2019730(火)

夏の1冊

荒巻健二『日本経済長期低迷の構造』東京大学出版2019年
1980年代、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』、『日本的経営』といった日本賛美論が世を席巻していたのに、バブル崩壊後日本経済はどうしたんだろうと、ずうっと思ってきました。自分なりに本を読んできて、この度同書と出会いました。荒巻先生は膨大な量のdataをよく検討し、この30年間、日本経済に何があったのかということを明らかにしています。この30年の日本経済の実像が同書でよくわかりました。力作です。同書を読んで僕的には、日本は海外の優れた先行事例や、我が国の優れた先人の偉業を丁寧に学んで行くという基本を、もう一度噛み締めてみる必要があると感じました。だから、やっぱ、教育、研究といった分野はないがしろにしたらダメだぞと思いました。

賃金引上げを図るとともに、正規・非正規や年齢・性別などに基づく合理的根拠のない格差を是正し、企業による人的資源の使い方の変化を促すことが、自己実現的な低成長の循環からの脱却を図る上で重要である。他方、企業の行動が、単なるマインドセットの問題ではなく、国内市場の縮小予想と国際的な競争圧力の上昇の下での合理的な対応である面も否定できない。そうであるとすると、生産性向上を超える賃金上昇は国際競争力を損ない、生産ベースの一層の国外シフトを促し、また国内投資増加は低収益資産の蓄積に終わりかねない。
 先に述べたように、人口減少への対応とともに高賃金に耐えられる国際競争力性をそなえるため、賃金の引上げとともに生産性の向上を並行して進める必要がある。生産性向上のためにも、我が国の人的資源の使い方の基本的見直しと人的資源への投資が決定的に重要であり、労働力をコストとのみみなし、主にその削減により競争力を強めていこうとすることはself-defeating(自滅的)であると考えられる。(同書302page)

外国人労働者の導入で解決しようという意見も見られるが、外国人労働者は決して労働力だけの存在ではなく、国民と同じ人間としての存在であることをまず認識する必要がある。自国の労働者にはなり手がいないので他国の労働者(労働力)を活用しようといった近視眼的な対応は、将来に禍根を残すと思われる。(同書332page)






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