2024929(日)

教育について考えている方におすすめの本です

児美川孝一郎 『新自由主義教育の40年』 青土社 2024年
 本書において第一部 キャリア教育の現在、第二部 大学教育の変容、第3部 教育労働の現在、第四部 教育改革のゆくえ、という構成によって新自由主義をkeywordとして80年代からのわが国の教育の問題が論じられています。児美川教授は本書において日本の教育について、それぞれの場所で頑張っておられる方々にとって、目から鱗が落ちるたいへん豊かな内容を明らかにしておられます。

私が本書において注目した点は、「新自由主義は、経済界・財界、政治といった特定のアクターの恣意によってのみ猛威を振るってきたのではない。「やむをえず」かもしれないが、しかし、それを迎え入れてきた私たちの生活感覚や社会意識に深く根を下ろしてきたはずである。」という箇所です。児美川教授は新自由主義を以下のように「新自由主義とは、現代資本主義が、国家権力の掌握を通じて、自らの意図に沿った方向に国家と社会を組み替えていく企てであり、その手法、仕組み、制度、動員される理念、イデオロギー等は、状況や環境に応じて、そのつど多様な形態を取りうる」と捉えています。わたしの仕事の場である学習塾は制度としては市場の中に位置づけられています。学習塾は教育の市場化という現象の一つになるのではないかと考えます。学習塾経営者としてのわたしは、交換によって経営資源を獲得し、市場に自らの提供する内容を可能な限りより確かな知識を反映させるため自由に努力して、目の前の塾生ひとりひとりの教育的課題はなんであるのか自らのレゾンデートルはいかなるものないかを問いながら、日常的に他の同業者と競争し教室を存続させております。教授が同書においてご指摘されているとおり学習塾のその教育的内容の妥当性は公的には担保されてはいません。学校の先生と学習塾の講師は重なる点もありますが、かつて学校で非常勤をした経験からも、行動準則の中身は全然異なるのではないかとも考えます。また、もちろん戦後の教育関係者の努力によって構築された学校教育の社会的意義は否定できないとも考えます。教育の側から自らの論理で経済の側を切り捨てるのではなく、経済の論理が人々に受け入れられる状況も考慮しつつ、その注視すべき教育が目指す共同性がもつ価値の重要性をしっかりと主張する教授の姿勢こそを学ばなければならないと、わたしは考えました。先人たちが残した戦後の学校教育の遺産を十分に活かしながらも、課題としての、国家主義と道徳の押しつけ、競争と管理、評価による子どもと教師のコントロール、教師の長時間過密労働を生み出し、温存させてきた温床といった解決すべき課題に取り組むためにも、また学校教育において教師たちが主体性を発揮して教育実践を行うための解決方法の獲得には、官僚制組織システム(Michel Crozier)による学校教育の実態は実際どうなっているのかという観点からの研究が日本においても必要ではないかと考えました。

本書は教育現場で頑張っておられる方々が、日常において感じるやりきれなさの原因とその解決のための一歩のための内容が論じられています。学校の先生にこそ読んでいただきたい本です。未来の創造者(子どもたち)のために。



2024528(火)

現代日本社会で大学教育を受けているある一人の若者の思い

https://note.com/tomo_tomoka/n/n2470d196742d?sub_rt=share_pw



2024320(水)

名著

野村 駿『夢と生きる バンドマンの社会学』岩波書店 2023年

現代の日本社会において若者と人間関係を構築するための知見を求めている大人に、きわめて有効な内容を提供する作品。

「・・・・・標準的ライフコースという「望ましい」生き方は、それから外れようとする若者を決して手放すことなく、多くの葛藤と不安を与え続け、ある者はそれを払拭しようと夢追いに邁進することで逆に夢が追えなくなり、またある者はそれが耐えきれなくなって夢を諦めていることがわかる。標準的ライフコースは、その縮小や崩壊が指摘されて久しいが、今なお「標準性」と「規範性」を併せ持っており、だからこそ、それから外れて自らの人生を自らの手で形作ろうとする若者たちの〈生〉を大きく制限しているのである。ここに、標準的ライフコースの抑圧的側面が指摘できる。」(同書248ページ)

 この本を読んで中野重治『村の家』「よくわかりますが、やはり書いて行きたいと思います。」の一節を思い出しました。



202386(日)

すごくご無沙汰しております

ご無沙汰しております。皆様におかれましてはいかがお過ごしですか。僕はなんかすごく暑い毎日が続きましたのでバテ気味です。でも仕事の後のbeerが美味しいのなんのって(笑)。
 昨日、児美川 孝一郎『キャリア教育がわかる』誠信書房2023年を読みました。わかったこと・再確認したことは下記です。

・学校がキャリア教育に取り組む理由は,児童・生徒・学生の皆さんをよきサラリーマンにするためのものではない。
・キャリア教育が目指すことは①こどもたちが「社会に出ていく力」を獲得すること、②国が若者就労問題の深刻化に取り組むこと、③子どもたちの学習意欲を向上させることである。
・キャリア教育には「正解」はどこにも存在しない。こども・若者を徹頭徹尾「主体」に据え、彼ら彼女らを困難に立ち向かう主体へと育てていかなければ成り立たない営みであ
る。
・キャリア教育は職業的自立だけでなく、社会的自立に向けた教育でもあり、ライフキャリア全体にかかわるキャリア発達を促すという役割がある。

 本書は教育現場で実際にどのようにキャリア教育を形にしていくのかを、学習指導要領や教育法規と実際に関連づけながら検討されていて、そのなかで明らかにされた、理論的・歴史的・実践的にたいへんすぐれた知見を提示しています。

 ここからは個人的意見です。僕的には、子どもが大人になる過程においては文学・芸術、あるいは映画のなかにもいろいろタメになるものがあるんじゃないかなと、大学時代に授業をサボっての高田馬場の映画館での思い出(笑)とともに感じています。すぐれた文学作品を読み感動する機会を一人でも多くの子どもに提供する契機をどう構築するか。その際にはどのような社会的仕組みが有効なのか?少し長いけど『赤と黒』なんかこんな時代だからこそ価値があるんじゃないかなと個人的に思っています。文学・芸術、あるいは映画は決して一部の人々のためのものではないはず。あと、地方と首都圏では必要とされるキャリア教育の内容に差異が存在するような気がします。児美川先生も本書で言及されておりますがそれぞれの地域の実情も取り入れたというか。

 キャリア教育はもしかしたら、現在の大人にこそまずは必要なんじゃないかなと感じています。



20211010(日)

いい本です!

児美川孝一郎 『自分のミライのみつけ方』旬報社2021年

児美川孝一郎教授(以下 教授)は同書で5つの視点を提示している。
① フツーを疑おう 「これがフツー」「これが幸せ」といったことについての「当たり前」を疑ってかかろう。
② 「やりたいこと」の呪縛を解き放とう 夢や目標などにとらわれすぎない。
③ 働くことのイメージを豊かにしよう おそらくきみは、働くことについてある種の固定的なイメージを持っていると思う。そこを思いきって突き崩していく。
④ 社会の変化を受け止めよう 今、世の中は劇的に変わっている。それをきちんと知ることも、新しい視点を持つことになる。
⑤ 発想を変えれば、学校の勉強はじつは役に立っている 今は信じられないかもしれないけれど、ぜひ読んでみてほしい。
新しい視点を手に入れることは、今より自由になれるということだ。親や教師といった身近な大人たちだけでなく、この社会全体に巣喰い、今でも影響力を持っている古くさい常識やら価値観から自由になれるという意味でもある。

いつも、教授のご高説はごもっともと僕は思います。特に職業柄、⑤の視点は重要だと思います。一人ひとりの若者たちが(もちろんおじさん・おばさんたちも含めて)勉強して職業的能力や市民的能力(地域の諸問題を民主的に解決していく能力)を高めることはその当人もさることながら、世の中もよくなることにつながることでしょう。そのためにも勉強をよく理解できるための道筋を解明するよう努力し、それによって得られた成果を自分自身の責任ではない理由で学業不振・学業忌避に陥っている子どもたち(未来の創造者)にこそ伝達することが、今の教育関係者の喫緊のめっちゃ重要な課題であると僕は思いました。

おせっかいですが勉強のアドバイスを一つ。特に外国語を勉強する時は、辞書を引きましょう。紙辞書を!

利用者の立場に立った辞書は決して単語集ではありえない。単語は文の中でしか生命を持ち得ないのであり、従って連語関係の脈絡の中で個々の単語の意味を明確にすることを本来の使命とすべき辞書は、単語集の対極に位置するものだからである。
            小学館 ロベール仏和大辞典より



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