が社会によって助けられた姿は、自分が社会に助けられる姿と不分離なものです。子が社会を信頼できるようになるという意味でも、育児は抱え込まず、社会にヘルプを出す姿を子に見せることは大変重要だと思います。
(熊谷晋一郎 東京大学先端科学技術センター准教授 同書より)






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