2016529(日)

経営学と経済学は違います

高橋 伸夫 『経営学で考える』有斐閣 2015年
 同じ現象に対して、同じようなモデルを使っている場合でも、経営学者と経済学者ではまったくアプローチが違うように見える。一体どこが違うのだろうかという経済学の大先生の質問を高橋教授が20年間考えつづけながら、企業における人々の分業にもとづく協業行動を研究してきた成果である。

本書は下記の通りに章立されている。
第1章 プロローグ 経営学で考えると
第2章 成功した理由
第3章 じり貧になる理由
第4章 意思決定の理由
第5章 協調する理由
第6章 働く理由
第7章 社会人のためのエピローグ 仕事の報酬は次の仕事
参考文献
あとがき
索引

・あえてそのリスクを冒したのは、経営の世界では、これまでの誤りや失敗をきちんとみとめないままに、次から次へと新しいモデルに乗り換え、責任をうやむやにされてきた歴史があるからである。私の知る限り成果主義的な安易な人件費カット策は、不況の度に登場してきた。そのときそのときに、きちっと間違いをみとめておかないから、十年も経つとまた同じ過ちを繰り返す。(同書より)
・実際、「能率の基準」を現場で適用し、コストだとか成果の客観的な評価だとかにこだわればこだわるほど、副作用と障害がすぐ発生する。たとえば、次のような光景は、21世紀初頭、成果主義(詳しくは第7章を参照のこと)を導入した日本企業ではどこでも日常的に観察された出来事だった。(同書より)
①毎年査定をすると明言されれば、誰だって、1年以内に「成果」の出せるような仕事ばかりをやるようになる。長期的視野にたった仕事やチャレンジングなテーマには誰も挑戦しなくなる。それどころか、年度初めの評価事項に書かれていなかったような新しい仕事やビジネス・チャンスが年度途中に転がりこんできても、誰も挑戦しなくなってしまうのだ。
②各人に目標を立てさせて、その達成度を見るなどと書けば、低めの目標を掲げるのが賢い人間というものだろう。高めの目標を掲げるのは馬鹿である。
③客観指標、たとえば成約件数を基準に挙げれば、それだけをピンポイントで狙って件数を稼ごうとして採算度外視で契約をとってくる愚か者が必ず出てくる。
④会社にとってクレーム処理は、それぞれの会社の評判が決まってしまうほど重要な仕事だが、部署間の「三遊間ゴロ」的なクレームをもう誰も拾わなくなる。野球でいえば、見送れば「ヒット」と記録されるのに、わざわざ手を出して、自分の「エラー」として記録してもらう馬鹿はいない。
⑤いくら客観指標を使ったって、目標の設定に客観的根拠がなければ、その目標値を使った評価が客観評価であるわけがない。(①~⑤同書より)

  このところ、わが国の経済の個人消費の動向にいまひとつ元気がありません。もしかしたら、それぞれの職場で働いていて、現在より未来がよくなるという実感を持つことができないでいる人々が多いからかもしれません。一人一人の日本で暮らす人々が、まずは仕事で小さな成功体験を積み重ねる中で将来展望を持てるようになることが重要な一歩になると考えました。このようなことを考えるためには最良のテキストであると思いました。

蛇足
 学卒時から非正規雇用で就業し、職業スキルを習得したり十分な収入を得られない若者たちが少なからずいるわが国の現実を経営学者である高橋教授はどのように考えるのかを聞いてみたいと思いました。女性が働きやすい職場にしていくということ、また、ダイバーシティ・マネジメントなどの日本企業の課題が論じられていない点が少し残念でした。






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