2016421(木)

検証・学歴の効用

この度の熊本地震で亡くなられた方々に哀悼の意を表しますとともに、避難生活をよぎなくされております多くの方々にお見舞い申し上げます。ご当地の一日も早い復興を強く念じあげます。

濱中淳子『検証・学歴の効用』勁草書房2013年
本書は下記の二つの濱田淳子氏(以下、濱田)の問題意識から、人生の手がかりを「教育」に求めながら、「学歴の効用」を捉えなおそうという目的で書かれている。
①「学歴の効用」の現状を正確に理解していると言い切れるか。大学全入時代をむかえ、同世代の約半数が大学に進学するようになった。大学教育のレベルは大きく下がっており、学歴の効用は、以前に比べて小さくなっているに決まっている。でも、ほんとうにそうと言い切れるのか。
②勉強し、教育を受け、学歴を取得すること以外に、自分自身の力で少しでも状況をよくする手段がどれだけあるだろうか。
濱田は教育社会学の方法で上記の問題に取り組み多くの興味のある知見を得ている。
・大卒学歴の効用は増大している。学歴別生涯賃金の推移(男子)をみたところ、「大卒独り勝ち状態」が生まれている。(同書より)
・高卒と大卒は「異質な人材」だとみなすことができる。スクール形式中心の教育とは異なって、能動的な学習が多くなる大学教育を受けた結果、大卒は「スーパー高卒」ではない、別のタイプの人材になっていることがうかがえる。(同書より)
・大学時代をどのように過ごしたかが、経済的効用を左右する。大卒というシグナル自体にも意味はあろうが、大学という場で学習する習慣や本を読む習慣を身につけ、社会に出てからもその習慣を維持している者においてこそ、経済的効用はより明確なかたちであらわれている。(同書より)
・女子にとっての大学進学は、「オールマイティー」な効果をもたらす。女子にとっての学歴の効用を、「大卒」、「短大卒」、「専修学校卒」の三つの比較のなかで検討したところ、短大卒、専修学校卒にもそれぞれ強みをみることができたが、大卒には、いわば「オールマイティー」な効果を確認した。(同書より)
・専門学校の効果は、資格につながる領域に限定して確認される。専門学校の卒業者の就業は要資格職(原則として、参入するときに資格が必要となる職業)、非資格職(参入するときに資格を必要としないものの、学んだこととの関連性が見出せる職業)に分けることができる。所得と就業意識を指標に教育の効用を分析すると、二つの効用ともにより強く確認できたのは、要資格職に従事している卒業生においてであった。非資格職に従事している卒業生に、目立った効用は認められなかった。(同書より)
・院卒学歴の効用は、現段階では小さいが、注目される教育機能もある。日本の大学院教育の効用はかなり小さい。文系領域を中心に、安定雇用につける者は少なく、就けたとしても大卒より高い所得を得ているわけではない。大学院進学者の学習意欲は強く、大学院は企業が用意できない教育を受けることができる場になっている。大学院で学んだ内容自体が何らかのかたちで仕事に役立っている様相も読み取れ、「大学院=一歩先に行くための契機となる教育機関」となりつつある可能性がうかがえたとしている。(同書より)
濱田はまとめの主張の柱として「学歴の効用、教育の効用は全般的に大きい」としている。

本書を読んで私が感じたことは下記の二点です。確かに大卒学歴の効用は認められるとしても、わが国の多くの若者は大学に進学し卒業後奨学金の返済に苦しめられています。わが国はOECDの加盟国のなかでも高等教育を受けるうえでの費用の家庭負担率がかなり高いほうにあるということを先行研究が指摘しています。これらの要因を検討しても「学歴の効用、教育の効用は全般的に大きい」という主張がはたしてできるのかという疑問をもちました。
あと、帯広・十勝には帯広畜産大学という立派な大学があります。勉強熱心な高校生が少なからずいる帯広・十勝で大学が一校だけでいいのかという疑問をもちました。本書でも議論されていますが、マーチン・トロウによれば現在の大学進学率は大衆化段階をこえてユニバーサル段階になっています。かつての旧帝国大学のように大学はエリートを育成するためだけの教育機関ではもはやないはずです。諸外国の共通認識は、大学の経済的効果が上昇しているから、教育投資を拡大するのが望ましいというものです。実際に、多くの国で大学の規模は拡大しつつあります。地域社会の発展という見地からも、20世紀末に帯広はかなりとんでもない選択をしてしまったのではないかと心配になりました。杞憂であることを祈ります。



2016414(木)

学校論の名著

勝田守一 中内敏夫『日本の学校』岩波新書 1964年
「地域の人々の労働や、「経済成長」のもとで急変する生活の深い根に結びつきながら、すべての子どもたちの素直に抱く疑問を発展させ、民族や人類が蓄積した文化と現代科学の世界にかれらを導いていく学校が、日本人の求め続けてきた学校ではなかろうか。そのためには、教師の自由で創造的な研究と教育の活動が保障されなければならない。それには、父母とともに、教師たちが、学校行事や学校生活の規律・学校環境などにからみついている形式主義を除いて、事務の負担を軽くし、子どもの創造性を引き出す授業を豊かにする努力を必要とする。地域の社会の人々と父母と教師とが、真の国民の形成をめざして、「民間公共体」としての学校をつくり出すことに成功すれば、国民は学校を、自分たちのものと感じられるであろう。」267ページより

戦後の日本の教育学をリードしてきた二人の碩学の学校論。歴史、社会という観点からわが国の学校教育の課題をあぶりだしている。50年も前に出版されているが、現代のわが国の学校教育を考えるうえでもきわめて有効な知見を提示している。特に、日本の学校が地域主義と結びつくことで発生する「でかせぎ」型地域主義という指摘は卓見である。つまりはこうである。地域主義の教育原理としての、アメリカのcommunity-schoolを地域の産業技術に教材を求め、学校を地域の開発や社会問題の解決の過程にとりこもうとする反中央集権的な動きであるとしている。その一方で、日本の学校の地域主義は、地域から多数の人材を育成し、送り出し、それを通して地域を重からしめるという意味では地域主義だけれども、その重くなるのは地域で育成された人材が中央とつながり、中央で名をなすという過程を通じてである、という意味では中央集権的であるとし、その違いを明らかにしている。子どもたちを育成する学校は、地域には背をむけて、ひたすら政・官界、学界、財界の上層をめざす中央集権的志向に貫かれていなければならない。それが真に地域を重んじるゆえんであるという、いわば村を出つつ、村を育てる「でかせぎ」型が、日本の学校の地域主義であるとしている。

この春も多くの若者たちが帯広を離れて行きました。学校の成績がよい子どもたちほど、都会志向は強そうです。また、そのような生徒を抱えている学校ほど人気がありそうです。こういう私も、高校を卒業し都会の大学に入るために当たり前のように帯広を出て行きましたから偉そうなことは言えません。ただ、帯広を出て行って、他の地域で新しい知識や技術を身に付けた人々が再び帯広に戻って暮らしていくしかけや他の地域の若者たちを帯広に引き寄せるしくみをつくる必要性を今さらながら強く感じます。これらの事がらを考えるヒントはやはり、学校で先生方が地域の産業界の人々と関わりながらなにを教えるのかということや帯広・十勝でなきゃ研究できないことはないのかということなどを追究すること、つまりは教育や学術研究の新たなテーマの探求にいきつくのではないかと考えるのは僕だけでしょうか?



2016317(木)

今の沖縄を知るための1冊

櫻澤 誠『沖縄現代史』中公新書 2015年

沖縄が辿った戦後約70年の通史。下記のような構成です。

まえがき
第1章 「沖縄戦」後の米国占領 1945~52
第2章 「島ぐるみ」の抵抗 1952~58
第3章 沖縄型高度経済成長1958~65
第4章 本土復帰へ1965~72
第5章 復帰/返還直後-革新県政の苦悩1972~78
第6章 保守による長期政権-変わる県民意識1978~90
第7章 反基地感情の高揚-「島ぐるみ」の復活1990~98
第8章 「オール沖縄」へ-基地・経済認識の転換1998~2015
あとがき

 いまだに大きい保革対立のなかで、2010年4月25日に開催された「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と県内移設に反対し国外・県外移設を求める県民大会」の頃から「島ぐるみ」に代わり、「オール沖縄」の呼称が一般的になってきました。このことをどのように理解したらいいのかという問題を考えるための最適な作品であると思います。
 その手掛かりとして「構造的差別」という言葉が沖縄社会で頻繁に用いられるようになったことがあげられるのではないかと同書を読んで学びました。沖縄現代史研究者の新崎盛暉さんによれば、「構造的沖縄差別とは、対米従属的日米関係の矛盾を沖縄にしわ寄せすることによって、日米関係(日米同盟)を安定させる仕組みである」としています。
 翁長雄志知事を含め、沖縄保守政治家は、沖縄県が日本の一員、一地域であることを前提とし、日米同盟の重要性を認め、必要な基地については同意する立場をとっています。その上で、合理性のない不必要な基地の整理縮小を求めてもいます。
 沖縄の人々の「沖縄人」そして「日本人」としてのアイデンティティを理解するためにも櫻澤 誠氏の「沖縄現代史が辿った道のりを、可能な限り偏見をもたず、直視することが重要なのである。」という主張に賛同しました。



2016314(月)

今年度の塾生募集チラシ

今年度の塾生募集チラシ

今年度の塾生募集チラシをアップしました!

今年度塾生募集チラシ



201623(水)

速報Ⅱ

一昨日、浦河赤十字看護専門学校の一般入試の合格発表がありました。当塾の塾生が一人合格しました。ナースになることは、彼女の中学時代からの夢でした。高校では部活の副部長をやり、立派にその任務を果たしました。当該部は十勝代表として全道大会に出場しました。勉強もよく頑張り、学業評定はきわめて優秀でした。高校時代のご馳走をすべて満喫した3年間だったのではないでしょうか。
塾では特に英語をよく頑張りました。紙辞書を丹念に引き、文法の要点(単語の品詞など)に注意しながら、イディオムを覚えつつ、英文を検討し着実に力をつけていったことが今回の結果につながったのでしょう。

「患者さんに、医療従事者のなかで言葉通りの意味でいちばん近い存在であるナースとしてご活躍される日をイメージしながら益々勉強頑張ってください。」



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