2017年8月6日(日)
「地べたにはポリティクスが転がっている。」p285
2017年5月7日(日)
男たちは、障害者運動に夢とロマンをかけ、女たちは、日々の生活をかけた。
荒井 裕樹『差別されている自覚はあるか』現代書館2017年
新進気鋭の障害者文化論・日本近現代文学の研究者である荒井裕樹氏が横田弘氏の行動・文学作品を対象として研究するなかで人間とは何かという問題に挑戦した作品。横田氏に優しく、でも、とことんくらいついていく荒井氏の姿勢がとにかくすごいです。さらに、運動家として、また詩人として一切の妥協をゆるさないでどこまでも自分自身を掘り下げていく横田氏も圧巻です。本作品には魅力的な方々が数多く取り上げられています。ぜったい、読んだあとでみえてくる世界が違ってきますよ。
あんなにラディカルな主義主張を繰り広げた「青い芝の会」。
その精神的主柱となった「行動綱領」を起草した横田弘。
その彼が憧れていたのは、こんなにも、ありきたりなものだった。
多くの人が憧れるような、あまりにもありきたりのものを、横田弘も欲していたのだ。
普通の人と同じように、脳性マヒ者も、人から生まれ、人を産む。
その産み-生まれる環の中に、普通に、脳性マヒ者も存在する。
そんな、いのちの環の中に脳性マヒ者がいることを、あなたはどう思いますか?
ただそれだけ、本当に、ただそれだけを問うために、横田弘は闘ってきたんじゃないか。
(同書272~273頁)
題目は内田みどり氏「私と『CP女の会』と箱根のお山」九~10項(同書291項)の一文です。
新進気鋭の障害者文化論・日本近現代文学の研究者である荒井裕樹氏が横田弘氏の行動・文学作品を対象として研究するなかで人間とは何かという問題に挑戦した作品。横田氏に優しく、でも、とことんくらいついていく荒井氏の姿勢がとにかくすごいです。さらに、運動家として、また詩人として一切の妥協をゆるさないでどこまでも自分自身を掘り下げていく横田氏も圧巻です。本作品には魅力的な方々が数多く取り上げられています。ぜったい、読んだあとでみえてくる世界が違ってきますよ。
あんなにラディカルな主義主張を繰り広げた「青い芝の会」。
その精神的主柱となった「行動綱領」を起草した横田弘。
その彼が憧れていたのは、こんなにも、ありきたりなものだった。
多くの人が憧れるような、あまりにもありきたりのものを、横田弘も欲していたのだ。
普通の人と同じように、脳性マヒ者も、人から生まれ、人を産む。
その産み-生まれる環の中に、普通に、脳性マヒ者も存在する。
そんな、いのちの環の中に脳性マヒ者がいることを、あなたはどう思いますか?
ただそれだけ、本当に、ただそれだけを問うために、横田弘は闘ってきたんじゃないか。
(同書272~273頁)
題目は内田みどり氏「私と『CP女の会』と箱根のお山」九~10項(同書291項)の一文です。
2017年4月2日(日)
アメリカ地域社会における子どもが大人になる発達過程についての研究
昨年の米国大統領選挙で共和党候補のトランプ氏が勝利しました。氏は、メキシコと米国の国境に壁を建設するとか、イスラム教徒入国拒否などの政策実施を主張して多くの支持を集めました。他の政治的な主張もあったとしても、なぜトランプ氏が米国大統領としてアメリカ国民に選出されたのか僕は理解できませんでした。米国で暮らす人々は、どんな思いをトランプ氏に託したのか?このなぞを解くために下記の本を購入して読んでみました。
ROBERT D.PUTNAM OUR KIDS The American Dream in Crisis SIMON&SCHUSTER PAPERBACKS 2015
『私たちの子どもたち 危機の時代のアメリカ人の夢』といった意味でしょうか。同書の構成は
Chapter 1 THE AMERICAN DREAM:MYTHS AND REALITIES 第一章 アメリカの夢 神話と現実
Chapter 2 FAMILES 第二章 家族
Chapter 3 PARENTING 第三章 親であること
Chapter 4 SCHOOLING 第四章 学校教育制度
Chapter 5 COMMUNITY 第五章 地域社会
Chapter 6 WHAT IS TO BE DONE? 第六章 今、何がなされなければならないか?
The Stories of Our Kids JENNIFER M.SILVA and ROBERT D.PUTNAM
Acknowledgements
Notes
Index
"the heartbreaking stories of poor kids in this book actually understate the tragic life experiences of those on the very bottom of our society, the most deprived of American kids."
・第一章では実際、PUTNAM教授が育った1950年代のオハイオ州 Port Clintonと約50年後の現在の地域社会の著しい変貌が最初に描かれている。50年代当時にもAffluent(特に経済的に豊かな)な人々もless Affluent(経済的に必ずしも豊かでない)な人々もいたが、そのような違いを持つ子どもたちは近隣に住み、一緒に学校に行き、遊び、ともに祈り、そしてデートさえした様子が多くのevidencesが用いられつつ描かれている。しかし、現在のこの地域は、社会階層によって住む地域がくっきりと分断されている(segregation)事実が明らかにされている。そして、お互いどのような暮らしをしているのかがさっぱりわかっていない。PUTNAM教授自身今回の研究プロジェクトを進める中で、米国社会の片隅に追いやられほったらかしにされている若者たちがどのように暮らしているのかをはじめて知ることとなったと同書において述べられている。
・社会的に不利な生育環境で育った若者たちの多くがdrug abuse,alcohol abuse,violence,teen pregnancyといった諸問題に直面している。また、特にブルーカラーの労働者層の多くの人々は不安定な就業状態あるいは失業といった状況に追いやられている。しかしその一方で、high skillを獲得した会計士、大学教授、弁護士、株式仲買人、大企業経営者といった職業の人々が社会の富を占有しつつある状況が拡大している。
・ただ、これらのgap(格差)あるいはinquality(不平等)の拡大化傾向は共和党あるいは民主党の両方の政権下でここ40年間で進行してきた。
蛇足
今回のトランプ大統領が誕生した大きな要因のひとつは、氏がアメリカ社会で不利な状況で暮らしている人々の不満や苛立ちを簡単な言葉で刺激しつつ、巧みにそのような人々の支持を獲得することに成功したということであろうと考えました。
でも、私は同書を読み進めていく中で、トランプさんが大統領になったことよりもPUTNAM教授が大統領とは異なった方法でアメリカ社会を再興しようとしていることのほうに興味を持ちました。現在、日本でも相対的貧困率が16.1%になっています。特に、シングルマザーの下で育っている子どもたちのしんどい状況がマスコミ等で報道されております。生育環境の格差は、教育達成の格差を孕みながら進行することが今回のPUTNAM教授の研究によっても指摘されています。アメリカほどではないにしても、社会の不平等が、子育て、家族構造、学校教育、そして、地域の安全や住民間の信頼構築に及ぼす影響といった問題はわが国にとっても喫緊の課題でもあると、私は考えます。同書ではmentors,mentoringという言葉が多く出てきました。もしかしたら、これらのことが地域再生のkeywordになるのではないかと考えます。同書の翻訳本も3月に出版されたみたいです。がちで、これからの世の中のあり方を考えている方にはおすすめしたい一冊です。
ROBERT D.PUTNAM OUR KIDS The American Dream in Crisis SIMON&SCHUSTER PAPERBACKS 2015
『私たちの子どもたち 危機の時代のアメリカ人の夢』といった意味でしょうか。同書の構成は
Chapter 1 THE AMERICAN DREAM:MYTHS AND REALITIES 第一章 アメリカの夢 神話と現実
Chapter 2 FAMILES 第二章 家族
Chapter 3 PARENTING 第三章 親であること
Chapter 4 SCHOOLING 第四章 学校教育制度
Chapter 5 COMMUNITY 第五章 地域社会
Chapter 6 WHAT IS TO BE DONE? 第六章 今、何がなされなければならないか?
The Stories of Our Kids JENNIFER M.SILVA and ROBERT D.PUTNAM
Acknowledgements
Notes
Index
"the heartbreaking stories of poor kids in this book actually understate the tragic life experiences of those on the very bottom of our society, the most deprived of American kids."
・第一章では実際、PUTNAM教授が育った1950年代のオハイオ州 Port Clintonと約50年後の現在の地域社会の著しい変貌が最初に描かれている。50年代当時にもAffluent(特に経済的に豊かな)な人々もless Affluent(経済的に必ずしも豊かでない)な人々もいたが、そのような違いを持つ子どもたちは近隣に住み、一緒に学校に行き、遊び、ともに祈り、そしてデートさえした様子が多くのevidencesが用いられつつ描かれている。しかし、現在のこの地域は、社会階層によって住む地域がくっきりと分断されている(segregation)事実が明らかにされている。そして、お互いどのような暮らしをしているのかがさっぱりわかっていない。PUTNAM教授自身今回の研究プロジェクトを進める中で、米国社会の片隅に追いやられほったらかしにされている若者たちがどのように暮らしているのかをはじめて知ることとなったと同書において述べられている。
・社会的に不利な生育環境で育った若者たちの多くがdrug abuse,alcohol abuse,violence,teen pregnancyといった諸問題に直面している。また、特にブルーカラーの労働者層の多くの人々は不安定な就業状態あるいは失業といった状況に追いやられている。しかしその一方で、high skillを獲得した会計士、大学教授、弁護士、株式仲買人、大企業経営者といった職業の人々が社会の富を占有しつつある状況が拡大している。
・ただ、これらのgap(格差)あるいはinquality(不平等)の拡大化傾向は共和党あるいは民主党の両方の政権下でここ40年間で進行してきた。
蛇足
今回のトランプ大統領が誕生した大きな要因のひとつは、氏がアメリカ社会で不利な状況で暮らしている人々の不満や苛立ちを簡単な言葉で刺激しつつ、巧みにそのような人々の支持を獲得することに成功したということであろうと考えました。
でも、私は同書を読み進めていく中で、トランプさんが大統領になったことよりもPUTNAM教授が大統領とは異なった方法でアメリカ社会を再興しようとしていることのほうに興味を持ちました。現在、日本でも相対的貧困率が16.1%になっています。特に、シングルマザーの下で育っている子どもたちのしんどい状況がマスコミ等で報道されております。生育環境の格差は、教育達成の格差を孕みながら進行することが今回のPUTNAM教授の研究によっても指摘されています。アメリカほどではないにしても、社会の不平等が、子育て、家族構造、学校教育、そして、地域の安全や住民間の信頼構築に及ぼす影響といった問題はわが国にとっても喫緊の課題でもあると、私は考えます。同書ではmentors,mentoringという言葉が多く出てきました。もしかしたら、これらのことが地域再生のkeywordになるのではないかと考えます。同書の翻訳本も3月に出版されたみたいです。がちで、これからの世の中のあり方を考えている方にはおすすめしたい一冊です。
2017年2月12日(日)
ご無沙汰しております
矢野眞和 濱中淳子 小川和孝『教育劣位社会』岩波書店2016年
「教育の経済問題」を経済学・社会学の方法でとりわけ日本の高等教育を対象にして考察している名著です。商売柄いつも僕が思っている、「やっぱ、勉強しなきゃダメだ」「勉強しないとあとで後悔する」「いろいろ大変だけどできるなら大学に行ったほうがいいよ」(もちろん大学に行かない生き方もぜんぜんアリだけど!)「多くの若者が定位家族(この言葉の意味がわからない方は調べてください(笑))の状況に規定されないで大学進学を果たすには社会がどうあればよいか」といった諸問題をそれぞれの方々が考えるためのスタートラインの基本事項が論じられています。
・日本人が教育を軽視しているわけではない。教育は大事だと思っているが、限られた財源を教育、とくに高等教育に配分すべきだとする政治勢力は弱く、資金配分の優先順位が低いのである。
ご存知の方も多いと思いますが、20年ほど前、道東のある都市でありましたよね・・・。
・第一に、OECD(経済協力開発機構)の標準からすれば、給付型奨学金が学生の主役であり、返済する補助金はローン(貸与)と呼ばれて、区別される。奨学金をスカラシップ(scholarship)と訳したりする人も少なくないが、スカラシップは返済する必要のない給付型(グラント)である。OECD統計による各国の平均値によれば、給付と賞与の補助金額がほぼ半々になっている。給付型奨学金がないのは、日本ぐらいである。しかも、日本は大学の授業料が高い。ヨーロッパ大陸諸国では、「授業料が無償でも給付型奨学金のある国」が多いが、「授業料が高くて、学生補助が整備されていない国」は、日本と韓国とチリぐらいである。
・第二に、日本は(ブログ筆者)高等教育機関への公的支出が極めて少なくなっている。経済規模(GDP)に占める日本の公的支出の割合は、OECD加盟国諸国の中で最下位に属する。高等教育界では昔からよく知られた特殊性だが、「公的支出を増やすべきだ」という教育界の要望は、「国家の財政難」の一言で却下され続けている。
・大学教育には、それを受けた個人の生産性の上昇に伴う税収の増加、犯罪の減少や健康の促進などといった、個人にのみ還元されるわけではないさまざまな社会的利益が存在する。
・大学教育を受けた個人は、所得の増加によって、将来的により多くの税金を払うことになる。よって、もし大学教育への新たに税金を投入した際に、仮に高所得層の大学進学率をより押し上げたとしても、そうして進学した人々は、進学しなかった場合よりも多くの所得税を払うことになるだろう。そのため、低所得層で進学しない人々も、増加した税収によって、将来的には再分配などの面で利益を受ける可能性は否定できない。
「教育の経済問題」を経済学・社会学の方法でとりわけ日本の高等教育を対象にして考察している名著です。商売柄いつも僕が思っている、「やっぱ、勉強しなきゃダメだ」「勉強しないとあとで後悔する」「いろいろ大変だけどできるなら大学に行ったほうがいいよ」(もちろん大学に行かない生き方もぜんぜんアリだけど!)「多くの若者が定位家族(この言葉の意味がわからない方は調べてください(笑))の状況に規定されないで大学進学を果たすには社会がどうあればよいか」といった諸問題をそれぞれの方々が考えるためのスタートラインの基本事項が論じられています。
・日本人が教育を軽視しているわけではない。教育は大事だと思っているが、限られた財源を教育、とくに高等教育に配分すべきだとする政治勢力は弱く、資金配分の優先順位が低いのである。
ご存知の方も多いと思いますが、20年ほど前、道東のある都市でありましたよね・・・。
・第一に、OECD(経済協力開発機構)の標準からすれば、給付型奨学金が学生の主役であり、返済する補助金はローン(貸与)と呼ばれて、区別される。奨学金をスカラシップ(scholarship)と訳したりする人も少なくないが、スカラシップは返済する必要のない給付型(グラント)である。OECD統計による各国の平均値によれば、給付と賞与の補助金額がほぼ半々になっている。給付型奨学金がないのは、日本ぐらいである。しかも、日本は大学の授業料が高い。ヨーロッパ大陸諸国では、「授業料が無償でも給付型奨学金のある国」が多いが、「授業料が高くて、学生補助が整備されていない国」は、日本と韓国とチリぐらいである。
・第二に、日本は(ブログ筆者)高等教育機関への公的支出が極めて少なくなっている。経済規模(GDP)に占める日本の公的支出の割合は、OECD加盟国諸国の中で最下位に属する。高等教育界では昔からよく知られた特殊性だが、「公的支出を増やすべきだ」という教育界の要望は、「国家の財政難」の一言で却下され続けている。
・大学教育には、それを受けた個人の生産性の上昇に伴う税収の増加、犯罪の減少や健康の促進などといった、個人にのみ還元されるわけではないさまざまな社会的利益が存在する。
・大学教育を受けた個人は、所得の増加によって、将来的により多くの税金を払うことになる。よって、もし大学教育への新たに税金を投入した際に、仮に高所得層の大学進学率をより押し上げたとしても、そうして進学した人々は、進学しなかった場合よりも多くの所得税を払うことになるだろう。そのため、低所得層で進学しない人々も、増加した税収によって、将来的には再分配などの面で利益を受ける可能性は否定できない。