2016512(木)

中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』集英社インターナショナル2009年

本書のタイトル『資本主義はなぜ自壊したのか』は「過去形」の表現になっているが、もちろん、資本主義が全面的に自壊してしまったわけではない。しかし、自由を満喫したグローバル資本が世界経済を不安定化させ、所得格差拡大で不幸な人々を大量に生産し、また、地球環境をもはや修復不可能に近いところまで汚染してしまったという意味で、資本主義の自壊作用はすでに始まっているというべきなのである。
上記が中谷巌氏(以下、中谷氏)の基本認識である。なお、グローバル資本主義とは行き過ぎたアメリカ型金融資本主義のことである。
・この2,30年間を振り返ってみれば、金融危機は世界のあちこちで何度も表面化した。むしろ、危機は常態化していたとさえ言える。主要国はそのつど、G7(先進七カ国首脳会議)などで世界経済の安定化について話しあってきたが、それはまったくといってよいほど効果が上がっていない。2008年9月15日、サブプライムで驚愕の損失を出したアメリカ系証券会社リーマン・ブラザースの経営破綻後、世界経済は大混乱に陥った。(同書より)
・わが国を例にとるとすごい実態がある。それはOECD(2008年)が発表したデータである。貧困率とはそれぞれの国の勤労者のなかで、中位所得者が稼いでいる所得の半分以下の所得しか稼いでいない貧困者が全勤労者に占める比率。1985年日本の貧困率は(再配分前)12.5%であったのが2005年には26.9%にまで跳ね上がっている。さらに、ショッキングなのは、「シングル」世帯に限るとアメリカを抜いて世界のなかで最も高い貧困率になっている。子どものいない単身者世帯における貧困率は40%弱、子どもがいる単身者、つまりはシングル・マザーやシングル・ファーザー世帯の貧困率に至ってはほとんど60%にも達している。「安心して子どもが産める」社会にしないと少子化は克服できそうにもないのに、「安心して子どもが産める」社会からほど遠いのが日本の現実なのである。(同書より)
・グローバル資本主義は、世界経済を活性化し、先進国のみならず、中国などの新興工業国の発展、ひいては名もない途上国の経済発展にも大きな刺激を与えたことは疑う余地がない。また、さまざまなところに眠っていた資源(労働、資本、土地など)を市場取引の場に引きずり出し、その効率的な利用で経済成長を促した。(同書より)
・マーケットが作り出す人々の精神構造の変化や社会の変質などにもっと注意を払うことによって、「マーケットをうまく使いこなす」という心構えが必要なのだ。そういうことを考えないで軽々しく「改革」を叫ぶのはもうそろそろ卒業してもよいのではないか。(同書より)

中谷氏の「国家と個人との間に、さまざまな形での中間的な共同体、中間的な組織を作りだして、そこに人々が参加できるようにすること」をさらに追究していくことが大切になるとブログ筆者は考えました。そのためには、商工会、農協、労働組合、生協、学校を中心としたつながり、地域の人々の趣味によるつながりなどを排他的ではない、因習的ではない、より公正的なつながりに再構築していく努力が第一歩になるとも考えました。同書で今後ふつうの女性の活躍が重要になるというという点が論じられていないことが残念でした。






 コメント(3件)コメント欄はユーザー登録者のみに公開されます 
コメント欄はユーザー登録者のみに公開されています

ユーザー登録すると?
  • ユーザーさんをお気に入りに登録してマイページからチェックしたり、ブログが投稿された時にメールで通知を受けられます。
  • 自分のコメントの次に追加でコメントが入った際に、メールで通知を受けることも出来ます。






 ABOUT
哲塾

性別
年齢50代
エリア十勝
属性事業者
 GUIDE
学習塾 哲塾
住所帯広市西14条北5丁目3-5
TEL0155-35-8474
定休不定休
 カウンター
2015-05-19から
32,364hit
今日:22
昨日:34


戻る